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──追憶、落っこちて、堕ちて──
どれくらい前だったか、もう忘れそうで忘れないあの日。俺には何となく分かる。
大体、何年か前…かもしれなかったか。俺はかつて…とある帝国の海軍の大将だったんだ。
その時、国の命運を賭けた戦いが繰り広げられていたんだ。
「お前ら!!目の前に居る奴は全部敵だ!!!絶対にこの帝国を守る為に、あぁ、絶対にな!!!」
そんな感じで、俺は仲間に叫び、敵と戦っていた。
ここは海の上、俺は船の上、ただただ仲間に命令を下し、耳には大砲の音が、敵や味方の断末魔が次々と入る。敵が俺のいる船に乗ってくれば、その度にブチのめして海にぶん投げた。
血みどろが過ぎる戦いは、海の中の生き物達も傍観していた。ただ、海に落ちて沈む死体を、魚や海藻共は見ていた。でも、魚達は知らない。上じゃ残酷な光景が見えるのに、それを知らずに、魚達は落ちて沈む死体をただ見ているだけなのだ。けれど、戦況は海の上じゃあ、一瞬であっという間に変わってしまうのだ。
…その時だった。
海の様子がおかしい。水面には大きな影がある。その時、俺は敵の魚雷だとか潜水艦だとか、そう思っていた。血で妙に紅く濁っている水面からは、ほのかに塩と鉄が混ざった様な香りがする。
そんな気がしたのは、一瞬だけだった。
すると、俺が乗ってた船が大きく揺れた。
地震でも、敵の潜水艦でもない。じゃあ何だ?そう考えているのも束の間、俺は船から足を踏み外していた。ただ、他の船が壊れる音も耳に入らず、ただ、断末魔も耳に入らないまま…
バッシャーン!!!
俺は海に落ちた。ただ、水の中の音が耳に入る。泡が俺の身体を包む。ただ、それだけだった。
…俺はどこまで沈むんだろう。
その時、瞼を瞑りかけていた俺の視界に、大きい何かが見える。
何だろう。きっと魚雷に違いない。
そう思っていた。でも違う。
「…レーヴィン。」それは…俺の名前を呼んだ。そして、それは…俺の目の前にいた。
「…ぉ前…は…」俺の言葉は、泡の様に消えていく。
「俺の名はリヴァイアサン。…お前の事を、昔から見ていた。」
俺の事を見ていた…?一瞬、あり得ないように思えた。でも…俺は一瞬で理解し、また視線をソイツに向けた。「…そう…だったのか。」
…あぁ、この時間でさえも、俺の命はだんだん短くなる。言葉が泡沫に消えていく。
「なぁ…俺の願いを…聞いて…くれ。」「あぁ、聞こうじゃないか。」
まだ、耳に水の音が聞こえる。そして、俺はゆっくりと瞬きを1回して、こう言った。
「俺は…お前と一緒にいたい、いや…お前と永遠を過ごしたい。」
「俺の全ても、何もかも、骨も肉も皮も内臓も全部…お前の物だ。全部お前の物にしてやる。」
「だから…俺とずっと一緒にいてくれ。」
…俺は、そっとその龍にキスをした。人間と龍は、身体の比率も違うのに、俺はそっとキスをした。
いつの間にか、涙が出ていた。…その涙も、上に上に浮かぶ。龍の唇は、鱗が唇に触れると、心地よい様な触感がする。
俺の口に何かが入る。それは、大きな龍の舌の先だった。
口にいっぱいいっぱいに入りそうな大きい舌の先が、俺の舌と絡む。
その舌は、俺を離そうとしない。ただ、絡み合って、絡み合って、その舌はやがて離れる。
舌が離れたその時、一瞬の内に俺の身体に痛みが走る。
「ぁ゛…い゛だ…ぃ゛……」ボコボコと、俺の口から泡が溢れる。指の間から、耳や背中、うなじの方から、何かが生える。俺は一度見たが、生えていたのは、魚のヒレだった。
