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いちごみるく
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#紅一点
いちごみるく
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やばすぎね?!???!! みおちゃん可愛すぎ🤦🏻♀️💕 ゆうとくん、大人って難しいんだよ。 また続き待ってる!!! めっちゃ良かった!!
第103話、めっちゃ良かったです…!北斗くんの「ぱぱ」呼びに照れつつも自然に応じる感じとか、〇〇ちゃんがみおちゃんに「ままぁ」って呼ばれて顔が溶けてるシーン、最高に幸せでした。スーパーでの“パパママ演技”、ゆうとくんのストレートな「けっこんする?」には笑ったし、最後の「北斗いたから楽しかった」がもう…読んでてこっちまで温かくなりました。家族みたいな一日、素敵すぎます🌙
☀️朝。
カーテンの隙間から光が差し込む。
先に目を覚ましたのは北斗だった。
ぼんやり天井を見たあと、隣から妙な重みを感じる。
北斗「……?」
視線を向けると。
〇〇がものすごい寝相で転がっていた。
布団は半分床。
枕もどこかへ消えている。
しかも昨日の白いバスローブ姿のまま。
北斗「寝相終わってる……」
小さく笑う。
〇〇は北斗の腕に抱きつくみたいな体勢で寝ていた。
髪もぐしゃぐしゃ。
完全に無防備。
しかも寝返りを打ちまくったせいで、バスローブも少し乱れている。
北斗は一瞬固まって、すぐ視線を逸らした。
北斗「……いやほんと何してんの」
寝てる本人は全く気づいてない。
〇〇「……んー……」
寝言みたいに声を出して、さらに近づいてくる。
北斗「近い近い」
でも押し返すのも可哀想で、北斗は困ったみたいに息を吐く。
〇〇はそのまま北斗の肩へ額を押しつけた。
完全に寝ぼけている。
北斗「……無防備すぎ」
朝から心臓に悪い。
北斗は片手で顔を覆ったあと、静かに布団を引き上げる。
乱れていたバスローブをそっと整えて、肩まで布団をかけた。
その動きに、〇〇が少し目を開ける。
〇〇「……ほくと?」
北斗「起きた?」
〇〇「……んー……」
まだ半分寝てる声。
〇〇はぼんやり北斗を見る。
数秒沈黙。
そして。
〇〇「……なんでそんな端いるの」
北斗「誰のせいだと思ってんの」
〇〇「?」
全くわかってない顔。
北斗は思わず笑ってしまう。
北斗「寝相悪すぎ」
〇〇「うそ」
北斗「ほんと」
〇〇は眠そうなまま周りを見る。
床に落ちた布団。
斜めになった枕。
そして北斗の腕を抱え込んでる自分。
〇〇「……あ」
北斗「やっと気づいた?」
〇〇は少しだけ恥ずかしそうに目を逸らす。
でも次の瞬間。
〇〇「……でも北斗いると安心して寝れる」
北斗の動きが止まる。
〇〇はまた眠そうに目を閉じた。
北斗だけが朝から静かに頭を抱えていた。
その時。
ベッドの上で震えるスマホ。
〇〇は眠そうなまま手を伸ばす。
画面を見る。
〇〇「……松尾さん?」
北斗「朝から?」
〇〇は通話を押してスピーカーにした。
〇〇「もしもしー……」
松尾『〇〇ちゃん!?ごめん朝早く!』
かなり焦った声。
〇〇も少し目を開ける。
〇〇「どうしたんですか?」
松尾『いや、ちょっとマジでやばくて!』
北斗が横で起き上がる。
松尾とは北斗もかなり仲がいい。
〇〇「何があったんですか?」
松尾『今日急遽でっかい仕事入っちゃってさ!』
〇〇「はい」
松尾『しかも奥さんも出張行っちゃってて家誰もいなくて!』
北斗「うわ」
松尾『保育園終わったあと預ける場所なくて詰んでる!』
〇〇「え、子供たち?」
松尾『そう!』
少し後ろで子供の声も聞こえる。
男の子『パパー!』
女の子の小さい声も混ざっていた。
松尾『ごめんほんと急なんだけどさ……〇〇ちゃんって前も親戚の子預かってたじゃん?』
〇〇「あー、あったね」
北斗「二人いたやつ?」
〇〇「そうそう、幼稚園二人とも」
松尾『あれ思い出してワンチャンと思って!』
〇〇は北斗を見る。
北斗も少し驚いていた。
松尾『もちろん無理なら全然いいの!ほんと急だから!』
〇〇「何歳でしたっけ?」
松尾『上が6歳の男の子で、下が1歳の女の子!』
北斗「1歳!?」
松尾『そうなのよ!』
〇〇は少し考える。
でもその顔はもう半分“引き受ける側”だった。
北斗はそれに気づいて小さく笑う。
松尾『〇〇ちゃん人脈広いから他探せたりするかなとも思ったんだけど……』
〇〇「いや、別にうちでいいですよ」
松尾『え!?ほんと!?』
〇〇「うん。今日たしか午後からしか仕事ないし」
北斗「俺も昼以降」
松尾『北斗くんもいる!?』
北斗「います」
松尾『うわ助かるぅぅ……!!』
本気で安心した声。
〇〇が笑う。
〇〇「何時くらいですか?」
松尾『昼前には連れてける!』
〇〇「了解です」
松尾『神!!ほんと神!!』
北斗「大袈裟」
松尾『いやマジ助かるって!二人とも懐くと思うし!』
〇〇「大丈夫ですよ」
松尾『あと上の子めっちゃ〇〇ちゃん好きだから』
〇〇「え、嬉しい」
北斗「俺は?」
松尾『北斗くんは“かっこいい人”って言ってた』
北斗が少し笑う。
通話が切れる。
部屋が静かになる。
〇〇はベッドに座ったまま髪をかき上げた。
北斗「……朝からすごい話入ったな」
〇〇「ね」
北斗「しかも1歳」
〇〇「かわいいだろうなぁ」
北斗はそんな〇〇を見る。
子供の話になると、〇〇は自然と表情が柔らかくなる。
前に親戚の子供を預かってた時もそうだった。
北斗「〇〇ってほんと面倒見いいよな」
〇〇「そう?」
北斗「人懐っこいし」
〇〇「子供好き」
〇〇は笑いながら布団をどける。
そして。
〇〇「じゃ、今日は保護者頑張ろっか」
北斗はその言葉に少し笑った。
北斗「……はいはい」
〇〇はベッドから降りながら髪をまとめる。
白いバスローブ姿のまま、まだ少し眠そうだ。
北斗はそんな〇〇を見ながら笑う。
北斗「保護者ねぇ」
〇〇「前もやったじゃん」
北斗「あー……」
二人とも同時に思い出す。
〇〇のいとこのお姉ちゃんの子供を預かった時。
幼稚園の男の子と女の子。
1日中家にいた。
〇〇「懐かし」
北斗「あの時マジで大変だった」
〇〇「えー楽しかったじゃん」
北斗「〇〇が楽しいだけ」
〇〇が笑う。
あの時も最初は急だった。
いとこのお姉ちゃん夫婦がどうしても外せない仕事で地方へ行くことになって。
“〇〇しか頼めない”
って泣きつかれていた。
〇〇「でもめっちゃ可愛かった」
北斗「まあ、それはそう」
〇〇「お兄ちゃんのほう、北斗にめっちゃ懐いてたよね」
北斗「あー……」
思い出して少し笑う。
最初は人見知りしてた男の子が、最終的にはずっと北斗の後ろをついて回っていた。
“ほくとくん!”
って。
〇〇「ゲームずっとしてた」
北斗「あと恐竜」
〇〇「あれ何時間付き合った?」
北斗「知らない」
〇〇は声を出して笑う。
そして。
〇〇「女の子のほうは私にべったりだった」
北斗「寝る時も〇〇の腕掴んでた」
〇〇「かわいかったぁ……」
北斗は少し目を細める。
あの時。
〇〇は子供相手でもずっと自然だった。
ご飯作って。
お風呂入れて。
泣いたら抱っこして。
疲れてるはずなのに嫌な顔ひとつしなかった。
北斗「〇〇って母性強いよな」
〇〇「え?」
北斗「面倒見いいし」
〇〇「そうかな」
北斗「向いてると思う」
〇〇は少しだけ照れたみたいに笑う。
〇〇「北斗もめっちゃ優しかったじゃん」
北斗「普通」
〇〇「普通じゃない。お兄ちゃんずっと“北斗くんかっこいい”って言ってた」
北斗「子供の“かっこいい”信用ならん」
〇〇「でも一緒に寝てたよね」
北斗「……あったな」
男の子が怖い夢見て、結局北斗にくっついて寝てた。
〇〇はそれを思い出して笑う。
〇〇「あとさ」
北斗「ん?」
〇〇「私ら、完全に夫婦みたいって言われてた」
北斗の動きが止まる。
〇〇は何も気づかず続ける。
でも北斗だけ静かになる。
あの時も。
今も。
〇〇はただ自然に隣にいるだけ。
北斗だけが、その意味を勝手に大きくしてしまう。
〇〇「今回も懐いてくれるかな」
北斗は少し遅れて笑った。
北斗「……〇〇にはすぐ懐くだろ」
〇〇「北斗も絶対好かれるって」
北斗は小さく息を吐く。
そしてベッドから立ち上がった。
北斗「とりあえず起きろ保護者」
〇〇「はーい」
朝の部屋に、二人の笑い声が少しだけ響いた。
〇〇はクローゼットを開けながら、ふと思い出したみたいに振り返る。
〇〇「そういえばさ」
北斗「ん?」
〇〇「北斗、前ドラマでパパ役やってたよね」
北斗「あー……」
〇〇「西園寺さんのやつ」
北斗は少し笑う。
〇〇は服を探しながら続けた。
〇〇「私あれ見てた」
北斗「まじで?」
〇〇「見てたよ普通に」
北斗「なんか恥ずいな」
〇〇「え、めっちゃ良かった」
北斗は照れたみたいに視線を逸らす。
〇〇「えまちゃん可愛かったし」
北斗「あー、可愛かったね」
〇〇「あと北斗、普通にパパ感あった」
北斗「それ褒めてる?」
〇〇「褒めてる」
〇〇は笑いながら北斗を見る。
〇〇「なんか優しかったもん」
北斗「役だよ」
〇〇「でも自然だった」
北斗は少し黙る。
〇〇はそのままベッドへ座った。
〇〇「私、ああいうの見ると会ってみたくなるんだよね」
北斗「えまちゃん?」
〇〇「うん。かわいかった」
北斗「人懐っこいよ」
