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騒然とする街中、侵略者は突如として、異界の門を開きこの世界へ唸り声を上げてやって来る。
『またも出現しました! 今月に入って六体目の侵略者になります! 都市部でも同時多発的に現れており、未だUT特殊部隊は到着できていません!!』
テレビから、緊急放送が流れる。
「現れたぜ。場所の特定は?」
「済んでます! トップ・トーキョーのカスカベ、大きなモールの付近の南側です!」
「うし、じゃあ行くぜ……!」
「りょーかい。上空にテレポートするよ〜」
シュッ……!!
『やはり現れた〜!! ここ最近のトップ・トーキョーの侵略者は、宇宙武装も纏っていないこの蒼炎の剣士により次々に倒されています! 今回も現れてくれました!』
「上空ど真ん中! 流石ルリだな! 一撃で行くぜ!」
ザン!!
蒼炎を纏い、一刀両断。
その姿から、俺は、
『まさに……”トップ・トーキョーのニューヒーロー”です!!』
蒼炎の剣士、トップ・トーキョーのニューヒーローと呼ばれ始めていた。
――
ヒーローともてはやされても、インタビューに答えることはなく、ルリと共に颯爽と帰還する。
まあ、宇宙武装もないし、UT刑務局に目を付けられていることもあり、力の漏洩を防ぐ為だが……。
「お疲れ様です! 優さん!」
「おーう、お前もご苦労さん。前よりも信号受信から探知までの速度速くなってんな。流石技術者の卵だな」
「へへへ、優さんから素直に褒められると照れますね」
「まあ何はともあれ……」
「「「 うぇ〜〜い 」」」
バコン!!
「ウェーイじゃねぇよ!! バカ共!!」
そんな、有頂天の俺たちを引っ叩いたのは、この家の主である船橋・LU・緑、通称、鬼ババアだ。
いや、イカれババアに変えておくか……?
「Oh! 何するんだよォ、BBA。俺らの活躍に嫉妬? Shit? お前は黙ってsit-down!」
「調子に乗りやがって……。ラップなんてお前、微塵も聴いたことねぇだろ!! お前らが謎のニューヒーローでもてはやされても、”緑一派”の名前を売らないといつまで経っても依頼なんて来ないだろうが!!」
「あ……そうか……。依頼入らねぇじゃん……。俺ら、一生タダ働きするところだったわ……」
「浮かれるのも大概にして、真面目に働くか、名前をちゃんと売るなりしろ!! 今月分は滞納だぞ!!」
「わーった、わーったよ。そんなバカみたいな声で怒鳴るんじゃねぇよ。血管切れて死ぬぞ」
「一言多いんだよ、お前は!!!」
ガン!! と、大きな物音で扉を閉め、ババアは去って行った。
しかし、俺たちはニタニタと笑みを浮かべる。
「ふふふ、計画は進んでいるな?」
そう、俺たちは最先端技術についていけなくなったババアに内緒で、密かに”緑一派”広報活動を進めていた。
「つい先程の侵略者討伐後、アクセス数、一万人突破しました!」
「おぉー!! すげぇー!! 一万人!!」
俺たちは、ちゃんと今後の依頼のことも考え、緑一派としての公式ホームページを作成していた。
しかし、俺たちの能力を口外することは出来ない為、テレビ局やマスメディアに対しては逃げの一手となる。
が、今の時代、俺の写真が撮られれば撮られるだけ、このホームページに繋がっていくのだ……!
