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「レイブ、藁をくれ…………」
「…………うん、はい」
「ありがとな…………」
「うん……………………」
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「なあレイブ、腹減らないか?」
「うん……、大丈夫……」
「そうか…………」
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「っ! 師匠っ!」
「き、来たかっ! 来てくれたかっ! 今日もぉっ! ああぁ、神様っ、感謝いたしますぅ! この彩(いろどり)の無い世界に貴方様のお与えになる色取り取りの美しさは我が心に失う事が出来ぬたった一つの救い、その物でございますぅっ! ああ、その有り難い教えで以(も)って愚昧(ぐまい)なる信徒をお導き下さいませぇ!」
魔術師の冬は寂しい。
孤独の極致で己の限界を試す、修験の機会、そんな風に言われて久しい、言われ始めて、もう数千年なのである。
そんな冬を二十回近くも耐え抜いてきた『北の魔術師』バストロは、この冬、毎日数十分か長くて二時間くらい、日によって不定期に話し掛けては修行? なにやら教えてくれるレイブにだけ話しかける神様に心服してしまって、少しだけ、いいや、心の中心に変な価値観が確り通ってしまっている感じで、結構気持ち悪くなってしまったようであった、とほほ。
しかし、しかしである! 狂信の徒となったバストロは、この冬篭りの間に急激な進化を見せたのである。
何しろ信仰の対象は人間組織や国家みたいに歪(いびつ)な紛い物ではなく、純朴なレイブとだけ会話可能なガチモンの神様なのである。
差し詰め、レイブは預言者、バストロは使徒見習いと言った所であろう。
冬も深まり、周囲の音が鍾乳窟の周りに降り積もった雪に吸い込まれた、静寂の中でバストロの声が響く。
「では神よ、魔力の全体量を増やすのではなく、消費する魔力量を減らす、そう仰るのですか?」
無論、神の姿は見えないし、直接バストロに語りかけてもくれない。
バストロの言葉に答えるのはペトラとギレスラをギュッっと胸に抱いたレイブ少年だ。
自らの弟子に問い掛けている形だと言うのに、師匠バストロはピッチリとした姿勢で正座を崩す素振りも見せなかった。
バストロは何やら可笑しい変化を見せているが、レイブはレイブだ。
「うん、あのね、『運動の法則』? ニュートン? だってさ! F=ma Fは力、結果だってぇ! んで量がm、加速度がaだってよぉ? 魔力量が同じでも加速度、aが早くなればなるほど威力は増すんだってさぁ、うん、うん、ああ、そうなのね? えっとねぇ、まずは『強襲(エピドロミ)』が数秒で解除されてしまった前回込めた魔力の十分の一? それ位の魔力で同じ効果を起こせるように練習しよう! だってさ! どう? 判るぅおじさん、師匠?」
バストロは真剣な表情を浮かべながら、レイブの話した一言一句を噛み砕く様に小さな頷きを素早く繰り返した後に答える。
「ははっ! 御意にございますっ! 一度で出来るかは判りかねますが、出来るまで一所懸命に取り組みますっ! ありがとうございまっすっ! 我が神よ!」
「ええっとねぇ、諦めるな、何度でも挑戦すれば良い、だってよぉ」
「ははっ、有り難き幸せっ! …………………………ええっとぉ、レイブ、か?」
「うん僕だよ師匠」
「神様は? もう居られないのか、な?」
「うん、もう何にも言って無いよ」
「そ、そうか……」
少しだけ寂しそうな表情を浮かべた後、バストロは正座を崩し、胡坐(あぐら)を掻きながらも背筋を伸ばしてレイブと、彼の胸に抱かれた子竜ギレスラ、黒猪ペトラに言う、いつもより少し大仰なムードを漂わせながらである。
「うほんっ! 本日も有り難いお言葉をレイブを通して神様から頂けた訳だ、恐れ多くも畏くも、我等の神様は我等に指示を下されたっ! さぁっ! 訓練を始めよう…… 私は数秒間の『エピドロミ』を十分の一の魔力で達成出来るように頑張ってみるぞ! レイブは『リフレクション』の発動を同じ様に十分の一の魔力で試しなさい! ペトラとギレスラは俺たち二人の応援を頼むぞ! さあっ、始めようじゃないか」
「判った」
『頑張って』
『ガンガレッ』
こんな感じのやり取りが繰り返されていくのである。