〇〇「いいなぁ」
〇〇は少し羨ましそうに言う。
そして。
〇〇「今日来る子たちも絶対かわいいじゃん」
北斗「6歳と1歳だからな」
〇〇「やばい、楽しみになってきた」
北斗はそんな〇〇を見て小さく笑う。
北斗「仕事モードより元気じゃん」
〇〇「子供好きだから」
〇〇は本当に楽しそうだった。
北斗はその顔を見ながら、ふと思う。
もし。
本当に家族になれたら。
〇〇はきっと、こんなふうに笑うんだろうか。
でもすぐにその考えを打ち消した。
北斗「……準備しろ。あとでバタつくぞ」
〇〇「はーい」
〇〇は立ち上がる。
でも途中でまた北斗を見た。
〇〇「でもさ」
北斗「ん?」
〇〇「北斗のパパ役、ほんと似合ってたよ」
北斗「……朝から褒めすぎ」
〇〇「事実」
北斗は困ったみたいに笑うしかなかった。
〇〇はクローゼットから部屋着を取り出しながら、まだ楽しそうに笑っていた。
〇〇「今日絶対賑やかだね」
北斗「今のうち静かさ楽しんどけ」
〇〇「確かに」
北斗はベッドを整えながら時計を見る。
まだ朝。
でもあと数時間後には子供二人が来ると思うと、家の空気が少し変わる気がした。
〇〇「1歳って何必要?」
北斗「知らない」
〇〇「え、待ってやば」
北斗「〇〇が“うちでいいですよ”って言ったんだろ」
〇〇「勢い」
北斗が笑う。
〇〇はスマホを持って検索し始める。
〇〇「お菓子とかいるかな」
北斗「6歳なら喜ぶだろ」
〇〇「あとジュース」
北斗「砂糖で暴走しそう」
〇〇「それは困る」
二人で真面目に話してるのに、どこかふわふわしていて。
その空気が少し心地よかった。
〇〇「てか家片付けないと」
北斗「昨日騒いだからな」
リビングを見る。
ソファにはクッション。
テーブルには開けっぱなしのバスローブの箱。
完全に生活感。
〇〇「やば、これ子供テンション上がるやつ」
北斗「箱で遊び始めるやつな」
〇〇「わかる」
〇〇が笑いながらリビングへ向かう。
白いバスローブのまま。
北斗「まず着替えろ」
〇〇「えー」
北斗「保護者がバスローブで迎えるな」
〇〇「確かに」
〇〇は渋々寝室へ戻る。
北斗はその背中を見ながら少し笑った。
その時。
〇〇「ねえ北斗ー!」
北斗「んー?」
〇〇「もし今日、女の子泣いたらどうする?」
北斗「抱っこじゃない?」
〇〇「北斗できる?」
北斗「一応」
〇〇「見たい」
北斗「何を」
〇〇「北斗の抱っこ」
北斗「言い方やめろ」
〇〇が爆笑する。
その笑い声につられて北斗も笑った。
朝の部屋。
昨日まで少し苦しかった空気が、今は嘘みたいに柔らかかった。
〇〇「よし、今日は保護者頑張ろ」
北斗「だからその言い方何」
〇〇「じゃあパパママ?」
北斗「やめろ」
即答。
でも耳だけ少し赤かった。
時計を見ると、まだ午前。
〇〇は服に着替えながらスマホでスケジュールを確認する。
〇〇「よかった、今日お互い昼仕事だけだ」
北斗「15時迎え間に合うな」
〇〇「保育園のお迎え初めてかも」
北斗「俺も」
〇〇は少しわくわくした顔をする。
〇〇「なんか緊張する」
北斗「親か」
〇〇「保護者だから」
北斗が笑う。
松尾から送られてきたメッセージには、保育園の場所や持ち物、注意事項が細かく書かれていた。
“上の子はゆうと”
“下の子はみお”
“みおは人見知り少しあるかも”
〇〇「かわいい名前」
北斗「だな」
〇〇はスマホを見ながらニヤニヤしている。
完全に楽しみにしていた。
北斗「〇〇、絶対甘やかすだろ」
〇〇「甘やかす」
北斗「即答」
〇〇「でも北斗も絶対甘い」
北斗「普通」
〇〇「前もそう言ってた」
前に親戚の子を預かった時。
“ダメって言っといて”
って〇〇が頼んだのに。
結局北斗が一番甘かった。
〇〇「ゲーム延長させてたし」
北斗「一回だけ」
〇〇「アイスも買ってた」
北斗「泣きそうだったから」
〇〇「ほら甘い」
北斗はため息をつく。
でも否定はしなかった。
その後。
二人は急いで準備を始める。
〇〇は午後から雑誌インタビューと打ち合わせ。
北斗も昼から取材。
時計を見ながら、二人は玄関前で止まる。
〇〇「……待って」
北斗「ん?」
〇〇「迎えどうする?」
北斗「車」
〇〇「私免許ない」
北斗「あ」
〇〇「北斗は?」
北斗「……ある」
〇〇「ほんとに?」
北斗「一応」
〇〇はじっと見る。
北斗が少し目を逸らした。
〇〇「まさか」
北斗「……ペーパー」
〇〇「うわ最悪」
北斗「言い方」
〇〇「どれくらい運転してないの」
北斗「結構」
〇〇「“結構”って何年」
北斗「……」
〇〇「北斗?」
北斗「覚えてない」
〇〇「終わった」
〇〇が頭を抱える。
北斗も苦笑いするしかない。
しかも今日は1歳の女の子もいる。
チャイルドシート問題以前に、ペーパードライバーに任せるには怖すぎた。
〇〇「危なすぎるって」
北斗「わかってる」
〇〇「いや私ら普通に芸能ニュースになる」
北斗「朝から縁起悪いこと言うな」
〇〇「“人気俳優、久々の運転で”とか絶対嫌」
北斗が吹き出す。
北斗「確かに嫌だわ」
〇〇はスマホを持って考え込む。
〇〇「タクシー?」
北斗「チャイルドシート問題」
〇〇「マネージャーさん?」
北斗「仕事終わり時間合うかな」
二人とも真剣に悩み始める。
さっきまで保護者ごっこみたいに笑ってたのに、急に現実。
〇〇「……親ってすごいね」
北斗「だから親目線やめろって」
〇〇「でも今完全にそれ」
北斗は笑いながらスマホを取り出す。
北斗「最悪、送迎サービス探す」
〇〇「あ、それなら安心かも」
〇〇も横からスマホを見る。
距離が近い。
北斗は一瞬だけ固まる。
〇〇は気づかない。
〇〇「でもさ」
北斗「ん?」
〇〇「北斗が運転して迎え来たらちょっと見てみたかった」
北斗「やめろ怖い」
〇〇「助手席乗る」
北斗「乗るな」
〇〇が笑う。
北斗もつられて笑った。
朝の玄関。
まだバタバタなのに、二人ともどこか楽しそうだった。
ーーーーーーーーー
北斗side
昼前。
北斗は取材現場に入っていた。
ヘアメイクを受けながら、スタッフと軽く話している。
スタッフ「今日ちょっと眠そうですね」
北斗「まあ朝からバタバタで」
スタッフ「珍しい」
北斗は小さく笑う。
でも頭の中は、仕事半分、もう半分は今日のことだった。
6歳。
1歳。
保育園。
チャイルドシート。
完全に情報量が多い。
メイクさん「松村さん子供好きそうですよね」
北斗「え?」
メイクさん「なんとなく」
北斗「どうなんだろ」
実際、嫌いじゃない。
むしろ好きなほうだと思う。
前に〇〇の親戚の子を預かった時も、なんだかんだ楽しかった。
ただ。
〇〇がいると余計に“家族感”が出るのが危ない。
スタッフ「はい、準備OKです!」
北斗「お願いします」
撮影ブースへ入る。
カメラ前に立った瞬間、空気が切り替わる。
表情も声も自然に仕事モードになる。
インタビュー。
撮影。
コメント撮り。
順調に進んでいく。
でも休憩に入った瞬間。
北斗のスマホが震えた。
〇〇から。
『ねえ』
北斗『何』
『送迎サービス見つけた』
北斗『早』
『でも予約埋まってる』
北斗『終わった』
『どうしよ』
北斗は思わず笑う。
スタッフに不思議そうな顔をされた。
スタッフ「なんかいいことありました?」
北斗「いや別に」
でも口元は少し緩んでいる。
再びスマホ。
『マネージャーさんに頼めるか聞いてみる』
北斗『頼む』
少し間が空いて。
『あと今日みおちゃん抱っこしたい』
北斗は吹き出しそうになる。
北斗『まだ会ってない』
『絶対かわいい』
文章だけで、〇〇が楽しみにしてるのが伝わる。
北斗はスマホを見ながら静かに目を細めた。
その時。
共演者「松村くん珍しくニヤニヤしてる」
北斗「してない」
共演者「してるって」
北斗は慌ててスマホを伏せる。
でも耳が少し赤い。
〇〇とのこういう何気ないやり取りが。
最近、一番落ち着く時間だった。
ーーーーーーーーー
〇〇side
一方その頃。
〇〇は雑誌の打ち合わせ現場にいた。
編集者「次の表紙なんですけど、夏っぽいナチュラル感でいきたくて」
〇〇「いいですね」
マネ「午後押さないようにだけお願いします〜」
編集者「あ、今日このあとありました?」
〇〇「15時にお迎えが」
編集者「……お迎え?」
〇〇「あ」
マネが吹き出しそうになる。
〇〇「違います違います」
編集者も笑い始めた。
〇〇「預かる子供がいて!」
編集者「あー!びっくりした!」
〇〇「私が一番びっくりしてます」
現場が少し和む。
打ち合わせ中も、〇〇は時々スマホを見ていた。
“6歳 男の子 好きな遊び”
“1歳 人見知り 対応”
検索履歴が完全に保護者。
マネ「調べすぎじゃない?」
〇〇「だって泣かれたらどうしよ」
マネ「〇〇ちゃん絶対好かれるよ」
〇〇「そうかなぁ」
マネ「人懐っこいし面倒見いいし」
〇〇は少し考える。
昔から年下に懐かれることは多かった。
芸能界でも。
後輩、子役、スタッフの子供。
気づいたら周りに人がいるタイプだった。
その時。
スマホに北斗から返信。
『まだ会ってない』
〇〇は思わず笑う。
編集者「どうしました?」
〇〇「いや、なんでもないです」
でも楽しそう。
完全に顔に出ていた。
撮影準備に入る。
ヘアメイク中。
メイクさん「今日機嫌いいですね」
〇〇「そう?」
メイクさん「なんかふわふわしてる」
〇〇「今日子供来るんです」
メイクさん「あーなるほど」
マネ「しかも松尾さんとこの」
メイクさん「え、絶対かわいい!」