「ネットの方でも、”蒼炎の剣士”、”謎のニューヒーロー”って、様々な噂になってますよ!!」
「いいじゃんいいじゃん! で、依頼メールとか、なんか来てないのか?」
しかし、やはり実績を残して侵略者を倒していても、謎の人物に変わりはないし、人手が必要ならばUT特殊部隊に申請すればいいだけのことで、なんの契約も交わされないフリーランスに変わりない俺たちの元には、依頼のメールは一件も入っていなかった。
ピンポーーーーーン。
全員が呆然とPCの画面に落胆している中、どよめく空気を掻き消すようにチャイムは鳴り響いた。
「なんだ? ババアの知り合いじゃねぇのかー?」
俺が小言を言いながらも「はーい」と玄関口を開けると、そこには見るからにヨボヨボな男の老人が立っており、これは間違いなくババアの知り合いかと思ったのだが……。
「おお、依頼があって来たんじゃ。主らが、”緑一派”で違いはないかのぉ?」
二人もひょこっと顔を出すと、三人でまた、爺さんに唖然な顔を浮かべさせた。
――
俺たちは依頼があると言う爺さんに連れられ、トップ・トーキョーの街中へと繰り出した。
「いやぁ、息子からアンタたちのホームページを聞いたんじゃが、めいる? と言うのがよく分からなくての」
「それで直接来てくださったんですね。僕たちも、あんなホームページを作ったはいいものの、閲覧数ばかり増えて依頼は一件も来なくて参ってたんです」
「おいおい、学。別に愛想良くなんてしなくていいだろ。その爺さん、メールとネイルのイントネーション一緒だったんだぞ。そんな老いぼれに金があるとは思えねぇ。こちとら休日返上で来てやってんだよ」
「キエェーーー!!」
バコ!!
「痛ってぇ!!」
爺さんは突然、俺に杖の先で叩いてきた。
「す、凄い……! こんなお年寄りが、優さんに一撃を喰らわせるなんて……!」
「感心してる場合じゃねぇだろ!! イカれジジイだよこんなもん!! ババアでも暴力はしねぇぞ!!」
すると、スッと小さな箱を取り出した。
「なんだこれ……? 風船……?」
中には色とりどりの風船が入っており、爺さんは俺たちにグイグイと押し付け、「膨らませろ」とジェスチャーした。
「ぼわーーー」
隣では、ルリが風魔法を使い、汗水流して空気を送り込む俺たちを嘲笑うかのように楽して空気を入れていた。
「はぁ……はぁ……どうしてこんな休日に……得体の知れない爺さんの風船を膨らませなきゃなんねぇんだ……」
「ま、まあ、いいじゃないですか……。せ、せっかく依頼って来てくれた、初の依頼人なんですから……」
風船もまだ全て膨らまし切れていない中、俺たちの側に子供が駆け寄る。
「ん? 欲しいのか?」
すると、子供は俺の顔をただジーッと眺め、指をさす。
「そうえん!」
「おぉ! そうだそうだ! 蒼炎の剣士! 小さいのによく知ってんじゃねぇか! さては通だな、この野郎! この風船持っていけよ! 遠慮すんな!」
子供は、風船を片手にニコニコと帰って行った。
その後、風船を全て膨らまし切ると、その風船を全員の両手に持って、ただ爺さんに連れられるままに、トップ・トーキョーの街中をただただ散策する。
そして、さっきのように、駆け寄ってきた子供に風船をあげては、また歩き出す、その繰り返し。
風船を勝手にあげてると言うのに、爺さんは俺たちを見ることもなく、無くなっていくことを注意することもなかった。
「あー、蒼炎だー」
「げ……」
そこに現れたのは、青いサラサラの髪に、あどけない顔を浮かべながらも、何を考えているか分からない男。
「お知り合いですか?」
「ああ……学はこの前、居合わせなかったな……。この制服見てみろ、UT刑務局の……確か特攻隊長とか呼ばれてたロスタリアって奴だ。爽やかそうに見えて、去り際に喧嘩ふっかけられたんだよ……」