また、痛みが迸る。首の方から、脇腹の方から、身体から肉が裂ける様な痛みがする。
その痛みも束の間、だんだん息が楽になっていく。
後ろ腰の方からも、何かが生える。これは何だ?と、思う暇もなく俺は悟る。
俺は理解した。
俺は魚人になった…のではない、俺は”悪魔”になったんだ。
そして俺は視線を龍に…いや、リヴァイアサンに向ける。
「レーヴィン、これでずっと一緒に、いや、共に永遠を過ごせれるな。」
「いや、これから俺は、お前の名で偽らせてもらう。」「レーヴィンは…お前だけが呼んでいい名にしよう。」
「俺はこれから、リヴァイアサンとして名を名乗る。俺はそうするぜ。」
「レーヴィン……あぁ、俺もそう誓おう。」
ただ、息がラクになった後は、国の事も何もかも忘れて、俺はリヴァイアサンの事を抱きしめようとしていた。こんなに大きな身体に、俺は抱きつこうとした。
「一緒に堕ちていこう。」
やがて、俺は耳に入る水の音も忘れて、眠りにつく。
今の俺は…何だろう。けれど、今でも忘れられない。
……後悔も何もかも、海と一緒に消えていくのかな。
そんなくだらない事を考えたあと、俺は立ち上がる。そして、また地面に入り、泳ぎだす。
「今日は何しよっかな〜…」
また、俺は暇になった。
─追憶、何も護れなかった俺に告げる─
とある日、俺は弟達の間に子を授かった。そして、その日、その授かった子が生まれた。
「兄さん、名前…どうしよっか?」と、弟の声が聞こえる。
「あぁ、名前は…ショータルにしよう。」「へぇ〜いい名前だな、兄ちゃん!」
産声を上げ、静かに俺の腕の中に、暖かく、朗らかな赤子を抱え、そっと抱きしめる。
それが悲劇の始まりだと知らずに、俺は赤子を抱きしめた。
その日から、俺は仕事と育児を両立しなくちゃいけなかった。
子を育てると言うのは、とても大変だと思う暇もなく、休む暇もなく、俺は寝る前にはもう、グッタリと、死んだ様にベッドに倒れ込んで、我が子を優しく寝かしつけ、俺も一緒に寝る。
でも、そんな日が続く訳では無かった。
ある日、冥界の民の耳に、「魔法少女」の噂が入り、その民はその「魔法少女」に会おうと、わざわざ人間界の方にまで行ったらしい。だが、こんな事が起こるなんて、俺も…弟のゼウスも思っていなかっただろう。
…その民は、「魔法少女」に○されんだ。
その日から、仇を取ろうとした民達が、人間界に行っては殺られるを繰り返していた。
それはエスカレートし、やがて俺の冥界の軍の者達は警戒するようになった。
「せめてのもの、お前だけは…」
なんて、俺はそっと、何も分からない我が子に言って見る。
「ぁーう!」
我が子は、俺の顔を見て安心したのか、笑っていた。俺も笑っていた。
悲しい事に、俺は悲報を聞かされた。
魔法少女達が、冥界に迫って来ているらしい。
やがて数時間後、冥界は戦火に包まれ、無抵抗だった民達は無残に○されていた。
軍の者達ももう瀕死、やがて俺は、「魔法少女」とやむを得ずに戦うハメになった。
あぁ、こんな事が起きなければ。あぁ、こんな事さえなければ。
たちまち、魔法少女は光に包まれ、やがて神のようになる。そして、俺は玉座の側にあるゆりかごに寝かせていたショータルの元へ行こうとする。
間に合わない。もう駄目だと、俺が思ったその時だった。
俺の側近が、俺を庇った。
ただ、束の間の出来事だったのか、俺は唖然とするしか無かった。
「冥王…様…」その言葉が、やがて消えていく。