〇〇「ですよね!?」
テンションが上がる〇〇。
完全に楽しみにしていた。
でもその直後。
〇〇「あ」
マネ「何」
〇〇「子供用のお菓子いるよね」
マネ「急に現実」
〇〇「あとジュース!」
マネ「仕事終わりコンビニ寄る?」
〇〇「寄りたい!」
マネが笑う。
本当に嬉しそうだった。
そして撮影開始。
カメラ前に立った瞬間。
空気が変わる。
さっきまで“みおちゃんかわいいかな”って言ってた人と同一人物とは思えない。
カメラマン「はい、いいね!」
編集者「やっぱ強いなぁ……」
表情の切り替え。
ポージング。
視線。
一気にトップアイドルの顔になる。
でも撮影の合間。
〇〇はまたスマホを見ていた。
『北斗、絶対子供に好かれると思う』
送信。
数秒後。
『〇〇もな』
短い返信。
でもそれだけで、〇〇は少し笑った。
14:20。
〇〇の撮影が終わる。
スタッフ「お疲れ様でした!」
〇〇「お疲れ様でしたー!」
最後まで完璧な笑顔。
でもスタジオを出た瞬間。
〇〇「急がなきゃ」
一気に仕事モードが抜ける。
マネが笑った。
マネ「完全に保護者」
〇〇「だから違うって」
マネ「はいはい」
そのまま急いで車へ乗り込む。
〇〇はスマホを開く。
北斗から。
『今終わった』
〇〇『コンビニ寄りたい』
北斗『予想してた』
〇〇『お菓子買う』
北斗『甘やかす気満々』
〇〇『だって初対面だし』
北斗はすぐ既読をつける。
〇〇『あと人見知り対策でぬいぐるみ買うか悩んでる』
北斗『やめとけ。荷物増える』
〇〇が笑う。
マネ「松村くん?」
〇〇「うん」
マネ「なんかもう夫婦の会話なんよなぁ」
〇〇「違いますー」
でも否定しながら少し楽しそうだった。
コンビニ到着。
〇〇は帽子を深めに被って店へ入る。
〇〇「何がいいかな」
マネ「6歳ならグミとか?」
〇〇「でもチョコも好きそう」
マネ「絶対買いすぎるやつ」
案の定。
カゴがどんどん埋まる。
ジュース。
グミ。
ラムネ。
小さいゼリー。
アンパンマンのお菓子。
マネ「〇〇」
〇〇「ん?」
マネ「遠足?」
〇〇「違う」
マネ「量見て」
〇〇はカゴを見る。
確かに多い。
〇〇「……ちょっとテンション上がった」
マネが爆笑する。
その時。
スマホが震える。
北斗。
〇〇「もしもし?」
北斗『今どこ』
〇〇「コンビニ」
北斗『やっぱり』
〇〇「ねえ、みおちゃん用のお菓子って何がいいの」
北斗『1歳だぞ』
〇〇「あ」
北斗が電話越しで笑う。
北斗『〇〇、絶対浮かれてるだろ』
〇〇「ちょっとだけ」
北斗『知ってる』
〇〇「北斗は?」
北斗『今向かってる』
〇〇「じゃあ現地集合?」
北斗『うん。保育園前で』
〇〇「了解、保護者」
北斗『その呼び方やめろって』
〇〇は声を出して笑った。
14:47。
〇〇を乗せた車が保育園近くへ到着する。
〇〇「うわ、ちょっと緊張してきた」
マネ「今さら?」
〇〇「だって初対面だよ?」
〇〇はスマホを握りしめる。
その時。
道の向こうから黒い車が入ってきた。
北斗の車。
助手席にはマネージャー。
〇〇「あ、来た」
車が止まる。
北斗が降りてくる。
ラフな私服に帽子。
でもスタイルが良すぎて普通に目立つ。
〇〇「お疲れ」
北斗「お疲れ」
〇〇「仕事どうだった?」
北斗「普通」
〇〇「私は今日めっちゃ急いだ」
北斗「知ってる。LINEうるさかった」
〇〇「ひど」
北斗が少し笑う。
〇〇はコンビニ袋を見せた。
〇〇「お菓子買った」
北斗「量多」
〇〇「怒られるかな」
北斗「たぶん」
二人で笑う。
その空気に、両マネージャーが後ろで小さく目を合わせていた。
完全に夫婦の迎え。
でも本人達だけ無自覚。
保育園から子供達の声が聞こえる。
〇〇「……なんかかわいい」
北斗「まだ入ってもないのに?」
〇〇「雰囲気が」
北斗はそんな〇〇を横で見る。
本当に楽しみにしてる顔。
その時、先生らしき人が外へ出てきた。
先生「あの、松尾ゆうとくんとみおちゃんのお迎えの……?」
〇〇「あ、はい!」
北斗「お願いします」
先生は一瞬止まる。
どう見ても芸能人二人。
でもすぐ笑顔になった。
先生「お待ちしてました!」
〇〇は少しそわそわしながら北斗を見る。
〇〇「どうしよ」
北斗「何が」
〇〇「急に緊張する」
北斗が笑う。
北斗「〇〇ならすぐ懐かれるって」
〇〇「そうかな」
北斗「俺よりは確実に」
〇〇「北斗も絶対大丈夫」
先生「じゃあお呼びしますねー」
園の奥へ入っていく。
その瞬間。
遠くから元気な声。
「〇〇ちゃーん!?」
〇〇「えっ」
バタバタ走ってくる小さい男の子。
その後ろで先生に抱っこされた小さな女の子。
〇〇「かわい……!」
北斗も思わず笑っていた。
男の子は勢いのまま〇〇に抱きついた。
ゆうと「ほんとに〇〇ちゃんだ!!」
〇〇「わ、すごっ」
思ったより元気。
〇〇は笑いながらしゃがみ込む。
〇〇「こんにちはー」
ゆうと「テレビの人!!」
〇〇「そうだよー」
ゆうとは目をキラキラさせていた。
その後ろで、先生に抱っこされたみおがじーっと〇〇を見る。
まだ少し眠そうな顔。
小さい。
〇〇「みおちゃん?」
みお「……」
人見知りなのか、先生の肩に顔を隠した。
〇〇「かわいい……」
北斗が横で笑う。
北斗「もう顔緩んでる」
〇〇「だって小さい」
その時。
ゆうとが北斗に気づいた。
ゆうと「うわ!!!」
北斗「うわって何」
ゆうと「かっこいい人だ!!」
北斗が吹き出す。
〇〇も笑い始める。
ゆうと「テレビで見た!!」
北斗「ありがとう」
ゆうとはすぐ北斗にも近づく。
全然人見知りしない。
先生「ゆうとくん、ずっと今日楽しみにしてたんですよ」
〇〇「えー嬉しい」
先生「朝から“〇〇ちゃん来る!”って」
〇〇が笑う。
その横で、みおはまだ先生にくっついていた。
〇〇「みおちゃんは人見知りかな?」
先生「少しだけですね」
北斗はみおを見る。
小さい手。
丸いほっぺ。
北斗「……ちっちゃ」
〇〇「ね」
二人とも自然と声が柔らかくなる。
先生がみおを下ろす。
みおは少しふらふらしながら立って、〇〇を見る。
〇〇は目線を合わせるようにしゃがんだ。
〇〇「こんにちは」
優しい声。
みおはじーっと見る。
数秒。
それから。
とてとて歩いて〇〇のところへ行った。
北斗「お」
先生「すごい、人見知りしてない」
みおはそのまま〇〇の膝へ手を置く。
〇〇「え、かわい……」
完全に顔が溶けていた。
ゆうとは横で元気に話し続けている。
ゆうと「今日どこ行くの!?」
〇〇「どうしよっか」
ゆうと「ゲームある!?」
北斗「あー……ある」
ゆうと「やったー!!」
先生が笑う。
先生「すみません、もう完全に行く気満々で」
〇〇「全然大丈夫です」
その時。
みおが小さい声で。
みお「……だっこ」
〇〇「え」
先生「わ、珍しい」
〇〇は少し驚きながらみおを抱き上げる。
軽い。
小さくてあったかい。
みおはそのまま〇〇の肩へ顔をくっつけた。
〇〇「……やばい」
北斗「何」
〇〇「かわいすぎる」
北斗が笑う。
そしてその光景を見ながら、少しだけ目を細めた。
まるで本当の家族みたいだと思ってしまって。
自分で少し困っていた。
先生から荷物を受け取って、四人は保育園を出る。
ゆうとは〇〇の隣をぴょんぴょん歩いていた。
みおは〇〇に抱っこされたまま。
小さい手で〇〇の服をぎゅっと掴んでいる。
〇〇「重くないよー」
みお「……」
完全にくっついていた。
北斗「もう懐かれてるじゃん」
〇〇「嬉しい」
ゆうと「ねえねえ!」
北斗「ん?」
ゆうと「ゲームほんとにある!?」
北斗「あるって」
ゆうと「やったーー!!」
元気すぎる。
〇〇が笑う。
〇〇「ゆうとくん、ずっと元気?」
先生が後ろで笑った。
先生「ずっとです」
北斗「体力やばそう」
その時。
ゆうとが急に〇〇を見る。
ゆうと「〇〇ちゃんって、ほくとくんのおよめさん?」
空気が止まる。
先生「ゆうとくん!?」
〇〇「え!?」
北斗「……っ」
北斗が思わずむせる。
ゆうとはきょとん。
ゆうと「ちがうの?」
〇〇「違う違う!」
北斗「違う」
即答。
でも二人とも少し動揺していた。
先生が苦笑いする。
先生「すみません、最近お迎え来る人達見てすぐ“夫婦?”って聞くんです」
〇〇「びっくりした……」
北斗は帽子のつばを少し下げた。
耳が赤い。
ゆうと「でもなかよし!」
〇〇「まあ……仲良しではある」
ゆうと「じゃあいいじゃん!」
子供らしい真っ直ぐな答え。
〇〇は笑ってしまう。
北斗も困ったみたいに笑った。
そのまま駐車場へ向かう。
送迎用に、今日はマネージャーの大きい車を借りていた。
チャイルドシートもなんとか準備済み。
〇〇「よかったぁ……」
北斗「朝あんな焦ったのに」
〇〇「ほんとね」
車のドアを開ける。
みおはまだ〇〇から離れない。
〇〇「チャイルドシート座れる?」
みお「や」
〇〇「えぇー」
北斗が笑う。
ゆうとはすでに車へ乗り込んでいた。
ゆうと「はやくいこー!」
元気。
北斗「完全に遠足」
〇〇はみおを抱っこしたまま困る。
〇〇「どうしよ」
その時。
北斗が自然に手を伸ばした。
北斗「みおちゃん、俺と座る?」
優しい声。
みおがじっと北斗を見る。
数秒。
そして。
小さい手が北斗へ伸びた。
〇〇「えっ」
北斗「お」
みおはそのまま北斗に抱っこされる。
北斗は少し驚きながら支えた。
みおはじーっと北斗の顔を見る。
そして。
みお「……かっこい」
〇〇「かわいーー!!!」