「なんですか、コソコソと。別にこんな真っ昼間から、人の押収する場所で刀なんか振り回しませんよ。それより、なんですか? その、風船は。配ってるアルバイトとかなら、少し貰ってもいいですかね? こっちも今、刑務局員としてパトロール中なんで」
そう言うと、幾つかの風船を持って、すんなり立ち去ってしまった。
「さあ、ガキ共! この風船をやるから、カードゲームで再戦だ、この野郎! ぶっ飛ばしてやるぜ!」
「えー、またかよー! 兄ちゃんのデッキ、大人のくせに金にモノ言わせてるからやりたくねぇよー」
「生言ってんじゃねぇ。これが人生ってモンだ」
角を曲がって行ったと思えば、ロスタリアは子供たちに風船を配ると、カードゲームに興じていた。
「何がパトロールだよ……遊んでんじゃねぇか……」
その後も、似たようなことの繰り返しで、気付けば辺りは夕焼けに包まれていた。
三人の手持ちの風船も、いつしか少なくなっていた。
「おい爺さん、結局、依頼ってのは子供たちに風船を配ってやることだったのか?」
そう言って爺さんの方を振り向くと、そこにさっきまで静かに扇動してたはずの爺さんは姿を消していた。
「これ……逃げられました……?」
「タダ働きさせて、結局あんなジジイだ、報酬なんてハナから用意してなかったんだよ。まあいいや。どうせ残りも少ないし、ガキに配り終えたら帰ろうぜ」
帰宅後、普段であればババアは、金の亡者と成り果て騒ぎ立ててくるが、今日は大人しく、怖いくらいに静かな夕飯の時間が過ぎて行った。
「あの、緑さん……? なんか、何もないはないで、なんだか怖いんですけど……」
緊張感に耐え切れなくなった俺の言葉に、ババアはオカズを摘む箸を止め、鋭い眼光を向ける。
「アンタたち、今日は変な爺さんを手伝ったんだろ?」
「緑さん、あのお爺さんを知っているんですか?」
「あぁ。まあ、よく話すような間柄の知人って訳でもないんだけどね。今日一日、この家に電話が何本か入ったよ。『緑一派さん、風船をどうもありがとう』ってね」
そして、三人は目を見開かせる。
「優は最近、”トップ・トーキョーのニューヒーロー”って呼ばれてんだろ? この、”ニュー”って聞いて、何も引っ掛からなかったかい?」
その言葉に、学がハッと気付く。
「そうか……! ニューってことは、以前にもヒーローと呼ばれる人がいたんですね……!」
「ああ、神出鬼没で、まだUT技術の発展も乏しく、侵略者もそう出現していなかった頃、トップ・トーキョーにはヒーローがいた。力もなければ格好もオンボロ。それでも度胸だけはある男でね。誰かが危険な目に遭う瞬間に出会しては、身代わりになったり、命からがらに助けてやって、自分は名すら名乗らなかった。しかし、子供たちによく風船を配ることから、”風船仮面“なんて呼ばれてた野郎がいたんだよ」
「それが……今日のお爺さんの正体……」
「もう数十年も昔の話だけどね、まさか今も、自分の体調や様子を見ては、風船を配っていたんだね。ただの笑顔だけに、お節介な爺さんだろ? まったく……」
そんな呆れた風に話すババアの顔は、なんだか安堵しているような、落ち着いて笑っているように見えた。
そんな中、ぷくっと一つの風船が、部屋の中で宙に舞い上がる。
「んあ、一個膨らませてなかったのが残ってたのか?」
俺が風船を手に取ると、何か文字が書かれていた。
『緑一派、ここに見参』
俺は、ふっと笑みが溢れる。
ババアの今の顔になる気持ちが、少しだけ分かった。
「ったく、お節介なジジイだな」
その後、まだ怪しいとされていた緑一派の名は、街中に風船を配る元ヒーローと繋がりがあるとして、住民の安心感に繋がり、少しずつメールが届くようになった。
俺は、風船を空に飛ばして呟いた。
「爺さん、アンタはまだ、この街のヒーローなんだな」
人々を安心させること、ヒーローの本当の意味を理解できたのは、今だったのかも知れない。