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死ネタ注意救いなし
ただ、類の隣だけが暖かかった。
「類…」
呼んでみても返事はない。どれだけ作業に没頭しているんだ、こいつは。
冬の寒空にさらされた屋上にいるのは、オレと類だけだった。
ほんのいたずら心で、奴の機械を弄る手首を掴んでみる。類は驚いたようにオレを見る。
「どうしたんだい?司くん」
ふ、と微笑む奴を見上げ、数秒で目線をそらす。
「…なんでもない」
「ああ、寂しくなってしまったかい?」
そういうことではない、と反論しかけた口はぎゅっと閉じ、オレは甘いテノールの鳴る方に再度目線を向けた。
「ふふ、放置してしまってごめんね。寒かっただろう?」
オレは類の手のひらを、素直に撫で受けた。
桃色の花が咲く春。
届くはずのない声を、彼の耳元で囁く。類は耳鳴りに首を傾げ、また手元の作業に戻った。
オレの周りに、少しだけ冷たい風が吹く。
「(…ああ、寒いな)」
オレは身震いをして、類に触れないよう、できるだけ類の近くに座る。類が少し、冷たくなっていた。
彼の手元に落ちた影から、類に触れ、と催促する黒い手が無数に生えてくる。類に触れれば、類も俺と同じになってしまうのに。
オレが死んでから早49日。類はオレのことを覚えていてくれるだろうか。
類の中にいるオレの記憶だけが、オレをこの凍結した世界でオレを暖めてくれる。
ただ、類の隣だけが暖かかった。