北斗が吹き出す。
先生も後ろで笑っていた。
なんとか全員車に乗り込む。
ゆうとは後部座席でずっと喋っていた。
ゆうと「ゲームある!?マリオある!?恐竜ある!?」
北斗「質問多い」
〇〇が笑う。
みおはチャイルドシートに座ったものの、まだ少し不安そう。
でも隣にいる北斗をじっと見ていた。
北斗「……何?」
みお「かっこい」
〇〇「もう覚えたんだ」
北斗は困ったみたいに笑う。
車が出発する。
運転はマネージャー。
後ろの席で、〇〇はみおの顔を覗き込んだ。
〇〇「みおちゃん、お腹すいた?」
みお「……ん」
〇〇「ゼリー食べる?」
ゆうと「ぼくも!!」
北斗「はいはい」
完全に保護者。
〇〇はコンビニ袋を漁る。
北斗がそれを見て笑った。
北斗「買いすぎ」
〇〇「役立ってるからいいの」
ゆうと「〇〇ちゃんやさしい!」
〇〇「でしょー?」
嬉しそう。
その空気があまりに自然で。
マネージャーが前からバックミラー越しにちらっと見る。
もう完全に家族だった。
家に到着。
ゆうと「うわーー!!」
車を降りた瞬間テンション爆発。
〇〇「走らないー!」
ゆうと「はやくゲーム!!」
北斗「まず手洗い」
ゆうと「えー!」
北斗「えーじゃない」
〇〇が笑う。
みおは北斗に抱っこされたまま玄関へ。
小さい手で北斗の服を掴んでいた。
北斗「もう降りる?」
みお「……や」
〇〇「完全に懐かれてるじゃん」
北斗「なんでだよ」
でも少し嬉しそう。
家へ入る。
ゆうとはリビングに入った瞬間。
ゆうと「ひろ!!!」
〇〇「気をつけてねー」
ゆうとはすぐソファへダイブ。
元気すぎる。
みおはまだ北斗にくっついたまま、部屋をきょろきょろ見ていた。
〇〇「かわいい……」
北斗「〇〇ずっとそれ言ってる」
その時。
みおが北斗の肩に頭を乗せた。
北斗の動きが止まる。
〇〇「え」
みお「……ねむ」
〇〇「うわ、眠いんだ」
北斗はみおを支えながら少し笑う。
北斗「どうする」
〇〇「ソファで寝かせる?」
北斗「そうするか」
北斗がそっとみおを抱いたまま歩く。
その姿を見て。
〇〇は思わず見入っていた。
〇〇「……やっぱパパ役似合う」
北斗「またそれ?」
〇〇「いやほんとに」
優しい抱き方。
自然な声。
みおを起こさないように静かに歩く姿。
全部が妙に自然だった。
北斗は照れたみたいに笑う。
でもその横顔を見ながら。
〇〇はなんとなく、少しだけ胸があたたかくなっていた。
北斗はみおをソファへそっと寝かせる。
小さい体がふかふかのクッションに埋もれた。
みお「……ん」
少しだけ眉を寄せる。
北斗「大丈夫」
優しく背中を軽く叩く。
するとみおは安心したみたいにまた目を閉じた。
〇〇はその様子を少し離れた場所から見ていた。
〇〇「……すご」
北斗「何」
〇〇「慣れてる感」
北斗「慣れてない」
〇〇「いや絶対向いてるって」
北斗は苦笑いする。
その時。
ゆうと「ねえゲームーー!!」
リビングの空気が一気に戻る。
〇〇「静かに!」
ゆうと「ごめんなさい!」
でも声がでかい。
北斗が吹き出す。
〇〇「元気すぎる」
北斗「6歳ってこんなもんじゃない?」
ゆうとはもうゲーム機の前へ移動していた。
ゆうと「マリオある!?」
北斗「ある」
ゆうと「やったぁ!!」
完全にテンションMAX。
〇〇「靴下脱ぎっぱなし!」
ゆうと「あ!」
慌てて拾いに行く。
北斗が横で笑っていた。
〇〇「何笑ってるの」
北斗「〇〇、お母さんみたい」
〇〇「え?」
北斗「注意の仕方」
〇〇は一瞬止まる。
北斗も言ったあとで少し黙った。
微妙な空気。
でも次の瞬間。
ゆうと「ほくとくん!これどうやるの!?」
北斗「今行く」
空気が自然に戻る。
北斗はゲーム機の前へ座る。
ゆうとはその横にぴったり。
〇〇はキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けてジュースを準備する。
その途中でふとリビングを見る。
床に座ってゲームをする北斗とゆうと。
ソファで眠るみお。
夕方前の柔らかい光。
静かであったかい空気。
〇〇はなんとなく目を細めた。
北斗「〇〇ー」
〇〇「んー?」
北斗「ジュース」
〇〇「はいはい」
〇〇は笑いながら戻る。
ゆうと「〇〇ちゃんもやろ!」
〇〇「えー下手だよ?」
ゆうと「いいの!」
北斗「たぶん負ける」
〇〇「うるさい」
三人で笑う。
その笑い声に反応したのか。
ソファのみおが小さく目を開けた。
ぼんやりしたまま。
最初に見たのは北斗だった。
みお「……ほくと」
北斗「起きた?」
みおは眠そうなまま手を伸ばす。
北斗が自然に抱き上げた。
その瞬間。
〇〇の胸がまた少しだけ変な感じになる。
あまりに自然で。
本当に。
家族みたいだった。
みおは北斗に抱っこされたまま、まだ眠そうに目をこする。
髪もふわふわで、ほっぺが赤い。
〇〇「起きたー?」
みお「……ん」
声が小さい。
北斗「寝起きだ」
みおは北斗の肩に顔をくっつけたまま、ぼーっとしている。
ゆうと「みおー!」
急に大きい声。
みお「ぅぁ……」
びくっとして北斗にしがみつく。
〇〇「ゆうとくん静かに!」
ゆうと「ごめん!」
北斗が笑う。
みおはまだ完全に甘えモードだった。
北斗「ジュース飲む?」
みお「じゅーしゅ」
〇〇「かわい……」
〇〇は完全に顔が緩む。
北斗も少し笑った。
〇〇は小さいストローマグを準備する。
〇〇「はい、どうぞ」
みお「どーじょ」
〇〇「えらい!」
みおは両手でマグを持って、一生懸命飲む。
でも途中で少しこぼした。
〇〇「あー大丈夫大丈夫」
北斗が自然に口元を拭く。
みお「んへへ」
〇〇「笑ってる」
北斗「わかってる顔してる」
みおは北斗を見上げる。
みお「ほくと」
北斗「ん?」
みお「かっこい」
〇〇「また言った!!」
北斗が吹き出す。
ゆうと「みお、ほくとくんすきなの?」
みお「しゅき」
北斗「早いな」
〇〇が笑いすぎてソファに倒れ込む。
〇〇「もうだめ、かわいすぎる」
みおは今度は〇〇を見る。
じーっと。
そして。
みお「〇〇ちゃん」
〇〇「えっ」
みお「だいしゅき」
〇〇「…………」
北斗「固まった」
〇〇は数秒止まったあと。
〇〇「無理かわいい!!!」
そのままみおを抱きしめる。
みお「きゃははっ」
小さい笑い声。
北斗はその光景を見ながら静かに笑った。
ゆうと「いいなー!ぼくも!」
〇〇「おいでー!」
ゆうとも飛び込んでくる。
一気にソファがぎゅうぎゅう。
北斗「狭」
でも誰より楽しそうに笑っていた。
ソファの上は完全にぎゅうぎゅうだった。
ゆうとは〇〇の腕にぶら下がっているし、みおは〇〇の膝の上。
北斗だけ少し端へ追いやられている。
北斗「俺の家なんだけど」
〇〇「今子供優先です」
ゆうと「そうだー!」
北斗「急に味方増えた」
〇〇が笑う。
みおは〇〇の服をぎゅっと掴みながら、また北斗を見る。
みお「ほくとー」
北斗「ん?」
みお「きてー」
〇〇「呼ばれてるよ」
北斗は苦笑いしながら近づく。
するとみおは満足そうに笑った。
みお「えへへ」
〇〇「かわい……」
ゆうと「ねえねえ!ゲームつづき!」
北斗「あーはいはい」
〇〇「じゃあみおちゃんはどうする?」
みお「んー……」
眠そうに目を擦る。
でも北斗が動こうとすると。
みお「や!」
北斗「え」
小さい手で服を掴まれる。
〇〇が吹き出す。
〇〇「離してもらえないじゃん」
北斗「なんで」
みお「ほくと、しゅき」
北斗が困った顔で笑う。
〇〇「完全に懐かれてる」
ゆうと「ほくとくん、パパみたい!」
北斗「……」
〇〇「……」
一瞬だけ静かになる。
でもゆうとは気にせず続けた。
ゆうと「〇〇ちゃんママ!」
〇〇「えぇ!?」
みおも真似するみたいに。
みお「ままー」
〇〇「っ……!」
北斗が思わず顔を逸らして笑う。
〇〇は完全に固まっていた。
ゆうと「ぴったりじゃん!」
〇〇「ち、違うよ!?」
でもみおはもう〇〇に抱きつきながら。
みお「ままー」
〇〇「かわいすぎるんだけど……」
北斗「そこなの?」
〇〇「だって今の反則じゃん!」
北斗は笑いながら額を押さえた。
この空間、危険すぎる。
幸せすぎて。
勘違いしそうになる。
でも〇〇は何も気づいてない。
みおに“まま”って呼ばれたことに全力で喜んでいた。
〇〇「ねえ北斗聞いた!?」
北斗「聞いた」
〇〇「ままって!」
北斗「はいはい」
ゆうと「じゃあほくとくんパパ!」
北斗「だから違うって」
そう言いながらも、北斗の顔は少しだけ優しかった。
ゆうとと北斗はテレビの前でゲームに夢中になっていた。
ゆうと「いけー!!」
北斗「そこ落ちるって」
ゆうと「うわああ!」
北斗「ほら言った」
二人とも真剣なのに、どこか楽しそう。
その後ろで、〇〇はみおを膝に乗せていた。
みおはすっかり安心した顔で、〇〇の腕の中に収まっている。
〇〇「みおちゃん、何飲む?」
みお「じゅーしゅ」
〇〇「はいどうぞー」
小さいストローマグを渡すと、みおは両手でぎゅっと持って飲み始める。
ごくごく……
みお「……ん」
〇〇「おいしい?」
みお「おいち」
〇〇「かわいい〜」
みおは飲み終わると、また〇〇の服を掴んだ。
みお「〇〇ちゃん」
〇〇「ん?」
みお「だっこすき」
〇〇「うん、いいよ」
自然にぎゅっと抱きしめる。
みお「えへへ」
小さく笑って、安心したみたいに頬を寄せる。
その瞬間、テレビの前で北斗がちらっと振り返る。
ゆうと「ほくとくん!そこジャンプ!」
