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エンマ大王side
「エンマ大王様?」
俺をそう呼ぶせいの声は、せいが幼い頃と変わらない。高すぎない声で俺を呼ぶ声は、俺だけが知っていればいい。
せいがこの妖魔界にやってきたのは、5年前。
せいが10歳の時のことだった。
当時のせいは泣きそうになりながら、じいちゃんに土下座していたのを覚えている。
名前は、せい。
せいの曾祖母である千代の曾孫だった。
千代は、妖怪と人間が仲良くなる上で必要な存在だとぬらり(ぬらりひょん)が資料を手渡しながら教えてくれた。どうやら、俺たちの妖魔界と千代たちの住む世界が別世界のようで、千代の世界に巣食う、【呪霊】という人間の負の感情から生まれる妖怪とは違う何かがいるらしかった。
千代は、人間に騙されて曾孫であるまだ5歳にならないせいと一緒に生家へと住むことになってから、千代たちの住む世界の人間の醜さや傲慢さを目の当たりにした。千代の住む世界の人間たちに呼ばれたと思ったら雑務をやらされたという被害が増え、益々、俺たち妖怪と千代の住む世界の人間の蟠りができ始めたところで千代が亡くなった。
せいがやってきたのは、そこから5年後のことだった。妖怪たちは、千代やせいを恨んでいた。
せいは、諦めたような顔をしていたとじいちゃんは静かによく言っていた。
だから、せいは“縛り”を設けた。
じいちゃんはそれを承諾し、せいが15になるまで修行に明け暮れていた。
マサムネやムラマサ、クサナギもせいに剣術を教えていた。最初の方は、せいが一方的にやられていて、怪我だらけだった。
それを直したのは以外にも影オロチだった。
【影の暗殺者】と呼ばれている影オロチがせいを助けるのは意外だったが、2人は仲がいいように見えていた。
妖術を教えていたのは、雪女やふぶき姫、カッパ、えんらえんら、コマじろう、キュウビ、オロチ、影オロチだった。
彼らはせいに優しく、友人のように教えていた。特に雪女はせいが好きなようで修行が終わる度に2人で話していたり、ふぶき姫の話も聞いてみたりと雪女は楽しそうにしていた。
雪女はせいを姉弟子のように慕っていたんだと思う。
だから、だろう。
「行かないで!!せいちゃん!!!」
雪女はせいが二度とこの妖魔界にいる時に会えなくなるとわかったのだ。
せいの真っ黒な制服を掴む雪女は、涙が流れていても関係がなかった。
ただ、慕っている、人間のせいに。
会えなくなるのがいやだった、それだけだった。
周りの妖怪たちも、せいの暖かに優しさに触れてせいに一種の愛を寄せていた。
しかし、他の妖怪は知っていた、せいとじいちゃんは“縛り”をしていることを。
だから、せいの服を掴む雪女をせいから離したのだ。せいごと引き寄せてくれる、と思っていたであろう雪女はさらにせいの服に縋り着いた。
「いやぁぁぁ!!!せいちゃん!!せいちゃん!!!行かないで!!!」
当時、俺はせいが雪女を泣かしているように見えた。また、明日来てくれると思っていたからだ。でも、違った。せいは妖魔界に来なくなるとわかったから、
じいちゃんの方を見ると、じいちゃんははくはくと口が空を切っていた。
だから、俺は、せいに
「妖怪を傷つけるな!!!!せい!!!!!」
そう言ったんだ。
せいの方を見ると、せいの顔は歪むことなく、じっと俺を見ていた。
じいちゃんは、その顔は今でもおぼえている。
泣きそうな顔だった。
苦しくて仕方がなそうな顔だったんだ。
そこから、せいと俺は“縛り”を結んだ。
「<1年に1回以上この妖魔界に来ること>」
月に何回でもいいから、来て欲しかった。
でも、せいは本当に1年に1回しか、妖魔界に来なかった。俺の誕生日の日しか来なかった。嬉しかったけど、他の妖怪たちがせいを囲んで居たから最初の「お誕生日おめでとうございます」しか会話をしていなかった。
でも、俺はせいという人間が好きになった。
大切に思うようになった。だから、今日、俺はせいに“友達メダル”をあげようと思ったんだ。
せいは、俺のメダルを見ていつも無表情の顔が笑顔に変わると思っていたんだ。たまに見せてくれるはにかんだような笑みが好きだったから。
現実は違った。
せいは無表情の顔から、傷ついたような顔をした。
ぬらりはせいの手から俺のメダルを取った。
俺は頭が真っ白になった。
ぬらりはせいのことが嫌いだと思った。
だから、取り上げたんだと思った。
ぬらりはメダルを俺に渡しながら、顔を歪めた。
それを悟らせないようにとすぐに表情を戻した。
「これが、呪術師で言う“縛り”です。エンマ大王。もし破れば、あなたは平気かもしれませんが結んだ彼女に呪い返ししてしまうことになります。」
俺は絶望した。
もし、ぬらりがいなかったらせいはどうなっていた?最悪、死んでいたのかもしれない。
俺の行動は、せいを殺そうとした証?
俺は膝から崩れ落ちた。
じいちゃんから聞いていた“縛り”は嘘ではなかった。ほんとうのことだったのだ。
俺はただ、せいに一番に頼って欲しかった。
一緒に妖魔界でも人間界でも遊びに行きたかった。恋人のように手を繋いで見たかった。
ただ、それだけなのに。
せいが、俺のせいで妖魔界に来なくなってしまう。
俺はそれが嫌だった。
俺は、俺は、
「せい、今日はもう帰りなさい。」
ぬらりの声は諦めていた。
せいは、妖魔界に来なくなってしまうと思ったからだと思う。
そう言われたせいは、凛とした声で
「……はい」
そう返事をした。
あまりにも呆気ないのか?
「エンマ大王様、失礼いたします。」
もう、俺の誕生日以外に来るのか?
俺と会いたく無くなってしまうのか?
「エンマ大王様?」
せいの声が俺の中に響く。
俺はせいの腕を掴んだ。
離したくなかった、行かせたくなかった……
頼って欲しかった、笑って欲しかった……
本当にそれだけなんだよ、せい。
するりと抜けたせいの腕。
せいの方に目を向けるとせいは無表情のまま、首を傾げていた。それが一等悔しかった。
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ネコの退屈
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