テラーノベル
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広い一軒家になっても、二人の習慣は変わりません。自分の部屋があるにもかかわらず、元貴は当然のように滉斗の部屋のベッドに収まっていました。
「……ひろと。大学、広かったね」
「ああ。……でも、中等部から一緒の奴らも結構いたから、あんまり変わんねーな」
滉斗はサイドテーブルの明かりだけを灯し、元貴の隣で心理学の分厚い入門書を眺めていました。元貴は、新しい家に合わせて新調したさらに遮音性の高いイヤーマフを首にかけ、滉斗の腕を抱きしめるようにしてくつろいでいます。
「……今日は、怖い夢見ない気がする」
「だろうな。……これからは、鍵もかかってないし、壁を叩かなくてもすぐ隣に俺がいる」
滉斗は本を置き、空いた手で元貴の背中をゆっくりと一定のリズムで叩きます。この「一軒家」という確かな居場所が、元貴の心をこれまで以上に深く安定させていました。
一方、階下のリビングでは、一足先に「先輩」としての意地を見せる涼架が、修羅場を迎えていました。
「あぁぁ、もう! この手遊び歌の振り付け、どっちの手からだっけ!? 明日の実技、ピアノの伴奏もしなきゃいけないのに〜!」
テーブルの上には、保育士養成課程の教科書、手作りのパペット、そして楽譜が散乱しています。涼架は、大学4年生になり、より実践的な講義が増えて大忙し。
「……よし、もう一回! 『トントントントン、ひげじいさん……』っと。あ、今のちょっと音外れたかな? 上の二人に聞こえてないよね……?」
涼架はふと階段の方を見上げ、二人の部屋から漏れる微かな静寂(しじま)を感じて、ふにゃりと口角を上げました。
「……まぁ、あっちが幸せそうなら、お兄ちゃんも頑張っちゃうか!」
独り言を呟き、涼架は再びピアノの鍵盤(消音モード)に向き合いました。
深夜、涼架がようやく準備を終えてリビングの電気を消し、2階へ上がってきました。
元貴と滉斗の部屋のドアの隙間から、うっすらと漏れる常夜灯の光。
「……おやすみ、二人とも」
涼架は小さく囁き、自分の部屋へと入っていきました。
誰かが頑張っていて、誰かが寄り添っていて、誰かがそれを見守っている。
藍林檎学園の204号室から始まった物語は、この大きな一軒家で、より温かく、より確かな「家族」の形へと進化していました。
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コメント
2件
友達超えて家族だね