Side青
店のドアをくぐると、男性店員が近づいてきた。
「あ、中で友人が待ってるんで…」
店内を見回すと、奥のほうのカウンターに座って早々にラーメンを食べている慎太郎の背中を見つけた。気を遣わせない彼なりの気遣いだ。
「お前、早ーな」
笑いながら付けていたマスクと薄い青色のサングラスを外す。でも笑い方が少しぎこちないかもしれない。
「いやいや、樹が遅いんだよ」
確か約束の時間は過ぎていないはず…と腕時計を見ると、隣に座るように慎太郎が促した。
「…やっぱり緊張してる?」
彼がうかがうように訊いてくる。隠すのも悪いと思い、小さくうなずいた。
「ごめん、俺があんなこと言うから……」
俺に似た金色のピアスが揺れる。
「違う。むしろ俺が期待に添えなかったから申し訳ないと思ってる。どうしてもお前は…今までの慎太郎と同じなんだ」
そっか、とつぶやいて音を立てて麺をすする。
やってきた店員に注文した。
「このこと、みんなに言ったほうがいいかな?」
意外にもか細い声なものだから、面食らう。
「まあ…秘密でいいんじゃない」
「でもSixTONESでは隠し事しちゃダメって決まってるよ?」
うーん、と少し考える。
「これはSixTONESの中の俺らの問題じゃなくて、2人の男としての問題。だからあえてみんなは関係ない」
慎太郎は神妙な顔でうなずく。
「何事もなかったってことでいいじゃん」
運ばれてきたラーメンを並んで食べていると、やっぱりいつも通りだなと思う。
でも気のせいか、少しだけその横顔が寂しそうだ。
俺は今しがた飲んだばかりのレンゲでスープをすくい、
「慎太郎の、醤油だろ? 塩も美味いよ。食べてみな」
顔を向けた彼の口に近づける。素直に飲んでくれた。
「うん、美味い」と言ってからその真意に気づいたようで、途端に耳が赤くなった。
「え、ちょ、樹…」
「今日だけ特別サービスな」
えー、と残念がる。
「…でも、樹と一緒のラーメンはいつもの6倍美味い」
「なんでわざわざ6倍なんだよ」と笑う。
喜んでくれているようで良かった。
「なあ、俺って失恋したってことなのかな」
突然そんなことを言い出すから、危うく麺を口から出してしまうところだった。少し咳き込みながら訊き返す。
「え?」
「でもその相手となぜか今飯食ってる」
「…これだけじゃ物足りない?」
そんなことないよ、と首を振った。
「むしろ失恋したのに楽しくてラッキー」
持ち前の明るさを見せていて、安堵する。
確かに、振ったという自覚はあまりない。変わらず友達のままだから。
「じゃあせめてものお詫びとして奢らせて。やっぱ何か申し訳ない」
食べ終えて伝票を取り上げたこの手を、慎太郎に掴まれる。
「いいって。樹からの詫びなんていらない」
まるでドラマみたいなカッコいい台詞をもらい、彼と半分ずつ出して店を出る。
「んじゃ、俺あっちでタクシー拾うわ。またな」と慎太郎は踵を返す。
その背中に、「また寂しくなったらいつでも飯誘えよ」なんて言ってみた。
慎太郎は片手を上げて応えただけだった。
終わり
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