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クソったれ。本当にふざけやがる。
「こんなもん、依頼じゃなくてただのアルバイトじゃねぇか!!」
俺たちは、先日の風船仮面との行いにより、簡単な依頼ではあるが、少しずつ依頼が来るようになっていた。
その中の依頼を次々にこなしていたのだが、今日の依頼は……。
「いやー、久しぶりだね~。たまたま困っていた時に君たちの噂を耳にしてね。まさか三人で依頼なんて始めてたなんて! 本当にラッキーだよ!」
「こっちは便利じゃねぇぞ、山田さん! なんで依頼なのに、コンビニのアルバイトしなきゃなんねぇんだよ! アルバイト生活辞めたくて始めたのに!」
俺たちは、以前、富裕層である赤城門に住んでいた天界人との商会長、山田幸二から依頼を受け、コンビニのアルバイトをさせられていた。
「それにしても、富裕層の人間でもこんなコンビニでも働くことってあるんだな」
そんな何気ない一言に、山田は酷く落胆した様子を浮かべる。
「それが……当たり前っちゃ当たり前なんだけど、スライムを殺してしまった責任を問われてね。本来なら牢屋に入れられてもおかしくはなかったが、商会長で顔を合わせることもあって、皇子がひどく責任を感じてしまわれた。運が良かったか悪かったか、そんな皇子が俺のことを庇ってくれてね。解雇処分だけで済んだよ」
「あははっ、そんでコンビニからやり直しか。富裕層から一気に落胆じゃねぇか。ざまぁみろ、俺をダシにしようとした罰が下ったんだよ」
「その通りかも知れない。だから今は、前向きに向き合おうと思っている。君にも贖罪の気持ちはあるんだ。でも俺たちの犠牲の甲斐あってか、皇子は危険生命体を地球には持ち込まないことも約束してくれた。でも……」
「でも……?」
「ほら、俺は商会長として、赤城門と呼ばれる、所謂、富裕層しか住めないところに住んでただろ? だから娘には、赤城門のみが入学を許される学校に通わせてたんだ」
俺は仕事の手を止め、山田さんの目を見つめる。
「アンタ一人の責任じゃ……終わらねぇってことか」
「そう言うこと。君たちには本当に悪いことをしたと思っているけど、おじさんも仕事だったし、何より家庭があったんだ。もう、あの学費を払える金もなく、俺は借金取りに追われるようになった。だから、妻と娘は妻の実家の方に帰らせ、一時的な離婚届を提出し、俺とは無関係の人間としたんだ」
「山田さん……アンタ……」
「もちろん、あの事件以降すぐにその手続きは済ませ、学費や家の金を払う義務はなくなった。それでも、いいカモを見つけたと思っているんだろう。それからツテを辿り、このコンビニの店長として、奴らが満足するまでは切り盛りしようと思ってる」
俺は立ち上がり、真剣な顔付きで答えた。
「山田さん……。だとしたら、アンタ、俺たちにコンビニバイトの依頼したの、間違えてるぜ」
「え?」
ゴォン!!
「なんだこの機械は、爆発したではないか!」
「ちょっと!! 卵入ってたんだけど!!」
「この僕が開発したお掃除ロボなら、AI感知センサーが作動して埃や塵のみを検出して吸い込んでくれるんです!」
「キャー! 私の靴吸われたんだけど!!」
俺たちが話している背後では、ルリと学が、見るも無惨なほどに、客に迷惑をかけまくっていた。
「な、何してんのォ!? 依頼でしょう!?」
「いや、悪意はないんだ。ルリは見ての通り一度も働いたことがなく、なんでもその特異な能力で解決しようとしてしまう為、細かい作業は出来ない。一方で学は、アルバイトこそできるが、コンビニという複雑で、仕事内容も豊富にあるような業務に不慣れで、効率化を考えて自分の開発した機械に任せようとする結果……ああなる」
「ああなる……じゃねぇよ!! さっさと止めて来い!」
ピンポーン、ピンポーン。
そんな中、新たな客が入店する。
「あ……いらっしゃ……!」
しかし、「いらっしゃいませ」と言い切る前に、山田はその人物を見て、言葉を失った。
来客したのは、見るからにタチの悪そうな三人組の男たちだった。
「山田さ〜ん、派手に仕事してるね〜。客への慰謝料、コンビニ内部への器物損傷……ひひひひ、こりゃまた相当な額になっちゃうよね〜」
「こ、この子たちはアルバイトで……! ぼ、僕が……僕が責任を取りますので……どうか……!」
そのまま、山田さんは速攻で土下座をした。
さっきまで悲鳴を上げていた客たちも、居心地が悪そうに引きながら、遠目に帰宅して行った。
「そうかそうか、お客さんたちも空気を読んで帰ってくれたみたいだし、ここはバイトくんたちに任せて、また書類でも書きに行きましょうね〜」
なされるがまま、山田さんは男たちに連れ去られた。
「いいの? 止めないで」
「分からねぇ。さっき山田さんは、返せる分は返してて、いいカモだと取り立てられてるって言ってた。でも、もし本当に法律上、返すべき金があんなら、もし俺たちが力で山田さんを助けても、かえって迷惑になる。また借金が増えるだけだろ。だから……」
そう言いながら、俺は一本、電話をかけた。
――
ゴォン!!