北斗「あ、待て今それどころじゃ」
ゆうと「えー!」
北斗はまたゲームに戻りながらも、ふと視線を後ろに残したままだった。
〇〇とみお。
小さい体を大事そうに抱えて、何気なく笑っている〇〇。
北斗「……」
ゆうと「ほくとくん?」
北斗「ん、今行く」
何事もないふりをしてコントローラーを握り直す。
でもさっきの光景だけ、やけに頭に残っていた。
みお「〇〇ちゃん」
〇〇「なあに?」
みお「すき」
〇〇「ふふ、ありがとう」
北斗は一瞬だけ、ゲームの操作を間違える。
ゆうと「うわ!負けるー!!」
北斗「悪い悪い」
軽く笑ってごまかしたけど。
さっきより少しだけ、呼吸が浅くなっていた。
〇〇はみおを抱っこしたまま、ふとリビングを見た。
テレビの前で真剣にゲームをしている北斗とゆうと。
その横顔がやけに自然で。
〇〇「……ねえ」
北斗「ん?」
コントローラーを握ったまま返事する。
〇〇「北斗さ」
北斗「何」
〇〇「パパみたい」
北斗の手が一瞬止まる。
ゆうと「え!?負ける!?」
北斗「あ、待て今のなし」
ゆうとは気にせず続ける。
ゆうと「ほくとくんパパ?」
北斗「違うって」
〇〇は笑いながら、みおの背中をトントンする。
〇〇「でもさ、今の完全にお父さんじゃん」
北斗「どこが」
〇〇「普通にゲームしてるし」
〇〇「子供に振り回されてるし」
〇〇「あと優しいし」
北斗「最後関係ない」
みお「ほくとー」
小さい声で呼ぶ。
北斗「ん?」
みお「やさし」
〇〇「ほら言われてる」
北斗「やめろ」
ゆうと「じゃあ〇〇ちゃんママ!」
〇〇「またそれ!?」
ゆうと「いいじゃん!」
みおもすぐ真似するみたいに、〇〇の服をぎゅっと掴む。
みお「ままー」
〇〇「ちょ、ほんとにやめてかわいい」
完全に溶けている。
北斗はその光景をちらっと見る。
みおに「やさし」と言われたことよりも、
〇〇が何の違和感もなく子供を抱いて笑っている姿の方が、なぜか胸に残った。
ゆうと「いくぞー!」
北斗「はいはい」
ゲームに戻るふりをしながら、少しだけ息を吐く。
北斗「……ほんと、ずるいな」
小さくて、誰にも聞こえない声だった。
ゆうと「うわー!!また負けたー!!」
北斗「だからそこ焦るなって」
ゆうと「むずい!」
〇〇はソファで笑いながらその様子を見ていた。
みおは〇〇の胸にぴったりくっついて、眠そうに指をしゃぶっている。
〇〇「ゆうとくん、北斗に教えてもらいな?」
ゆうと「うん!」
北斗「スパルタだけど」
ゆうと「えぇ!?」
〇〇が吹き出す。
その時。
みお「……ねんね」
〇〇「眠い?」
みお「ん」
小さく頷く。
〇〇は優しく頭を撫でた。
北斗はその光景をまた見てしまう。
柔らかい声。
自然な手つき。
抱っこの仕方まで妙に慣れて見える。
北斗「……」
ゆうと「ほくとくん?」
北斗「あ、ごめん」
完全にぼーっとしていた。
ゆうと「〇〇ちゃん、ほんとのママみたいだね!」
〇〇「えー?」
ゆうと「だってやさしいもん!」
みおも眠そうなまま。
みお「ままー……」
〇〇「ふふ、みおちゃん眠たいねぇ」
北斗は静かに目を逸らした。
ダメだ。
その呼び方を聞くたび、変に想像してしまう。
もし本当に。
そんな未来があったら、とか。
北斗「……やめ」
小さく呟く。
〇〇「ん?」
北斗「いや、なんでも」
〇〇は不思議そうに首を傾げる。
でもすぐみおへ視線を戻した。
〇〇「寝かせよっか」
北斗「ベッド使う?」
〇〇「うん」
〇〇が立ち上がる。
するとみおが眠そうに北斗へ手を伸ばした。
みお「ほくとぉ……」
〇〇「一緒がいい?」
みお「ん」
北斗が少し笑う。
北斗「じゃあ連れてく」
自然にみおを抱き上げる。
〇〇はその隣を歩いた。
その後ろ姿。
小さい子供を挟んで並ぶ二人は。
どう見ても。
幸せそうな家族だった。
ゆうとはゲームを一時停止して、二人の後ろを振り返る。
ゆうと「ぼくもいく!」
〇〇「え、ゲームは?」
ゆうと「あとで!」
すぐ立ち上がって走ってくる。
北斗「走るなー」
ゆうと「はーい!」
全然スピード落ちてない。
〇〇が笑う。
寝室へ向かう廊下。
北斗がみおを抱っこして、その隣に〇〇。
後ろからゆうとがついてくる。
ゆうと「なんかほんとのかぞくみたい!」
北斗「……」
〇〇「……」
また空気が止まる。
でもゆうとは気づかない。
ゆうと「ぼくおにいちゃん!」
〇〇「ふはっ」
思わず吹き出す。
北斗も笑ってしまった。
〇〇「じゃあみおちゃん妹?」
ゆうと「うん!」
みおは眠そうなまま小さく手を上げた。
みお「にぃに」
ゆうと「みおー!」
嬉しそう。
そのまま寝室へ入る。
北斗がベッドへみおをそっと寝かせた。
みお「……ん」
少しだけぐずる。
〇〇「大丈夫だよー」
優しく頭を撫でる。
するとみおは安心したみたいに、〇〇の指をぎゅっと掴んだ。
北斗はその横で布団を整える。
ゆうとはベッドの端に座ってじーっと見ていた。
ゆうと「みお、あかちゃんだねぇ」
〇〇「まだ1歳だもんね」
ゆうと「かわいい」
北斗「急にお兄ちゃん」
ゆうと「ぼくおにいちゃんだもん!」
胸を張る。
〇〇が笑う。
その時。
みおが眠そうなまま小さい声で。
みお「ままぁ……」
〇〇「はーい」
自然に返事する〇〇。
北斗の動きが少し止まる。
ゆうと「じゃあほくとくんパパだ!」
北斗「違うって」
即答。
でもゆうとは納得してない顔。
ゆうと「でもやさしいし」
〇〇「確かに」
北斗「〇〇まで乗るな」
〇〇は笑いながら肩をすくめた。
そしてベッドの上。
眠そうなみお。
隣で座るゆうと。
その横にいる〇〇と北斗。
静かであったかい空気に。
北斗はまた少しだけ苦しくなっていた。
みおが完全に寝たあと。
3人は静かにリビングへ戻った。
ゆうとはまだ元気だったけど、少しお腹が空いてきたらしい。
ゆうと「なんかたべたいー」
〇〇「あ、そろそろご飯か」
時計を見る。
もう18時前。
そのタイミングで〇〇のスマホが鳴る。
松尾からだった。
〇〇「もしもし?」
松尾『〇〇ちゃんごめん!!!』
後ろがかなり騒がしい。
〇〇「大丈夫ですか?」
松尾『今まだ収録押してて!』
〇〇「あー……」
松尾『帰れるのたぶんかなり遅くなる!』
北斗も横で聞いていた。
松尾『ほんと申し訳ないんだけど、夜ご飯もお願いしていい!?』
〇〇「全然大丈夫ですよ」
松尾『神!!』
北斗が少し笑う。
松尾『あとみお多分21時くらいには寝ちゃうと思う!』
〇〇「了解です」
松尾『ゆうとも風呂入れたら助かる……!』
〇〇「はい!」
松尾『ほんとありがとう!二人ともめちゃくちゃ助かってる!』
通話が切れる。
〇〇はスマホを置いた。
ゆうと「パパ?」
〇〇「うん。お仕事遅くなるって」
ゆうと「そっかー」
でもそこまで寂しそうではない。
むしろまだ遊ぶ気満々。
北斗「で、夜ご飯どうする」
〇〇「うーん……」
冷蔵庫を開ける。
そこそこ食材はある。
〇〇「簡単なのなら作れる」
北斗「何」
〇〇「オムライスとか?」
ゆうと「オムライス!?」
一気に目が輝く。
〇〇「好き?」
ゆうと「だいすき!!」
北斗「決まりだな」
〇〇は笑って冷蔵庫を覗き込む。
その横へ北斗も来た。
距離が近い。
〇〇「卵足りるかな」
北斗「買いに行く?」
〇〇「ゆうとくんいるしなぁ」
北斗「俺行く」
〇〇「え、いいの?」
北斗「コンビニくらいなら」
ゆうと「ぼくもいく!」
北斗「絶対走るだろ」
ゆうと「はしらない!」
〇〇「怪しい」
三人で笑う。
その時。
寝室の方から小さい泣き声。
「あぅ……ままぁ……」
〇〇「起きた」
ゆうと「みおー!」
〇〇は急いで寝室へ向かった。
北斗はその後ろ姿を見ながら、静かに笑う。
本当に。
自然すぎる。
この空気が。
結局。
「みんなで行きたい!」
というゆうとの強い希望で、四人でスーパーへ行くことになった。
〇〇と北斗は急いで変装。
帽子。
マスク。
眼鏡。
かなりラフな格好。
それでもオーラは隠しきれてない。
〇〇「これバレない?」
北斗「知らない」
〇〇「絶対スタイルでバレるって」
北斗「〇〇もな」
ゆうとはそんな二人を見て楽しそうに笑う。
ゆうと「へんしーん!」
〇〇「しー!静かに!」
その時。
みおが〇〇へ両手を伸ばした。
みお「だっこー」
〇〇「はいはい」
保育園の先生から預かっていた抱っこ紐を取り出す。
前につけるタイプ。
〇〇「これ難しくない?」
北斗「説明見る?」
〇〇「時間ない」
なんとか二人で装着。
みおを前に抱っこすると、小さい体が〇〇にぴったりくっついた。
みお「んへへ」
〇〇「かわい……軽い……」
北斗はその姿を見て少し固まる。
白Tにデニムのラフな格好。
前にはみお。
完全に“母親”だった。
〇〇「どう?」
北斗「……似合ってる」
〇〇「え?」
北斗「いや別に」
耳が少し赤い。
ゆうと「〇〇ちゃんママみたい!」
〇〇「外ではそれ禁止!」
ゆうと「なんで?」
北斗「芸能人だから」
〇〇「だから今日は演技」
ゆうと「えんぎ?」
〇〇「そう!」
〇〇はしゃがみ込んでゆうとに説明する。
〇〇「外ではね、〇〇ちゃんじゃなくて“ママ”、北斗は“パパ”って呼んで?」
ゆうと「なんでー?」
北斗「バレないように」
ゆうとは少し考えて。
ゆうと「スパイみたい!」
〇〇「そうそう!」
ゆうと「わかった!!」
完全に楽しんでる。
みおも〇〇の胸にくっついたまま。
みお「ままぁ」
〇〇「はいはい」
北斗が横で咳払いする。
北斗「慣れるな」
〇〇「だってみおちゃんが……」
