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Side赤
掃き出し窓を開けると、建物に囲まれた空がある。
ペンキで塗られたみたいな青一色。
俺はベランダに置いてある椅子に腰掛け、日向ぼっこを始める。こんな呑気なことができるのも、オフのおかげだ。
鼻歌をうたいながら気持ちのいい午睡に入ろうとしたところ、もう一人オフの人間がやってきた。
「最近ずっとそれお前に占領されてるんだけど」
高地は不服そうに言う。この椅子のことだろう。
もとは彼のキャンプ用だったが、べランピングとかいうのでここに運び入れてからは俺が使っている。
なんせ、お昼寝のベストポジションにあるんだから。
高地は中に入ると、どこかに行ってしまう。しばらくして戻ってくると、手に同じ椅子を持っていた。
「AHAHA、それもういっこあるんだ」
「お前とのキャンプ用に買ったんだよ」とツッコミを入れられる。
高地は俺の向かいに座った。「ちょっと狭いな」
確かに東京のマンションのベランダに、平均身長越えの成人男性が2人ではやはり狭い。
足を縮こめながら、また鼻歌の続きをうたう。
その陽気なメロディーに、高地の声も乗ってきた。あったかくてまるで今日の太陽みたいに明るい声が。
俺も鼻歌をやめ、一緒に歌う。ときどきハモリも織り交ぜながら。
「……やっぱジェスは上手いな」
「こーちもね」
と、高地は空からこっちに視線を戻し、
「やっぱ嫌だ」と放った。
「え、何が? うそ、俺こーちに嫌われちゃった?」
慌てる俺をニコニコと笑う彼。
「そろそろ『高地』呼び、飽きた。優吾にして」
そういえばずっと高地で呼んできたから今さら変える気なんてなかったんだけど、恋人としては下の名前で呼んでほしいのだろう。
「……ゆーご」
途端に彼は顔をくしゃっとして笑って、抱きついてきた。
「嬉しい、もう一回!」
「HAHA、バカお前外だぞ」
「お前とか言うなよお前」
「そっちも言ってるじゃねーかよ」
なんて軽々しく言い合いながらも、どっちも笑顔で何だか嬉しくなってくる。
「あっそうだ。今日、これからどっかお出掛けする? 晴れてるし。…たぶん車からは出られないけど」
「えー、優吾と一緒に家にいたい」
そっちが居候のくせに、とまた突っ込まれる。
「じゃあその代わり、夜は覚えとけよ」
そのキリッとした視線にぎくりとなる。
たまに見せるこういう男らしい表情が、なぜか俺を酔わすんだ。
「Of course」
一瞬だけぽかんとした高地に、してやったりの笑みを浮かべた。
続く