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サイド キリ
「ぅ、わああああああん!」
目の前にいる男の子が泣き叫ぶ。私が殴ったから、当然といえば当然だ。
「ほら、例の家の……」「危険な子よね……」
ヒソヒソと大人の声が耳に入る。うるさい。何も知らないくせに。知ろうとしないくせに。気持ち悪い。
「キリ。またお友達に手を出したの?」
優しい、柔らかい声が聞こえる。見なくても分かる。私の、お姉ちゃんの声だ。
「友達じゃないもん。それに、アイツが先に父さんと母さんの悪口言ったんだよ」
「……キリが怒るのは分かるけど、それでも手は出しちゃダメ。いたい思いは誰も知らない方がいいんだよ」
……なら、私たちだけが傷つけばいいの?そんなの、間違っている。
「お姉ちゃんはね、キリが他の人と同じように簡単に人を傷つける人になって欲しくないの」
「…………わかった。ごめんなさい、お姉ちゃん」
また、我慢出来なかった。また、父さんと母さんが怒鳴られちゃう。
いつもこうだ。私はちろりと上目遣いに自分の姉を見た。
サラサラなストレートの黒髪を低めにまとめ、整った顔立ち。日本人形の様な華奢で可憐な雰囲気。それでいて、侍の様な隙のない空気を纏っている。オマケに文武両道ときたものだ。性格も優しく謙虚で着飾ることがない、正に“完璧”。私の自慢の姉は名で体を表すかのように「ミヤビ」と美しい名前まで持っている。
短気で茶髪のくせっ毛の私と、本当に血が繋がっているのかと疑いたくもなる。……私は、何も持っていないから。
自慢のお姉ちゃんだった。
お姉ちゃんがいる。それだけで私はこの大っ嫌いな世界で呼吸をすることが出来た。この世界で前を向いて生きることが出来た。
他愛もない話をしながら手を繋いで帰路に着く時間が、一番幸せだった。
「……お姉ちゃん。約束しよう」
「?うん、どんな約束?」
「ずっと、一緒に生きていこうね」