ゆうと「ぱぱー!はやく!」
北斗「……」
〇〇が吹き出す。
北斗「お前まで笑うな」
でも否定する暇もなく、ゆうとに手を引っ張られる。
スーパー到着。
ゆうとは北斗の手を握って歩き、〇〇は前抱っこでみおを揺らしている。
周りから見れば。
どう見ても普通の若い家族だった。
北斗はその現実に、少しだけ頭を抱えたくなっていた。
スーパーへ入る。
夕方で人も多い。
北斗は入口のカートを引き寄せた。
ゆうと「ぼくのる!」
北斗「走らないならな」
ゆうと「はしらない!」
絶対嘘。
〇〇が笑う。
北斗はゆうとをカートへ乗せる。
ゆうとは嬉しそうに足をぶらぶらさせた。
その横で、〇〇は前抱っこのみおを軽く揺らしている。
みお「ままぁ……」
〇〇「んー?」
みお「ねむくない」
〇〇「ほんと?」
完全に甘えモード。
北斗はそんな二人を見ながら、カートを押し始める。
ガラガラ……
〇〇「ねえ何買う?」
北斗「オムライスだろ」
〇〇「あとサラダ?」
ゆうと「ハンバーグ!」
〇〇「今日はオムライスー」
ゆうと「えぇー!」
北斗「文句言わない」
ゆうと「はーい……」
でもすぐ。
ゆうと「あ!おかし!!」
カートの上で身を乗り出す。
北斗「危ない」
〇〇「落ちるよー」
北斗は自然に片手でゆうとを支えた。
その動きが妙に慣れていて。
〇〇は思わず横を見る。
北斗「何」
〇〇「いや」
〇〇「ほんとパパ感あるなって」
北斗「また?」
〇〇「だって自然すぎる」
北斗は困ったみたいに笑った。
その時。
みおが北斗へ手を伸ばす。
みお「ぱぱー」
北斗「……っ」
〇〇が吹き出す。
北斗「外だからな、それ」
〇〇「演技演技」
北斗「お前絶対楽しんでるだろ」
〇〇「ちょっとだけ」
ゆうと「ぱぱー!ジュース!」
北斗「はいはい」
もう完全に定着していた。
カートを押す北斗。
隣でみおを抱っこする〇〇。
カートの中ではしゃぐゆうと。
スーパーの照明の下。
その光景は驚くほど自然で。
すれ違った主婦達がちらっと振り返るくらいには、普通に“家族”だった。
野菜コーナーを歩いていると、何組もの家族とすれ違った。
小さい子供を抱っこするお母さん。
カートを押すお父さん。
兄弟でお菓子を取り合って笑ってる子達。
〇〇はみおを抱っこしながら、なんとなくその光景を目で追っていた。
みお「ままぁ?」
〇〇「んー?」
みお「りんご!」
〇〇「あ、ほんとだ」
小さい指が果物コーナーを指している。
〇〇は笑いながら頭を撫でた。
その時。
近くを通った家族連れ。
まだ小さい男の子が、お父さんの服を引っ張っている。
お母さんは困ったように笑っていて。
でもすごく幸せそうだった。
〇〇「……いいなぁ」
ぽつり。
無意識だった。
北斗「ん?」
〇〇「いや」
〇〇は少し笑う。
〇〇「なんか家族っていいなって思って」
北斗の手がカートの持ち手で少し止まる。
〇〇「子供かわいいし」
みお「かわいい!」
〇〇「そう、みおちゃんかわいい」
〇〇はみおのほっぺをつつく。
みおは嬉しそうに笑った。
〇〇「……私も早く欲しいなぁ」
北斗「……」
〇〇「子供」
〇〇「なんか今日ずっと思ってる」
〇〇「こんな毎日楽しそうだなーって」
悪気も深い意味もない。
ただ思ったことをそのまま言っただけ。
でも北斗は一瞬、息が止まりそうになる。
〇〇「絶対私、甘やかすタイプ」
ゆうと「うん!」
〇〇「ほら言われた」
北斗は小さく笑った。
でも心臓は全然落ち着かない。
“子供欲しい”
その言葉だけが頭に残る。
もしその隣にいるのが。
自分だったら。
考えた瞬間、北斗は視線を逸らした。
北斗「……卵取ってくる」
〇〇「え?」
北斗「足りないかも」
少し早足で離れていく。
〇〇は不思議そうに見送った。
卵コーナーまで来て、北斗は小さく息を吐いた。
冷蔵ケースを開けるふりをしながら、頭を冷やそうとする。
でも無理だった。
“私も早く欲しいなぁ”
その言葉がずっと残ってる。
北斗「……やば」
小さく呟く。
別に特別な意味で言ったわけじゃない。
〇〇はただ、子供かわいいって思っただけ。
家族っていいなって思っただけ。
わかってる。
わかってるのに。
隣に自分を重ねてしまった。
スーパーでカート押して。
子供連れて。
〇〇が笑って。
みお抱っこして。
“ママ”って呼ばれて。
北斗は軽く額を押さえる。
危ない。
考えすぎだ。
その時。
「ぱぱー!」
遠くからゆうとの声。
北斗が顔を上げる。
少し離れた通路。
ゆうとがカートから身を乗り出して手を振っていた。
その隣には〇〇。
前抱っこのみお。
笑ってる。
その光景がまた自然すぎて。
北斗は苦笑いするしかなかった。
ゆうと「ぱぱはやくー!」
近くにいたおばあちゃんが微笑ましそうに振り返る。
「あら仲良しねぇ」
北斗「……どうも」
否定もできない。
〇〇は遠くから笑いを堪えてる。
北斗「絶対楽しんでるだろ……」
でも。
嫌じゃない自分が一番厄介だった。
北斗は卵を持って二人のところへ戻る。
〇〇「買えた?」
北斗「うん」
みお「ぱぱー」
北斗「はいはい」
自然に返事してしまって。
〇〇が吹き出す。
〇〇「今普通に返事した」
北斗「外だから」
〇〇「慣れてきてるじゃん」
北斗「慣れてない」
でも耳が赤い。
ゆうと「ほんとのかぞくみたい!」
北斗「……」
〇〇「……」
またその言葉。
北斗は少しだけ笑ったあと。
〇〇をちらっと見る。
〇〇はみおを抱っこしながら、幸せそうに笑っていた。
その顔を見るだけで。
やっぱり期待してしまいそうになる。
レジへ向かう。
カゴの中は意外といっぱいだった。
卵。
ケチャップ。
鶏肉。
ジュース。
お菓子。
ゆうとが途中で入れたアイスまである。
〇〇「絶対買いすぎた」
北斗「半分お前」
〇〇「子供いると増えるの!」
ゆうと「アイスいるもん!」
北斗「それはお前」
みお「あいしゅ!」
〇〇「みおちゃんまで覚えた」
四人で笑う。
レジ待ちの列へ並ぶ。
北斗がカートを押して、〇〇はみおを前抱っこ。
ゆうとはカートに乗ったまま足をぶらぶら。
前に並んでいた小さい女の子が、みおを見て手を振った。
女の子「ばいばーい」
みお「ばー!」
〇〇「かわいい」
その横で、お母さんらしき人が〇〇達を見て微笑む。
「仲良しですね」
〇〇「あ、はい」
思わず返事する。
北斗は横で静かに目を逸らした。
その時。
女の子のお母さんが自然に言った。
「お子さん達、パパとママどっちにも懐いてますね〜」
北斗「……」
〇〇「……」
一瞬止まる。
でもゆうとが元気よく。
ゆうと「うん!」
即答。
〇〇が吹き出しそうになる。
北斗は帽子を深く被り直した。
お母さん「素敵ですねぇ」
〇〇「ありがとうございます……」
もう否定するタイミングがない。
レジの順番が来る。
北斗が財布を出そうとすると。
〇〇「半分出す」
北斗「いい」
〇〇「いやでも」
北斗「今日は俺」
〇〇「えー」
北斗「オムライス担当なんだから作れ」
〇〇「なにそれ」
ゆうと「けんかー?」
〇〇「違う違う」
みお「ぱぱー」
北斗「ん?」
みお「だっこ」
北斗「今?」
みおは両手を伸ばす。
〇〇「抱っこ変わる?」
北斗「レジ終わったら」
みお「んー……」
不満そう。
レジの店員さんがそんな四人を見て少し笑った。
「可愛いご家族ですね」
北斗「……どうも」
〇〇はもう笑いを堪えきれてない。
北斗「お前絶対楽しんでる」
〇〇「だって面白い」
北斗「俺だけダメージ受けてる」
でもその横顔は、少しだけ嬉しそうだった。
会計を終えて袋詰めスペースへ移動する。
北斗が袋を広げて、〇〇が中へ入れていく。
ゆうとは横でアイスを抱えていた。
ゆうと「はやくたべたい!」
〇〇「帰ってからね」
ゆうと「えー!」
みお「えー!」
〇〇「真似した」
北斗が笑う。
みおはもう完全に北斗へ手を伸ばしていた。
みお「ぱぱ、だっこー」
北斗「はいはい」
自然に抱き上げる。
〇〇「あ、慣れてる」
北斗「だから外だから」
〇〇「普通に返事してたけど?」
北斗「……」
ゆうと「ぱぱー!アイス!」
北斗「走るなよ」
ゆうと「はーい!」
全然聞いてない。
〇〇は袋を持ちながらその後ろを歩く。
ふとガラスに映った四人が見えた。
北斗がみおを抱っこして。
ゆうとが隣で笑って。
その横に自分。
本当に普通の家族みたいだった。
〇〇「……なんか不思議」
北斗「何が」
〇〇「こういうの」
〇〇「私達がスーパーで夜ご飯買ってるの」
北斗「あー」
〇〇「しかも子供付き」
北斗が少し笑う。
北斗「確かに」
その時。
ゆうとが急に〇〇の手を握った。
〇〇「ん?」
ゆうと「ままー!」
〇〇「しー!」
慌てて周りを見る。
でも近くを歩いていたおばあちゃんが微笑ましそうに笑っただけだった。
「元気ねぇ」
〇〇「すみません……」
おばあちゃん「若いのに偉いわぁ」
北斗「……」
〇〇「……」
また誤解されてる。
でも否定する前に。
ゆうと「ぱぱ、はやく!」
みお「ぱぱー!」
完全に包囲されていた。
北斗は帽子の下で苦笑いする。
〇〇はその横顔を見て、少し笑った。
そして小さく思う。
こんな日常も。
悪くないなって。
車に荷物を積んで、四人は家へ向かった。
帰り道。
ゆうとは後部座席でアイスの話をずっとしている。
ゆうと「チョコにするかバニラにするか迷った!」
北斗「両方入ってるやつだろ」
ゆうと「そう!」
〇〇「贅沢」
みおは北斗の隣で少し眠そうにしていた。
みお「……ぱぱ」
