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教室に入ると、葵は僕が使っていた机の下に潜り込んで何かをしていた。
「葵、何してるの?」
「えっ‥瑛太…。なっ‥何もしてないよ。瑛太の書いた相合い傘を見てただけ」
葵は慌てて後ろに何かを隠していた。
「それは別にいいんだけど、島崎先生に余計な事を言ったでしょ?」
「余計な事じゃないよ」
「別に今言う必要ないよね?」
「ならいつ言うの?」
「今でしょう。…じゃなくて、何で今なの?」
「島崎先生には、いずれお世話になるんだから、今ここで言っといたっていいんじゃないの?」
「でも、今言っても島崎先生には何の事だかわからないよ」
「だって私には今しか…‥」
か細く消え入りそうな声は、僕の聴覚では拾いきれなかった。
「ごめん、聞こえなかった」
「うぅん。いいの…」
「ごめん、葵…‥」
「いいって。何で何度も謝ってんの?」
「何でもない…」
「変なの?」
「それより、僕らの子は女の子で、名前は遥香?」
「知らない方が良かったよね? それに、このままだと瑛太は私と結婚する事になっちゃうよ…」
「それならそれで構わないよ」
「ゴメンね…」
葵の“ゴメンね”の一言が、妙に胸にグサリと突き刺ささり、しばらく頭から離れなかった…。
こうして僕らの小学校の見学は終わった。
それから数ヵ月間は僕の思い出の地に足を踏み入れる事はなかった。
その間、僕らは普通にデートをして色んな所に出掛けた。
買い物をしにデパートに行ったり、映画、カラオケ、ボーリングなどをして楽しんだ。
そして、小学校に行ってから数ヵ月後のある日曜日、僕らは駅で待ち合わせをしていた。
「瑛太、今日は瑛太の中学校に連れて行ってくれるんでしょ?」
「もちろん、お連れしましょう」
「やったー」
「そう言えば、今日は中学の卒業アルバム持って来なかったけど、いいの?」
「言うの忘れてた…」
「今度見せてあげるよ」
「ほっ‥ほんとに? 嬉しいな~」
全然嬉しそうには見えなかった。
「本当に見たい?」
「えっ!? もっ‥もちろん。すっごい見たいよ」
ウソ臭いな…‥
さては何か隠してるな…‥
「いっ‥いいから行こうよ」
葵は、話をはぐらかすかのように慌てて走り出した。
そして今、中学までの通学路を歩いているが、小学生の時のように楽しい思い出などなく、何のエピソードもなかった。
「瑛太は、いつも誰と帰っていたの?」
「1人だよ」
「サッカー部の友達と帰らなかったの?」