テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
〖グレーゾーン〗
第三話
〔 青空視点 〕
消毒のにおいが、少し苦手。
椅子に座ってるだけなのに、 なんでこんなに落ち着かないんだろう。
時計の音が、やけに大きく聞こえる。
カチ、カチ、カチ。
ひとつ進むたびに、 なにかを急かされてるみたいで。
〈青空くん〉
名前を呼ばれて、 びくっと肩が揺れた。
立ち上がるの、ちょっと遅れたかも。
スリッパの音が、廊下に響く。
診察室のドアの前で、 一回、息を止めた。
……だいじょうぶ。
そう思ったのに、 ドアノブに触れた手が、少しだけ冷たかった。
〈どうしましたか?〉
うまく、言えない。
なんて言えばいいのか、わからない。
困ってることは、たくさんあるはずなのに。
言葉が、出てこない。
代わりに、喉の奥がぎゅっとなる。
……ぁれ、なんで病院来たんだっけ。
さっきまで、わかってた気がするのに。
あぁ、だめだ。
〈…学校、疲れる?〉
先生は、ゆっくり聞いてくる。
うなずくことはできた。
でも、それだけ。
〈集中できなかったり、やらないといけないこと、後回しにしちゃったり〉
なんで、わかるの。
顔を上げた。
先生は、こっちをちゃんと見てた。
怒ってない顔で。
〈頑張ってるんだね〉
その一言で、
なにかが、ほどけた気がした。
「……がんばってる、のに……」
小さくこぼれた声は、 自分でもびっくりするくらい弱かった。
〈…うまくいかないこと、あるよね〉
こくん、とまたうなずく。
〈青空くんはね、“グレーゾーン”かもしれない〉
グレー。
白でも、黒でもない。
〈できることもあるし、ちょっと苦手なこともある〉
〈でも、それは怠けてるわけじゃないよ〉
「……そう、なの?」
それだけで、
少しだけ、息がしやすくなった。
でも。
全部が楽になったわけじゃない。
明日の宿題も、 やらなきゃいけないことも、
なにも変わってない。
ただ、
「ぼくがダメだから」じゃないかもしれないって、
思えただけ。
それだけなのに。
さっきより、少しだけ軽かった。
✄ - – - – - – - – - – - – - – - – - –
〔 瑠唯視点 〕
廊下の端で、順番を待つ。
名前を呼ばれて立ち上がった子が、 少しだけ、ふらついた。
ああ、あの子、知ってる。
できひんわけやない。
でも、できるとも言いきれへん。
一番しんどい場所におるやつ。
ああいうのは、目につく。
嫌でも、入ってくる。
目が合いそうで、先に逸らした。
あの子の救いに、俺はなれへん。
…ああいうやつ、
どこに行けばええんやろな。
…俺も、わからんけど。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!