サイド キリ
小さい頃から、私もお姉ちゃんも近所の子供からよく悪口や暴言を吐かれた。
理由は“殺人犯の娘だから”。
気性の激しい私はやり返したり言い返したりした。でも、少しでも手や口を出したらみんな逃げ回りながら「殺人鬼だー!」と私をはやし立てる。
私の父さんは人を殺した。けれど、それは私の母さんとその会社をブラック企業の上司から救うためだった。
確かに、人を殺す必要はなかったかもしれない。他にも何か方法があったかもしれない。
父さんは人を殺した。それは消えようのない事実で、父さんの罪だ。だけど、そのことを後悔して罪を償おうと必死になって働いた。社会に貢献しようとした。その間、どれだけ過去のことで悩んで苦しんだか……!
それを母さんはわかっているからお姉ちゃんと私を産んだんだ。
「何も、知らないくせに……!!」
後はもう止まれなかった。私は手を出してしまい、その子供の親が家に怒鳴り込む。そして両親が必死になって謝って、いつも私に「ごめんね」と泣きそうな表情で言うのだ。
その一連の流れが、たまらなく嫌いだった。
「お姉ちゃんはいつも我慢できるよね。私もお姉ちゃんみたいになりたい!」
姉は、しばらく口をつぐんだ。そして、私の方を真っ直ぐ見つめて一言。
「……キリは私みたいにならないよ」
「え…………?」
ショックだった。
いつもできるまで方法を考えてくれたお姉ちゃんから、キッパリと否定されたから。
それは、私の全てを見離されたような気持ちにさせた。絶望、ってこういうことを言うのかなって思った。
馬鹿だなあ、って今なら思う。本当の絶望はこんな生優しいものじゃないってこの後すぐに分かったから。
「……そ、か。ずっと、そう思ってたんだね」
「!違うの、キリ、今の意味は……」
「言い訳なんてしなくていいよ。……お姉ちゃんの口から、そんなの聞きたくない……!」
そう言って私は部屋から出ていった。溢れた涙が止まらなかった。
両親よりお姉ちゃんが大切だった、認めてもらいたかった。そんな気持ちに気付いたきっかけが、こんな悲しい出来事なんて、つくづく皮肉だなあ、本当に。