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☁️🐈️さんと③さんの件ショックすぎる…。覚悟してるつもりだったんですけど完全に無駄でした。
お名前お借りしてる作品は春ツアーまでに投稿しきります。
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🐣→☁️🐈️
🐣さん目線
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「ヤバい!始まるよかもめさん!!」
目を輝かせて、黒く染まった空を見つめるそらねこ。
言葉だけは俺に向けられているようだが、意識はこれから始まる花火大会へ完全に奪われていることが丸わかりだ。
小さい体でぴょんぴょんと飛び跳ねる様子は、猫というよりまるでうさぎのようだった。
そらねこから花火大会へ行こうと誘われたのは昨日のことだ。悲しいかな、実家住みニートである俺は配信以外特にすることも無いので、即刻了承の返事を送ったのだ。
しかし、 俺にとって祭りの醍醐味とはあくまで屋台の飯であり、花火を目的に訪れたことなど正直言って一度もない。そんな俺と、これほど花火大会の開始を心待ちにしているそらねことの温度差は言うまでもなく相当なものであった。
別に苦痛というわけではなく、ただ不思議に思っているだけだ。 隣にいるこいつのように、こんなにも純粋に花火を楽しむ自分は果たして過去に存在していただろうか。
どれだけ記憶を辿っても、祭りを満喫する自分の手にはいつも美味そうな食べ物が握られていた気がする。
無論今だって例に漏れず、焼きそばとチーズハットグを両手に抱えている。仕方ない。俺にとっての祭りとはこういうものだ。
しかし件のそらねこにとっては違うようで、俺は屋台巡りもそこそこに河川敷へスタンバイさせられた。勿論人は多いものの、早々に陣取ったのが功を奏して俺たちの目の前には涼しげな川しか流れていない。
人混みに揉まれ、提灯の隙間から見える花火しか見たことのない俺にとっては初めての経験だ。これもそらねこがいなければ、きっと一生見ることの 無かった景色だろう。
自分より10も年下のそいつに心の中で感謝しながら、俺はプラスチックのパックからチーズハットグを取り出す。 河川敷へ連れて来られる際に焦って購入したものだ。もう何年も食っていなかったそれは、なんとも魅力的な見た目をしていた。右隣からよりによって今食べるのかと非難の声が上がったが、今食べなければいつ食べるんだ。俺の目的は別に花火を見ることではない。既に興味を空へと移しているそらねこに頭だけで反論をして、俺は改めてチーズハットグにかぶりついた。
サクッと小気味良い音を立てて口の中で衣が溢れる。 少し冷めてしまったそれは、馬鹿みたいに絞り出されたケチャップとたっぷりの油を含んでいて。何年も前に味わったあの感動が嘘だったかのように思えてくる。まるで油を油で揚げているみたいだ。質の悪いチーズは5センチほど伸びてすぐに切れた。
初めてこいつを口にしたのはいつだったっけな。その時は本当に美味いと感じただろか。油がついた唇を軽く舐め、翌日の胃もたれを覚悟すべく口を開いた時だった。
ひゅぅううう。
祭りの熱気にそぐわない間の抜けた音が聞こえ、辺りが静まりかえった 。
一瞬の沈黙。
瞬間、どんっっ!!!と一際大きな音が鳴り、夜空には金色の火花が煌めいた。
1つ目の花火を皮切りに、次々と夜空を彩る大輪たち。
赤。青。紫。黄色。赤。ピンク。黄色。そして水色。瞬きをする間に花々は散り、咲き、また散っていく。
初めて特等席で見る花火は、そりゃあ夏の風物詩と謳われるわけだ。「美しい」なんて俗な言葉で表現するのも勿体ない程だった。
そっと隣に目線をやると、そらねこは案の定目を輝かせて花火を見つめていた。すごいすごいと無邪気にはしゃぐそいつに、どうしょうもなく愛しさがこみ上げる。周りの人々がカメラを取り出し、どうにかこの情景を未来に残そうと奮闘する中でただひたすらに今を見つめるそらねこ。瞬きも忘れて、食い入るように空だけを見ているこの瞳には、きっともう俺は映っていない。この世で一番美しいその瞳が一瞬のうちに赤く染まり、黄色く光り、水色を映す。
何処かで泣いている赤ん坊の声も、汗で額に張り付く鬱陶しい前髪も、絶え間なく鳴り響くシャッター音も、美味しくないチーズハットグも、全て遠ざかっていく。
ヒュゥウウウ
飴細工のせいでベトベトすると嘆いていた小さな左手を握ってみようか。
ドンッ
今日だけは主役でないことを自覚しているかのように、細々と光る月を称えてみようか。
ヒュゥウウウ
爆発の音にかき消されない程度の音量で、あの2文字を呟いてみようか。
ドンッッ
何番煎じかもわからない使い古された情景が幾度も浮かび上がる。
俺なんかにはとても似合わない、ロマンチックで美しいそれは、俺の煮えた脳みそに次々と咲いて散っていく。
夏の空を、楽しそうに彩るあの花火たちのように。
『花火が燃え終わるときって、2000度にもなるらしいよ』
何処かで聞いたどうでもいい雑学が頭によぎる。
あんなに美しいけれど、触れることは決して叶わない。当たり前だ。
もしも消えていった妄想が一つでも現実になるのなら、俺は花火に触れたって構わない。
…なんて。暑さのせいかこの状況への浮かれのせいか、俺の頭は相当バカになっているらしい。
叶うわけの無い俺の願いも、2000度の炎で全部燃やし尽くしてくれればいいのに。
「………さん!」
「かもめさん!! !」
特徴的な高い声が聞こえ、俺は意識を現実へと引き戻す。
声の出処を見やると、透き通った綺麗な瞳と視線がぶつかった。何故か少しだけ見開かれたそれは、緊張しているようにも見える。
返事をするため口を開いた瞬間、意を決したようにそらねこが言った。
「かもめさん、
赤く染まった君の瞳には、俺が映っていた。