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再び薄暗い廊下をゆっくりと渡り、先ほど打棄ていた手紙を手に取り封を切った。
丁寧に折り畳まれたそれを不器用に広げながら、戻る廊下を右に曲がり居間が覗かれる台場に入って行った。
ガスコンロに火をつけ、やかんの中の紅茶を再び温め始めた。手紙は明島という科学者から宛てられたもので次のような内容だった。
「突然の手紙で失礼致します。名実ともに文学の化身を崇められたあなたが、今では山奥の小さな家屋に閉じこもっていると聞いて驚いています。と言っても私たちに面識など全くありませんが。長々と話をするつもりはございませんので、要件だけ簡単に話させていただきます。最近、私が発明した<雨を降らす機械>をご存知でしょうか。ここ一ヶ月、これのおかげでさまざまな干魃地域が救われているそうです。人工の魔術師に作り出せないものなどありません。先日、私はあなたが愛してやまないという鶯を完成させました。これをあなたにご覧になっていただきたいのです。どうぞ、私のラボにお越しください。」
忙しそうな手紙は、挑戦状だった。沸かしていた紅茶はやかんの蓋をカタカタと震わせ、しゅんしゅんと音を鳴らして沸騰していた。
それにようやく気がついて、火を止めながら手に持っていたものを身体を火照らしながら踊り狂う液体の中に勢いよく沈めた。