黄赤 微桃赤あり
呪い
※ハピエン厨なので最後は必ずハピエンです
ただ愛されたかっただけだった。
家は6人兄弟だった。
親は俺が16歳の頃死んだ。
俺が殺した。包丁で。
ただ、すごく死んで欲しかった。それだけ。
気が付いたら目の前で血を流して倒れている親。
父親は苦労した。途中、頭を酒瓶で殴られたから。だから視界が赤いのかと、ふわふわとした脳で考える。そんな事どうでもよかった。
母親は泣いていた。口がはくはくと動いていたから、きっとまだ痛みに苦しんでいたんだと思う。
最期、「ごめんね。」と頭を撫でられた。
殺してしまった。終わらせてしまった。
初めて触れた母のその暖かい手に驚いた。涙が頬を濡らした。
血に染った手を見る。手がズキズキして、殺してしまったという罪悪感と解放感と喪失感が体内を駆け巡っていった。
急いで鏡で自分を見る。そこに映っていたのは、真っ黒に染まっている莉犬の姿だった。
愛し方がわからなかったのは俺だけだったんだと、裏切られた気持ちで頭がいっぱいだった。
兄弟は親を殺した俺を軽蔑しなかった。
寧ろ、喜んでいたのかもしれない。
やはり、似たもの同士なんだ。
だが、その頃からだった。
彼らが俺を家族から外したのは。
そして、自分がわからなくなっていったのは。
ワケアリ5人家族となった俺らは、4人で支え合って生きていった。
俺は家族として扱われなくなった。
仕方がなかった。俺が殺してしまったから。
その後、すぐに高校を中退した。
とにかく死にそうだった。
何時だって視線を感じた。常に何処からか感じる殺意に怯えながらの生活に疲れてしまった。
その視線はきっと君のもので、でも結局俺を殺そうとしていたのは紛れも無く俺自身だった。
ずっと俺は君に呪われていたのだと思う。
君は俺を恨んで、妬んで、ずっと死を望んでいたんだと思う。
ごめんね。
今日は雨が降っていた。
電気がついていない部屋は勿論暗く、雨の音が酷く大きく響いていた。
雨だから憂鬱とか、気分が下がるとか、そんなんじゃなくて。
勉強していた手を止め、手首に細く赤い線を引いていく。
死にたいとか、消えたいとか。
生きてるって感じたいとか、辛いとか。
そんな感情は1ミリも無くて、きっと無意識だった。
気がついたら切るところが無い程沢山の線ができていて、先程までしていた勉強机とは思えない有様にひとつ乾いた笑みが溢れた。
縛り付けておいて笑っている君も相当酷いけど、上手くはめられて結局生きてしまっている俺も大概だ。
腕の痛みなんて興味が無くて、ただ、雨に濡れたいと思った。
外から聞こえる雨音が、楽しそうだったから。
君が、俺を死へ誘っていたから。
「おい、どこ行くんだよ」
「…外。」
「は…?お前バカなの?やめとけ」
「…………うん。」
「は、ちょ、やめとけつってんだろ?!」
靴を履いて、鏡の前に立つ。
視界の端にうつったのは、唯一撮った家族写真。そこには笑顔でこちらを見ている7人の家族の姿。
兄弟は笑顔が輝いていて、両親はそんな彼らを見て微笑んでいる。
笑っていなかったのは俺だけだった。
_最初から無理だったんだ。
わかっていた。
俺が”普通”になれない事くらい。
最初からわかっていたんだ。
悔しくて、やるせなくて、思い切りドアに体重をかけた。
ザー、ザー。
雨が服に溶け込んでいって、身体が段々と重くなっていく。
忘れかけていた呼吸を思い出すように吸って、吐く。
君に会いに行こう。
そう思った。
最近は会いに行けていなかったな。寂しがっているかな。
あぁ、両親にも会いに行かないと。
腹が煮るように熱くなっていく。比喩表現では無い、とても熱くて熱くて仕方がない。
ごめんねとお腹を摩る。
早く会いに行くよ。そう伝えて、裏の墓地の方向へ足を進めた。
君が俺に作ってくれた曲、まだ忘れないよ。
君が俺にくれた優しさ、まだ忘れないよ。
ごめんね。
「…ごめんね。」
ゆっくりと花束を隅に置く。
君が好きだった向日葵だよ。
申し訳ない程度に置かれたその向日葵の花束は、何だか元気が無さそうだった。
やっぱり花は紫のヒヤシンスがよかった?
ごめんね。
今の時期、もうヒヤシンスは無いんだ。
花にも時期があるんだよ。…あぁ、前にも話したね。
また、怒られちゃうかな。
我儘をぶつけてくるかな。
違う。
君は怒った事が無かった。
我儘を見せる事など滅多に無かった。
ごめんね。
やっぱり、俺のせいだ。
右足を出して、左足に力を入れる。
頬が濡れているような気がしたが、きっと誰も気が付かない。
頬を乱暴に拭き、グッと歯を食いしばる。
ふぅ、と大きく息を吐いて、目的地まで走る。
足を止めてはいけない。絶対に。
ザーザー。
先程の何倍にもなっている雨量。
流れていく水は濁っていて、いつもとは違うその川の光景に口が狐を描いていく。
橋に手をかけ、下を見下ろす。
これ、死ねそう。
そう思ってしまったらもう止められなくて、
手摺に足をかけ、身を乗り出す。
あぁ、最期に君に謝れてよかった。
やっと君と逢える。謝れる。
成仏出来る。
頭がガンガンする。
まだ怒っているの?
ごめんね。
ごめんなさい。
もうすぐ、君と逢える。
「っバカがッ!!!!」
ギリギリのタイミングで兄弟が手を伸ばした。
グワンと視界が揺らぐ。
なんで。
なんでなんで。
なんで死なせてくれないの。
なんで殺してくれないの。
謝るから。
殺してごめんって。
壊してごめんって。
ねぇ。
次は間違えないから。
許して。殺して。
嘲笑って。
ギュッと背中から抱き締められ、俺の背中をなにか暖かいものが濡らす。
「……まじで…ふざけんなよお前…っ」
彼にとって、俺はどんな存在なのだろうか。
何故、そこまで必死になって俺を死なせないのだろうか。
何もわからなかった。
振り返ると彼の頬には確かに涙が伝っていて、申し訳なくなる。
そこまでして守りたい存在って、何なんだろうか。
彼はきっと、妄想の中で俺を美化し続けているのではないか。
そんな疑問が浮かぶが、もうどうでもいい。
「…俺は、生きたらダメなんだよ」
「……なんで、」
そう問うさとみは誰よりも優しい目をしていて、すごく苦しそうな顔をしていて。
あぁ、そうだった。
さとみのこの顔は、彼と少し似ているんだった。
息がしにくくなっていく。
あの時の光景がまたフラッシュバックされる。
辞めてくれ。
もう、辞めて。
君は微笑む。
また、俺を苦しめる。
「もう、辞めて…」
さとみは複雑そうな顔をしている。
わかっているのだろう、きっと。
大丈夫だよ、生きていいんだよなんて、俺にだから簡単に言えなくて、俺を大切にしてくれているのがわかる。
だからこそ、苦しいんだ。
だからこそ、痛いんだ。
なのに、君は知らない。
さとみは俺を見つめる。
その眼差しには、やはりどうしても応えられなかった。
莉犬は涙を流しながら川に身を投げた。
続きます
コメント
4件
もうめっちゃおもしろかったです!! ほんとに最高でした!!続きも楽しみにしてます!時差コメだったらごめんない!