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こうやって間近に見ると、雰囲気が恵ちゃんに似ている。


美人だし、相手をジッと見つめてくるところも、どこか小動物っぽい雰囲気や、好奇心旺盛そうなところも、全部似ている。


身長こそ佳苗さんのほうが高いものの、スリムな体型も同じだ。


色んな意味でドキドキして佳苗さんを見ていると、彼女はクシャッと笑顔になり、鋭く手首のスナップを利かせると「やぁ~だ~!」と言った。


「すっごい美形じゃない~! 恵ったらもー!」


明るく言われて「どうやら性格はあまり似ていないのかも……?」と思ったが、とにかく好意的に見てもらえて良かった。


この顔に生まれて良かった事も悪かった事も数多くあるけれど、佳苗さんに気に入ってもらえたなら、それ以上の事はない。


「ありがとうございます」


自分でもあざといと思うが、俺は感じよくニコッと笑う。


「こちら、どうぞ召し上がってください」


そう言って、俺は菓子折を差しだす。


「あら~! ありがとうございます! 気が利く男はいい男よ」


彼女はそう言ったあと、「ちょっとお話しましょうか」と外を指さした。


緊張しながら廊下に出ると、佳苗さんは溜め息をついてから微笑み、頭を下げた。


「今回は娘が危ないところを助けてくださり、ありがとうございます」


「い、いえ! ……僕は彼女の危機に間に合いませんでした。お礼を言われる筋合いはありません」


「でも、三日月さんがいらっしゃらなかったら、恵は酷いトラウマを抱えて、会社で平気なふりをして勤務していたかもしれません。……あの子、割とあけすけに言うようでいて、肝心な事は我慢してしまうタイプですから」


まさにその通りな事を言われて黙ると、佳苗さんは微笑んで続ける。


「今日朱里ちゃんと一緒に会社を休んで、三日月さんのお宅でゆっくり過ごすように言ってくださったのも、あなたの判断なんですよね? 今あの子が親友と安全な場所でゆっくりできているなら、親としてお礼を言わなければなりません」


「……友人が発案し、僕が場所を提供しました」


俺は曖昧に微笑み、自分の手柄だけではないと伝える。


本当は何もできなかったという無力感、悔しさのほうが強いのに、佳苗さんにそう言われてしまっては反論できなくなる。


「きっと三日月さんは、私や恵が思っている以上に自分を責めているでしょう。それで十分なんですよ。事件が起こる前に察知して止めるなんて、スーパーマンみたいな事は誰にもできないんですから」


「……ありがとうございます」


お礼を言うと、彼女はニコッと笑った。


「……あっ、すみません。遅れましたが、僕はこういう者です」


名刺を渡していない事を思いだして慌てて差しだすと、彼女は「あら私も」と自分の名刺をくれた。


そのあと、佳苗さんは俺の名刺を見て「あらあらあらあら……、まぁぁ……」と声を上げる。


それから俺をしげしげと見たあと、屈託なく笑った。


「恵ったら凄いわね。こんな極上の御曹司を射止めるなんて。……三日月さん、正直に言って、あの子のどこが良かったです? 母のイチオシは塩対応なんですけど」


ヒソヒソと言われ、俺はつい笑う。


「まさにその塩対応にやられました。……ご想像の通り、女性から好かれやすい見た目、立場ではあるのですが、まったく目もくれない恵さんを見て、グラッときてしまいまして」


「あの子、変わってるのよ。普通の女性が喜ぶような事には興味を持たないの。『服を買う』って言って出かけたら、アウトドアショップに行って防寒具を買って、冬のソロキャンの装備を整えているのよ。……モデルの母としては、もうちょっとお洒落に目覚めてほしいんだけど……」


「そういう所が魅力的で堪りません。僕もアウトドア大好きでして、国内海外問わずあちこち行っています。海外ではバックパッカーの経験もあって、なかなかサバイバルには自信がありますよ」


「あらやだ素敵。今度みんなでキャンプしたいわね。うちの愚息共も集めて、三日月さんの爪の垢を飲ませたいわ」


「はは、そんな……」


佳苗さんと話していると、いつの間にか緊張がとれていた。


話していると、彼女は器の大きな人に思える。


ちょっとやそっとの事では動じず、娘が事件に巻き込まれたと知っても落ち着いている。


本当はいてもたってもいられないだろうが、まず恩人であり、恵ちゃんの恋人と名乗った俺にきちんと対応しなくてはと、気丈に振る舞っているのだろう。


「恵さんは今僕の家にいるのですが、朱里さんと家政婦さんと一緒です。今朝一緒に食事をした時も、かなり落ち着きを取り戻しているように思えましたので、ご安心ください」


「ご丁寧にありがとうございます」


佳苗さんは微笑み、少し遠慮がちに尋ねてきた。


「……娘が心配なのですが、本当にこのあと三日月さんのお宅に伺っても宜しいんですか?」

部長と私の秘め事

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