「な、なんだ!?」
トップ・トーキョーのワコウ、駅前の路地を挟んだ通りの小さくて少し暗い雰囲気のビル二階。
その扉は、けたたましい音で破壊される。
「お前たち……」
俺たちは、山田さんの連れて行かれた金融機関、いや、タチの悪いヤクザ事務所に真っ向から突入した。
「何してんだコラ!! 何モンじゃ!!」
「何モン……? あ〜……ただのアルバイトだ」
「こんなことをして、タダで済むと思ってんのか! カチコミに来たところで、コイツの罪が増えるだけだぞ!」
ゴッ!!
ルリの風魔法により、事務所内の書類は一斉に舞い上がる。
「そいつぁどうかな!! アンタたちから金を借りた連中は、もれなくみんなが、『あんなにしてもらったから』と言っている。法律に疎くない山田さんでも、強気に出られないのは、アンタたちが最初こそ、手厚い支援をしてやったからなんだろう」
「そ、そうだ!! 俺たちは手厚い支援の下でこの仕事をしている!! 邪魔立てされる筋合いはねぇ!!」
「……そこに、公平性があれば、な」
そして、学に目を向ける。
「そうです。あなた達の手口は、最初に手厚く支援し、相手に有無を言わせない状況を作り、法律のギリギリアウトゾーンで金を巻き上げていることにあります……!」
「何を根拠に……!!」
「この眼鏡はこう見えて有能な技術者でね。アンタたちの手口は全て抑えさせてもらった。本来、金の取り立ては全て、赤城門系列の金融機関にのみその許可が与えられ、その印がなければフリーの金融機関、つまり犯罪となる」
その言葉に、さっきまで堂々と対峙していた組員達は、こぞってばら撒かれた書類を拾い漁る。
俺は、その一枚を手に取り、元赤城門で暮らしていた山田さんに契約書を見せる。
「元商会長のアンタなら分かるだろ? その赤城門認定の印は、確かに無いはずだよな」
「あ、あぁ……。俺も、契約書を書くときに確認したが、赤城門認定の印はない……。だが、手厚い支援をしてもらったからと……強くは言えず……」
ゴォッ!!
俺は刀を取り出し、そのまま天井を破壊し、蒼炎が吹き曝しの天井にメラメラと燃え広がる。
「コイツ……最近噂の蒼炎の剣士……トップ・トーキョーのニューヒーローとか言われてる奴ですよ……! 侵略者を一撃でぶっ倒す力がある奴です……!!」
ボロボロと崩れる事務所に、バラバラと証拠の書類が舞う事務所内で、俺は刀を振り下ろした。
「警察ももうじき到着する。アンタらの悪事はもう終いだ」
そうして、俺は刀を再び、頭だと思われる男に突き付けた。
男は、汗混じりに歯を食い縛ると、力が抜けたかのように手を挙げ、白旗のサインを出した。
「君たち……俺は君たちに償いをするどころか、また助けてもらってしまって……」
「山田のおっさん、俺たちは確かに、繊細なコンビニバイトは出来ねぇけどさ、ド派手な手助けならいつでも言ってくれよ。俺たちは、緑一派だからな!」
そうして、俺はニタっと山田さんに笑った。
山田さんは、涙ぐんで言葉を失っていた。
後日、山田さんはコンビニの支店長を解雇された。