北斗「ん?」
みお「ねむ」
北斗「あとちょっとな」
小さい頭を優しく撫でる。
〇〇はその様子を見ながら笑った。
本当に自然。
家へ到着。
ゆうと「ついたー!!」
勢いよく降りようとして。
北斗「待て危ない」
すぐ捕まる。
〇〇「元気すぎるって」
みおは抱っこ紐の中でうとうとしていた。
〇〇「みおちゃん寝そう」
北斗「先入る?」
〇〇「うん」
エレベーターへ乗り込む。
スーパーの袋。
カートで買った大量のお菓子。
アイス。
前抱っこのみお。
騒がしいゆうと。
かなり大変なのに。
なぜかみんな楽しそうだった。
ゆうと「オムライスまだー?」
〇〇「今から作るの!」
ゆうと「おなかすいたー!」
北斗「手洗いうがい先」
ゆうと「えぇー!」
〇〇が笑う。
玄関到着。
ドアを開ける。
みお「……ん」
〇〇の胸に顔を埋める。
北斗「完全に眠いな」
〇〇「先寝かせる?」
みお「や!」
即答。
〇〇と北斗が同時に笑う。
ゆうとはもう靴を脱ぎ散らかしてリビングへ走っていた。
北斗「こら!」
〇〇「靴揃えてー!」
ゆうと「はーい!」
全然揃ってない。
北斗がため息混じりに笑う。
その瞬間。
ふと静かになる。
リビング。
明るい部屋。
子供の声。
隣には〇〇。
あまりに自然で。
北斗は一瞬だけ、ここが現実じゃないみたいに思った。
結局。
「〇〇は座ってて」
そう言ったのは北斗だった。
〇〇「え?」
北斗「俺作る」
〇〇「いや作れるし!」
北斗「前のオムライス覚えてる?」
〇〇「……」
北斗「卵スクランブルエッグみたいになってた」
ゆうとが爆笑する。
〇〇「笑わないで!頑張ったの!」
北斗も吹き出した。
結局キッチンには北斗。
〇〇はゆうととソファへ移動。
みおは〇〇の隣でクッションにもたれて座っていた。
キッチンから包丁の音。
北斗は慣れた手つきで料理を始めている。
〇〇「なんでそんなできるの」
北斗「一人暮らし長いから」
〇〇「すご……」
ゆうと「〇〇ちゃん!」
〇〇「ん?」
ゆうと「トランプしよ!」
〇〇「いいよー」
ゆうとはすぐカードを広げ始める。
みおはその横でカードを一枚持っていた。
みお「わぁ」
〇〇「みおちゃんもやる?」
みお「やるー」
もちろんルールなんてわかってない。
でもカードを持ってるだけで楽しそう。
キッチンから北斗がちらっと見る。
ソファで笑う三人。
ゆうとは〇〇にべったりだし、みおは〇〇の膝にくっついてる。
北斗「……」
なんかもう。
本当に家みたいだった。
〇〇「北斗ー」
北斗「ん?」
〇〇「お腹すいたー」
北斗「子供か」
ゆうと「ぼくもー!」
みお「もー!」
〇〇が笑い転げる。
北斗もつられて笑った。
ケチャップライスを炒めながら、北斗はふと思う。
もし本当に。
こんな毎日が続いたら。
朝起きて。
〇〇がいて。
子供達が騒いで。
夜ご飯作って。
くだらないことで笑って。
北斗「……だめだろ」
小さく呟く。
〇〇「何ー?」
北斗「なんでもない」
でもその声は少しだけ優しかった。
キッチンからいい匂いが広がり始める。
北斗はフライパンを振りながらケチャップライスを炒めていた。
〇〇「なんかお腹すいてきた」
北斗「さっきからそれしか言ってない」
ゆうと「ぼくもすいた!」
みお「いた!」
〇〇が笑う。
その時。
ゆうとが急にソファから立ち上がった。
ゆうと「ほくとくーん!」
そのままキッチンへ一直線。
北斗「待て待て危ない」
フライパンを避けながら止めようとする。
すると。
みおも立ち上がる。
みお「にぃにー!」
とてとて走り出した。
〇〇「みおちゃん!?」
慌てて追いかける。
リビングからキッチンまで、小さい追いかけっこ状態。
ゆうと「なにつくってるのー!?」
北斗「熱いから下がれって」
みお「みるー!」
〇〇「危ない危ない!」
北斗は片手でゆうとを軽く止めながら、もう片方でフライパンを持っていた。
完全にお父さん。
〇〇はみおを後ろから抱き止める。
みお「んー!」
〇〇「熱いからだめー」
みおは不満そうに北斗を見る。
北斗「あとでな」
みお「や!」
〇〇「頑固だ」
ゆうとが背伸びしてフライパンを覗く。
ゆうと「うわ!おいしそう!」
北斗「まだ途中」
その横でみおもじたばた。
みお「みおも!」
〇〇「はいはい」
〇〇はみおを抱っこして少し持ち上げる。
みお「わぁ〜!」
フライパンを見て目を輝かせる。
北斗はその光景を見て思わず笑った。
キッチンに集まる四人。
狭い。
騒がしい。
でもなんか、すごく自然だった。
ゆうと「ぱぱすごーい!」
北斗「……だから外じゃないんだから」
〇〇が吹き出す。
みお「ぱぱー!」
北斗「お前まで」
でも否定しながら笑ってる。
〇〇はそんな北斗を見て、また思う。
ほんとに。
パパ向いてるなって。
〇〇はみおを抱っこしたまま、ゆうとの背中を押す。
〇〇「はい、危ないから戻るよー」
ゆうと「えー!」
北斗「火あるから」
ゆうと「はーい」
みお「はーい」
〇〇「かわいい返事」
二人を連れてソファへ戻る。
みおはまだキッチンの方を見ていた。
みお「ぱぱー」
北斗「もうすぐ」
フライパンを動かしながら返事する。
〇〇はソファへ座って、その光景をぼーっと見ていた。
北斗が料理して。
子供達が騒いで。
なんか妙に落ち着く。
ゆうと「〇〇ちゃん!」
〇〇「んー?」
ゆうと「おなかすいた!」
〇〇「わかる」
みお「いた!」
〇〇が笑う。
その時。
北斗「できた」
いいタイミングで声が飛ぶ。
ゆうと「やったーー!!」
すぐ立ち上がる。
北斗はオムライスを皿へ盛りつけ始めた。
卵を綺麗に乗せて。
ケチャップをかけて。
手際が良すぎる。
〇〇「ほんと上手」
北斗「褒めても何も出ない」
〇〇「いや普通にすごい」
ゆうと「おみせみたい!」
みお「みたい!」
北斗は少し笑いながら、小さい皿も用意する。
みお用。
ちゃんと小さく切ってある。
〇〇「え、優し」
北斗「食べにくいだろ」
〇〇はその横顔をじっと見る。
さらっとやるところが、ずるい。
北斗「何」
〇〇「いや」
〇〇「ほんとパパ向いてる」
北斗の動きが少し止まる。
ゆうと「うん!」
みお「ぱぱ!」
北斗「……はいはい」
もう否定が雑になっていた。
リビングのテーブルには、いつも使ってる椅子が二脚しかなかった。
〇〇「どうする?」
北斗「ソファ前でいいか」
ゆうと「ピクニックみたい!」
〇〇「確かに」
結局。
ソファ前のローテーブルへ料理を並べる。
床にはふかふかのカーペット。
四人でそこへ座った。
ゆうとはもう待ちきれない顔。
みおは北斗の隣へとてとて歩いていく。
そして当然みたいに。
みお「ぱぱー」
北斗の膝へよじ登った。
北斗「はいはい」
自然に支える。
〇〇はその光景を見て笑った。
〇〇「完全に定位置じゃん」
みお「えへへ」
北斗の胸にぴったりくっついて嬉しそう。
ゆうと「みおずるーい!」
〇〇「ゆうとくんは大きいからね」
ゆうと「えー!」
四人で手を合わせる。
ゆうと「いただきまーす!」
〇〇「いただきます」
みお「たーまま!」
北斗「いただきます」
ゆうとはすぐ大きい口で食べ始める。
ゆうと「おいしーー!!」
北斗「急いで食うな」
〇〇も一口食べる。
〇〇「ん、美味しい」
北斗「そりゃよかった」
みおは北斗の膝の上で、小さいスプーンを持って頑張っていた。
北斗「はい、ここ持つ」
みお「ん」
優しく手を支える。
〇〇はまたじっと見てしまう。
自然すぎる。
北斗「何」
〇〇「いや」
〇〇「ほんとに子供慣れしてる」
北斗「してないって」
みお「ぱぱ、あーん」
北斗「え、俺?」
みおはスプーンを一生懸命北斗の口元へ向ける。
〇〇「ふはっ」
ゆうと「みおやさしー!」
北斗は少し困りながらも口を開けた。
北斗「あーん」
みお「えへへ!」
嬉しそう。
その瞬間。
〇〇の胸がまた少しだけあったかくなる。
なんかもう。
この空間が幸せすぎた。
ゆうとはオムライスを食べながら、北斗と〇〇を交互に見ていた。
何か考えてる顔。
〇〇「どうしたの?」
ゆうと「ねえ」
北斗「ん?」
ゆうと「〇〇ちゃんとほくとくんって」
〇〇「うん?」
ゆうと「おたがいすきなの?」
空気が止まる。
北斗「っ……」
危うくむせそうになる。
〇〇「え!?」
みお「しゅきー?」
ゆうとは真剣な顔。
ゆうと「だってずっとなかよしだし」
〇〇「いや、あのね」
北斗「……」
〇〇「仲良いだけ!」
ゆうと「ふーん?」
全然納得してない。
みおも北斗の膝の上で、二人を見上げていた。
みお「ぱぱ、まますき?」
北斗「……」
〇〇「みおちゃんまで!?」
北斗は額を押さえる。
子供相手なのに心臓に悪すぎる。
ゆうと「〇〇ちゃんは?」
〇〇「えぇ!?」
ゆうと「ほくとくんすき?」
〇〇「そりゃ好きだよ!」
北斗が顔を上げる。
〇〇「友達としてね!?」
慌てて付け足す。
ゆうと「ともだちでもすきじゃん!」
〇〇「まあ……うん」
みお「しゅきー!」
みおまで笑ってる。
北斗はもう完全に困っていた。
でも。
〇〇が“好き”って言った瞬間だけ。
少しだけ期待してしまった自分がいて。
それがまた厄介だった。
〇〇「北斗もでしょ!?」
急に話を振られる。
北斗「……え」
〇〇「私のこと好きでしょ!?」
ゆうと「おぉー!」
みお「おー!」
北斗は数秒黙ったあと。
静かに笑った。
北斗「……好きだよ」
〇〇「ほら!」
〇〇は完全に“友達として”の意味で受け取って笑ってる。
でも北斗だけは。
違う意味で言っていた。