俺は、最後の足掻きにと、俺の壊れてしまった斧を魔法少女にぶん投げた。
魔法少女は、危険と感じ、逃げた。
血まみれになりながらも、俺は再び我が子が眠るゆりかごへと足を進めた。
我が子は、ただ俺の顔を見て笑っていた。そして俺は我が子を腕に抱え、そのまま城を出た。
「…あぁ、無事で良かったな。」
俺はそう、界を繋ぐための船頭に言い、弟のゼウスがいる神界まで行かせて欲しいと頼み、
俺は船に乗った。ただ、波に揺れ、民の中で無事だった船頭とさり気なく話す。
俺は神界に着き、俺は弟のゼウスに会いに行った。
何故か都合よく、仕事が終わったゼウスが俺の元に来た。…その時は、非常に困惑していたのだ。
「ゼウス、この子を…頼めるか?」「えぇ!?兄さん…どうして…」
俺は一旦、深呼吸し、視線をゼウスに合わせ、こう言った。
「…今の俺には…この子を見る事は出来ない。」
そう言った途端、俺は我が子をゼウスに預からせた。
後悔はしていた。我が子と離れる事が、俺には辛かった。けれど、今の状況だと、無理かもしれない。
でも、きっとまた大きくなればまた会える。俺はそう感じ、自らの黒く、夜闇よりも黒い翼を広げ、
俺は冥界に戻った。誰も居ない城の中、ただ俺は一人ベッドに寝転がり、そのまま眠りに着いた。
………………………………………………………
翌日。ゼウスが俺の元に来た。我が子の事を聞いたら、大丈夫だと聞かされたので俺はホッとした。
そして、昨日の事を全て話した途端、ゼウスが俺に抱きついてきた。
「ゼウ…ス…?」
確かに、暖かかった。ゼウスの体温が、俺の服を通して、肌にまで伝わってくる。
優しく、俺を包むように、俺は抱きしめられた。
静かな時間が続いた後、俺に微笑みを見せながら、弟はこう言った。
「兄さんのことは僕が守るから。だから、兄さんは心配しなくてもいいよ。」
そう言った途端、抱きしめるのを辞め、「じゃ、また。」そう言って、彼は仕事に戻っていった。
その時、俺は思いもよらない事を、数日後に聞かされた。
ゼウスが、魔法少女を○したらしい。
ただ、耳に入った時は、困惑と悲しみに打ちひしがれ、手を振るわせていた。
その日の夜、ゼウスに呼ばれ、俺は神界に来た。ただ、俺はそれだけで良かったと思っていたのに。
……………………………………………………………
嗚呼、何故だ、何故なんだ。
俺はどうしてこんなにも愛されないといけないんだ。
ただ、舌を絡める音が部屋に響いては、吐息や喘ぐ声でさえも部屋に篭もる。
「兄さん、気持ちいいでしょ?」
ゼウスに度々そんな事を聞かされては、ただ俺は身体を抱きしめられ、ただ弟に身を任せ、交わるばかりだった。そのまま、俺は快楽に堕ちていく。
そのまま、快楽に堕ちていった後、俺は天を仰ぎ見て、ハァハァと息を漏らすばかりだった。
快楽が頂きに達すれば、その日の交わりは終わる。
服は剥がれ、剥き出しの身体のまま、俺はゼウスに抱きしめられながら寝てしまった。
眠りについた後の俺はただ、どうして、どうしてと夢の中で嘆く、今はそれしか出来ない。
あの子を護れなかった事、弟が変わってしまった事も、全て嘆いた。
ただ、自分を責めている事しか出来ずに、俺は悲しみに打ちひしがれる事しか出来なかった。
俺のこの翼を根元から折りたい、翼を燃やしてしまいたい。でも、この翼は、あの子の為にあったのかもしれない。
もし、あの子に何か言えるとしたら、こう言いたい。
「ショータル、護れなくてごめんな。」
と。
─Prolog② Fin─
〜Prolog③に続く〜