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「ん⁉ んぁ……鷹也!」
「……色はグリーン、味は……マスカットだな」
俺は口で飴玉を奪い取って、味の感想を言った。
「な、な、な……」
「……甘いな」
「キ、キ、キス……」
「あ……俺、甘いの苦手だったわ」
「へ?」
真っ赤になってパニックを起こしている杏子に顔を近づけ、俺は再び飴玉を杏子に戻した。もちろん口移しで。
「んぐっ! ちょ……」
「…………な? マスカットだろう?」
無事に飴玉を口移しできて、俺はニコリと笑った。
杏子は真っ赤な顔をし両手で口を隠しながら、固まってしまっていた。
ちょっとやり過ぎたか? でもキス顔なんて見せる杏子にも責任があると思うんだが。
「ど、どうして? どうして――」
「……飴玉の味を確かめるため?」
「普通、そんなことしないよ。く、く、口移しなんて……」
「したかったから?」
「したかったからって……わ、私、初めてだったのに……」
「……そっか」
杏子、俺が初めてだったんだ。
そう聞くとじわっと喜びがこみ上げてきた。
良かった。俺と同じだ。
「……なに笑ってんの?」
ギロっと睨んでくるその顔でさえ可愛いと思う。
二人で夏祭に来られただけでも嬉しかったのに、杏子は浴衣を着てきてくれた。
杏子の浴衣姿は眩しくて、誰にも見せたくないレベルの可愛さだった。
杏子を俺だけのものにしたい。
浴衣姿の杏子は俺の独占欲に火を付けた。
「……じゃあ、ちゃんとするか?」
「へ?」
「さっきのは単なる口移しだとしよう。だって……イヤなんだろう? あれが初めてのキスって、納得していないんだろう?」
「な、納得って……そうじゃなくて……その……」
「何?」
「……ど、どうして? どうしてこんなことするの?」
「どうしてって……」
ああ、そっか。夏祭りに誘うイコール意思表示だと思っていたが、伝わっていなかったのか。
当たり前か……はっきり言ってないんだから。先走ってしまったようだ。
「……きだからに決まってる」
「え?」
「だから……」
改めて言うとなると恥ずかしさがこみ上げで言葉に詰まる。
でも、こいつの期待を込めた目を見ていたら、ここで言わないと男じゃないんだろうな。
よし、一回だけだ。一回だけ……。
「杏子が好きだ」
「――!」
「杏子は? 杏子は……どう思ってる?」
聞きながら、ドキドキした。
きっと断られることはきっとないと思っていても、緊張する。
告白なんて初めてのことだから。
「…………好き、だよ。いつも鷹也のこと考えてる」
「――!」
よし!
「じゃあ……キス、するぞ」
「え……んんっ!」
照れ隠しもあって、俺は杏子の口を塞ぐことにした。
もちろん、キスすることで杏子が俺のものになったんだと、感じたかったからもある。
「プハァ……ハァハァ……い、息が……」
「何で息を止めるんだよ。鼻で呼吸しろ」
「し、知らないよ……は、初めてだっていってるじゃない!」
「……そうだったな」
俺も初めてだけど、普通わからないか? 不器用なヤツ。
まあ、そういうところも可愛いか。
「じゃあ俺たちこれから付き合うぞ」
「……う、ん、はい。よろしくお願いします……」
「なんで敬語?」
「……知らない……」
思い出すとあまりにも初々しくて恥ずかしいやりとりだった。
でもその日から俺たちは正式に付き合いだしたんだ。
◇ ◇ ◇
――――どんぐり飴を見ていたら、つい昔の思い出に浸ってしまったな。
ボーッとしている間に、口の中に突如現れた飴玉は少し小さくなっていた。
飴が小さくなるってことは、これは夢じゃないのか?
一向にレストランに戻らないし……。
試しに頬をつねってみた。
(痛い……?)
痛いということは夢じゃないのか?
それより、俺の頬ってこんなに柔らかかったか?
一日の終わりだというのに、いつも生えてきている髭も感じられず、今日は妙にすべすべしている。
このリビングのどこかに鏡はないだろうかと探してみる。
ポリッ
小さくなり始めた飴がどうも気になる。
昔から甘い飴を口の中に入れているのが苦手で、すぐに噛んでしまう癖があった。
ポリッ ポリッ
明かりの点いていないリビングを見ると、テレビ台の上にリダイニングの光を反射しているものがあった。鏡だろうか?
暗がりの中で取り上げてみると、それは鏡ではなく写真立てだった。
(女の子?)
小さな女の子の写真だ。
写真立ては全部で三つ。全て同じ女の子の写真だ。撮られた年齢が違うのだろう。女の子の大きさが左から右へと徐々に大きくなっている。
この部屋に住んでいる子供なのだろうか?
一体ここはどこなんだ。
――――――――そこで俺の意識はフッと途切れた。