テラーノベル
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「出るぞ!」
ナチュレのゲートから飛び出すと同時に背中の翼に『飛翔の奇跡』がかけられ、しっかりと神弓シルバーリップを握りしめる。そして少しずつ高度を上げていき。
「今回の目的なのじゃが…ちと危険やもしれん」
「危険?」
「昨日、神器神からSOSを受けての。
あちらのミスかは知らんが、神器自身が暴走した、との事じゃ」
「それをオレに食い止めて欲しい、と?」
「うむ。その神器の名は──“神弓ダークネスライン”。」
「情報によると、別次元からやってきた神器らしい。
性能的にはかなり攻撃力が高く、射撃も打撃も威力バツグンだそうじゃ。逆に弱点ならば誘導性やため時間、連射の弾切れ。まあ使い所によるがのう」
「そんなスゲェ神器が暴走してんのか?ならオレが――」
「食い止めよう…なんて考えるでない」
「なっ…」
「考えても見よ。
策略もなしにただ突っ込むだけじゃどうにもならん。
最も調子に乗りやすいおぬしに言っておるのじゃぞブラックピットよ。」
舌を鳴らし、もう何も言わんと口を閉じる。前方に見える敵軍にブラックピットはシルバーリップを二手に割ると双剣に。正体不明な魔物に不自然に思ったブラックピットはナチュレに質問。
「こいつらどこの軍だよ」
「分析してみても未明と出た。おそらく正体不明の敵軍じゃな」
面倒だな、とため息混じりにつぶやく。飛翔の奇跡のことを考えると5分間しか保てないため、先を急ぐ。
「…どうやら切り抜けたみたいじゃな」
「ま、こんなもんだろ」
自信満々に口角を上げ、実力を見せつけたブラックピットはそのまま直進。
そういや、とブラックピットは口を開く。
「オレは今、どこに向かってんだ」
「深淵の断崖と呼ばれる場所じゃ。その頂上にダークネスラインが暴走しておる。じゃが…」
「じゃが?…なんだよ」
「念の為、闇耐性の奇跡をつけてやろう。これで第一、闇に呑み込まれることはなかろう。」
「闇?一体なん──」
その直前、今まで感じたことの無い闇の嵐を感じた。おそらく、ダークネスラインの気。距離に関してはもうすぐと言ったところか。
「ブラックピット…?まさか、闇耐性の奇跡がもう切れたとかか!?」
「いや…違う。そうじゃねぇ」
「だったらなんじゃ…なぜそんなに声が震え…」
「くっ……行くぞ」
「お、オイ!さては無理をしておるな?そんなおぬしを見るのは生まれて初めてじゃが…」
飛翔して約3分。途中、背後から迫るホエーラを浄化するとなんとも言えない高い壁が目の前に。
「ここを超えた先にあるのか?」
「多分な。ダークネスラインの嫌な匂いがプンプンするぞ」
「この壁なんざに負けるかよ…!」
「垂直に超えるぞ。何とかもちこたえろ!」
ナチュレの響きに受けごたえるかのように翼を広げ直し、歯ぎしり。もちろん気合いで。
「ぐぐぐぐ……ッ!!!」
その様子にナチュレは目を見開く。なかなかやるな、そんな表情を見せつけ。
さすがにGがかかるとは思っていた。以前、ピットも魔王ガイナスを討伐するため、最後はこの高い壁を乗り越えた経籍がある。
「ッ…はぁ…はぁ…」
「おうおう…大丈夫か?」
「へっ…これしき…」
「見えたぞ。あれが神弓ダークネスラインじゃ!」
確かに頂上の中心部、台座にダークネスラインが宙に浮かび上がっている。無理に触れなければ問題は無いとブラックピットは思う。だが決して、簡単ではないことを知らされることになるだろう。
「さあ、どう止めるかが問題じゃな」
「敵も誰もいねぇしな」
「なら、一度攻撃してみるんじゃ!」
「バカか!そんなことすれば──」
「誰がバカじゃ!アホ!ビームビーム!」
「久しぶりに聞いたぜ、それ」
こんな状況で茶番を繰り返すのはどうかと。そんなこんなんでブラックピットが試し撃ちを。
「……なんも起きねぇな」
そう思っていた矢先、爆音でも放つかと思わせる爆風がダークネスラインの周囲から放出される。
「うぐ……」
「ブラックピット…!!」
その爆風に歯を食いしばり、何とか耐える。しかしその瞬間だった。
「なっ……闇耐性の効果が?!」
切れてしまった。いや、切れるという表現とは何か違う。ダークネスラインの力…しかも以後も簡単に弾かれてしまった。月桂樹越しにでも聞こえる、ナチュレの叫び声が。けどそれ以上にブラックピットは
「うっ…うわあああああ!!!!」
闇耐性の奇跡が弾かれたことにより、ブラックピットの脳内から何かと攻め込んでくる…そんな感じのノイズと模様が一気に。
「ブラックピット!!クソッ…やむを得ん。」
「回復の奇跡!!」
だがそれも無効化され、もうあとが無くなってしまった。今もブラックピットは頭が割れるほどの激痛を負っている中、ナチュレは回復までもが無効化されたことに歯ぎしり。
「おのれ……神弓のくせになんて手強い…!!」
「ああああ…!!ううっ……な、ナチ……」
「!なんじゃ、ブラックピット!」
「何か策があるのか!?」
「い…や…」
「賭け…だ…ぁ…ッ!」
「賭けじゃと…?」
「ああ……ッ。
デンショッカー…アレ、使えば…」
「……わかった。」
「そなたの作戦ならば承ろう!」
「転送…!」
豪腕デンショッカーが転送され、ブラックピットの片手に装着される。そして痛みを我慢し、ダークネスラインを見上げる。
「これ…で…ケリをつけて…やるよ…!!」
片方の前足を一歩踏み出し、ダークネスラインを目のあたりに。するとジャンプして勢いに乗りながらデンショッカーを前に突き出す。
「くううううう……ッ!!!」
「行け……行け!!ブラックピットよ!!」
「この……やろおおおおっ!!!!」
なんて頑固すぎる闇の結界。もろにヒビすら入らず、ブラックピットは息絶えながら神器同士がギギギ、と強烈な音を立てて擦り合う。
かれこれ数時間はかかっている。とっくに飛翔の奇跡は時間切れにより背中からは光が消え、通常に戻っている。その時、プツンと何かが切れた音がした。
「「?!」」
二人同時に驚く。ダークネスライン自ら、ブラックピットのみを闇が一瞬で覆われ、そのまま全身を呑み込む。一体何が起こった……ナチュレは呆然と立つ。
次の瞬間、
「あ……あ……ぶ……ブラッ……ブラックピット……っ!!!!!!」
生まれて初めて、絶望を知った。みな、こんな気持ちで大事な人を消失するんだ、と。
そこで通信は途切れ、地面には月桂樹と黒い羽根一枚。そばに落ちていた。そのあとのことは何も分からなかった。自然軍の上司…女神として情けない姿を見てしまった。今更ひとりで後悔をしてまで。
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