雰囲気暗めの謎時空
三流のハッピーエンドを他人に彩られるくらいなら、オレは類に一流のバットエンドを演出して欲しい。
「…え?」
口をついてでた言葉に、類の整った顔面は困惑の色に歪んだ。
「さっきの映画、酷い結末だっただろう?」
「ああ…悪役である主人公と勇者が和解して終わりだなんて、もっと綺麗な締め方はあっただろうとは思うけれど。」
でも、あそこの演出は参考にはなったかな――そう言いながら、奴は細い指を組んで顎に寄せる。
「…あんなエンディングの人生なら、あれが幸せだって言うならば、オレは不幸な終わりでも構わない。」
類の行き場のない左手を、そっと自らの頬に寄せる。
「オレは、最も輝かしい時に、綺麗なままで死にたい。」
奴の黄金の瞳が、深い瞳孔が、風にあおられたようにに震えた。それは先と同じ困惑か、それとも別の意味か、オレに知る由はない。
「なら今、君を殺してしまっても構わないんだね?」
「…さあ。今の俺が最も輝かしいと、お前にとって美しいと思うなら。」
揺れた瞳を隠すように、目が細められる。
「意地が悪いね、君は」
「はは、なんとでも言え」
「――司くん」
顔が近いな、そう思った時にはもう既に、奴に口付けをされていた。
「…酷い顔だぞ、類」
類の表情は、今にも泣き出しそうで、怒りに喚き始めそうで、まるでオレを憎んでいるようだった。
しかし、その言葉はもう奴の耳には届いていない。
「…君は、エンドロールにエキストラは要らないと言うんだね」
「ああ、…いや、それどころじゃないな。」
頬にあたる類の手に、自分の手を重ねた。
「オレとお前の人生のエンドロールには、主役と演出家しか要らないだろう?」