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そこでようやく警察官が奥さんの話題に触れた。
「井浦さん、失踪届が出されていた奥さん、あーーと」
「 碧 です」
「そうそう、井浦 碧 さん。来年、ようやく7年目ですなぁ」
惣一郎の奥さんは7年前に亡くなっていた。いや違う、失踪、行方不明。
「それがなにか」
「なにかって、そりゃあ井浦さんがよくご存知じゃあないですか」
「仰っている事が分かりませんが」
「あー、ほら家庭裁判所ですか、失踪届提出後7年で失踪宣告。奥さん、ようやく死亡って事になるんでしたよね」
「そうですね」
「保険金、4000万円」
「それがどうかしましたか」
「それがですね、ご近所の方が奥さんの姿を見たと仰るんですよ」
確かに、私もあの胡桃の樹の下に立っている 碧 さんを見た。
「まさか」
「まさか、ですか。奥さんが生きていらっしゃれば喜ばしい事じゃないですか」
「そうですね」
「ちょっとご足労頂けませんかね」
「今からですか?」
「手遅れになる前に、念の為です」
寝室の扉の隙間から覗いて居ると惣一郎が困り顔でこちらに向かって来た。私は慌てて掛け布団の中に飛び込み素知らぬ振りをした。仮の姿に着替えた惣一郎はベッドの端に座ると私の頭を撫でた。
「七瀬」
「なに、どうしたの」
「用事が出来ました。出掛けますから留守番をよろしくお願いします」
「留守番、分かった」
「白ワインは私が戻ってから飲みましょう」
「いつ帰るの?」
「遅くとも明日の朝には帰ります」
「そんなに遅いの」
「帰りはバスですから」
惣一郎は捜査車両、パトカーの後部座席に乗り込んだ。