ゆうと「やっぱりー!」
嬉しそうに手を叩く。
みおも真似してぱちぱち。
みお「しゅきー!」
〇〇「もう二人とも〜」
笑いながらみおの頭を撫でる。
北斗は静かにオムライスを口へ運んだ。
平然としてるふり。
でも心臓は全然平然じゃない。
〇〇「ていうか北斗、“好きだよ”普通に言うからびっくりした」
北斗「お前が振ったんだろ」
〇〇「まあそうだけど」
ゆうと「じゃあけっこんする?」
北斗「ぶっ」
今度こそむせた。
〇〇「ゆうとくん!?」
みお「けっこん!」
完全に楽しんでる。
ゆうと「だってパパとママじゃん!」
〇〇「違う違う!」
北斗は咳き込みながら水を飲む。
〇〇「大丈夫?」
北斗「……誰のせいだと」
耳まで赤い。
〇〇はそれを見て笑っていた。
でも北斗は笑えない。
“結婚”
子供の何気ない言葉なのに。
想像してしまうから。
〇〇と同じ家で暮らして。
子供がいて。
こんな風にご飯食べて。
毎日笑って。
北斗「……はぁ」
小さく息を吐く。
〇〇「ほんと大丈夫?」
北斗「大丈夫」
みおは北斗の膝の上で眠そうに目を擦っていた。
みお「ねむ……」
〇〇「限界だ」
ゆうと「みおねる?」
みお「ん……」
北斗は小さい体を支え直す。
その腕の中で、みおは安心したみたいに北斗へ寄りかかった。
〇〇はその光景をまた見つめる。
〇〇「……優しいね」
北斗「ん?」
〇〇「北斗ってほんと優しい」
北斗は少しだけ目を逸らした。
その言葉を真正面から受け取るには。
好きが大きくなりすぎていた。
ゆうとはまだ元気いっぱいでオムライスを食べ続けていた。
ゆうと「おかわりある!?」
北斗「ある」
ゆうと「やったー!」
〇〇「成長期すご」
みおはもう完全に眠そうだった。
北斗の胸に頭を預けて、うとうとしている。
みお「……ぱぱ」
北斗「んー?」
みお「すき」
北斗の動きが少し止まる。
〇〇「かわいい……」
みおは半分寝ながら言ってるから、もう無意識みたいなもの。
でも破壊力がすごい。
北斗「……ありがと」
小さい声で返す。
〇〇はその横顔を見て、ふっと笑った。
〇〇「北斗って絶対いいパパになるよね」
また。
さらっと言う。
北斗は視線を落とした。
北斗「……」
〇〇「子供好きそうだし」
北斗「別に」
〇〇「いや好きじゃん」
ゆうと「すきだよ!」
みお「しゅきー!」
北斗「お前らな」
〇〇が笑う。
でも次の瞬間。
〇〇は少し真面目な顔で呟いた。
〇〇「なんかいいなぁ」
北斗「何が」
〇〇「こういうの」
〇〇はテーブルを見渡す。
食べかけのオムライス。
騒がしい子供達。
あったかい部屋。
北斗。
〇〇「家族って感じ」
北斗の胸がまた苦しくなる。
〇〇は何も知らない。
無防備にそんなことを言う。
〇〇「私、こういう家庭いいなーって思う」
ゆうと「じゃあほくとくんとけっこんじゃん!」
〇〇「だから違うって!」
笑いながら否定する。
でも北斗は笑えなかった。
もし。
少しでも可能性があるなら。
そんな期待、してしまうから。
ご飯を食べ終わる頃には、みおは完全にうとうとしていた。
北斗の胸に寄りかかったまま、目をこすっている。
〇〇「みおちゃん限界だね」
みお「んぅ……」
ゆうとはまだ元気。
アイスを食べる気満々で冷凍庫を見ていた。
ゆうと「アイス!!」
北斗「風呂入ってから」
ゆうと「えぇー!」
〇〇「先にお風呂ー」
ゆうと「はーい……」
しぶしぶ。
〇〇は食器を片付けようとして立ち上がる。
すると北斗が先に皿を持った。
〇〇「え、やる!」
北斗「いい」
〇〇「でも作ってもらったし」
北斗「じゃあゆうと見てて」
〇〇「……それ絶対大変な方」
北斗が笑う。
ゆうとはソファでぴょんぴょんしていた。
みおは北斗の膝の上で、もうほぼ寝てる。
〇〇「みおちゃん先寝かせる?」
北斗「風呂どうする」
〇〇「あー……」
悩んでいると。
みお「ままぁ……」
眠そうに〇〇へ手を伸ばす。
〇〇「はいはい」
抱っこを代わる。
みおはすぐ〇〇の肩へ顔を埋めた。
その姿があまりに自然で。
北斗は一瞬見惚れる。
〇〇「軽い〜」
みお「ん……」
背中を優しく叩く〇〇。
静かな顔。
柔らかい声。
北斗は思う。
きっと〇〇は、いい母親になる。
好きな人との子供を、愛情いっぱいで育てるんだろうなって。
その“好きな人”が自分じゃないかもしれないことが。
少しだけ苦しかった。
ゆうと「ほくとくん!」
北斗「ん?」
ゆうと「おふろいこ!」
北斗「はいはい」
北斗は立ち上がる。
その時。
〇〇がふと笑った。
〇〇「なんかさ」
北斗「?」
〇〇「今日だけで何回“家族みたい”って言われたんだろ」
北斗「……」
〇〇「ちょっと面白いね」
北斗は少しだけ笑って。
でも小さく思う。
面白いだけじゃ、もう済まなくなってるって。
北斗はゆうとを連れて風呂場へ向かった。
ゆうと「きょうたのしかった!」
北斗「まだ終わってない」
ゆうと「スーパーもたのしかった!」
北斗「お前ずっと喋ってたもんな」
ゆうと「えへへ」
洗面所からは、〇〇がみおを寝かしつける優しい声が聞こえる。
みお「ままぁ……」
〇〇「ねんねしよっか」
北斗は無意識にそっちを見てしまう。
ゆうと「ほくとくん?」
北斗「あ、ごめん」
ゆうと「〇〇ちゃんすき?」
また。
北斗「……急だな」
ゆうと「だってずっとみてる!」
子供って怖い。
北斗は苦笑いした。
北斗「好きだよ」
ゆうと「やっぱりー!」
嬉しそう。
でも北斗は静かに続けた。
北斗「でも内緒な」
ゆうと「なんで?」
北斗「……難しいから」
ゆうとはよくわかってない顔で頷く。
その頃。
寝室では。
〇〇がみおを抱っこしてベッドへ座っていた。
みおはもう半分寝てる。
〇〇「今日はいっぱい遊んだねぇ」
みお「ん……」
小さい手が〇〇の服をぎゅっと掴む。
〇〇はその温かさに、ふっと笑った。
今日一日。
ずっと賑やかで。
疲れたはずなのに。
不思議と嫌じゃなかった。
むしろ楽しくて。
〇〇「……家族ってこんな感じなのかな」
ぽつりと呟く。
その言葉に、自分でも少し驚いた。
でも本当にそう思った。
北斗がいて。
子供達がいて。
ご飯作って。
スーパー行って。
騒いで。
笑って。
なんか全部が自然だった。
〇〇「……変なの」
小さく笑う。
でも胸の奥が、少しだけあったかかった。
しばらくして。
風呂場からゆうとの元気な声が響いてくる。
ゆうと「ほくとくん見てー!」
北斗「暴れるなって」
ゆうと「わはは!」
〇〇は寝室でその声を聞きながら笑っていた。
みおはもう完全に寝ている。
小さい寝息。
〇〇はそっと前髪を撫でた。
〇〇「かわいい……」
その時。
コンコン。
寝室のドアが少し開く。
北斗だった。
髪が少し濡れている。
北斗「寝た?」
〇〇「うん」
北斗は静かにベッドへ近づく。
みおを起こさないように、小さい声。
北斗「早」
〇〇「限界だったみたい」
二人で寝顔を見る。
安心しきった顔。
〇〇の服をまだ少し掴んでる。
北斗「懐いたな」
〇〇「ね」
静かな空気。
さっきまで騒がしかった分、余計に落ち着く。
〇〇はベッドの端へ座ったまま、小さく笑った。
〇〇「今日すごかったね」
北斗「何が」
〇〇「家族扱い」
北斗が苦笑する。
〇〇「スーパーのおばあちゃんとか完全に信じてたし」
北斗「ゆうとが全部悪い」
〇〇「でも楽しかった」
北斗「……」
〇〇「なんか新鮮だったなぁ」
〇〇はみおの頭を撫でながら続ける。
〇〇「こういうの、私たち仕事的にあんまないじゃん」
北斗「まあ」
〇〇「普通にスーパー行って、ご飯作って、子供いて」
〇〇「なんか平和だった」
北斗は少し視線を落とす。
平和だった。
幸せだった。
だから余計に苦しい。
終わってほしくないって思ってしまうから。
〇〇「北斗?」
北斗「ん?」
〇〇「今日ありがとね」
ふわっと笑う。
その顔を見た瞬間。
北斗はまた何も言えなくなる。
好きだって。
言えたら楽なのに。
北斗は小さく息を吐いて立ち上がった。
北斗「ゆうと見てくる」
〇〇「うん」
寝室を出る。
ドアを閉めた瞬間、リビングから声。
ゆうと「ほくとくーん!!」
北斗「うるさい」
ゆうとはソファの上でバスタオルに包まっていた。
髪はまだ半乾き。
テレビを見ながら待っていたらしい。
ゆうと「みおねた?」
北斗「寝た」
ゆうと「はや!」
北斗「お前が元気すぎるんだよ」
ゆうとはえへへと笑う。
北斗はドライヤーを持ってソファへ座った。
北斗「乾かすぞ」
ゆうと「はーい」
小さい頭をわしゃわしゃ乾かす。
その時間が妙に自然で。
北斗は自分で少し笑ってしまった。
ゆうと「なにわらってるの?」
北斗「別に」
ゆうと「ねえ」
北斗「ん?」
ゆうと「〇〇ちゃんとけっこんしないの?」
またそれ。
北斗「……」
ドライヤーの音だけが少し響く。
ゆうとは純粋な目で見上げていた。
北斗は苦笑いする。
北斗「難しいんだよ」
ゆうと「なんで?」
北斗「大人だから」
ゆうと「おとなってたいへん」
北斗「そうだな」
少し笑う。
ゆうとはしばらく考えてから。
ゆうと「でも〇〇ちゃん、ほくとくんといるとたのしそう!」
北斗の手が止まる。
ゆうと「ぼくわかるよ!」
得意げ。
北斗は目を細めた。
子供なのに、変に鋭い。
北斗「……ありがとな」
ゆうと「うん!」
その時。
寝室の方から〇〇が出てくる。
〇〇「何話してるの?」
ゆうと「ひみつー!」
〇〇「えー!」
北斗はドライヤーを切って、静かに笑った。
秘密。
本当に秘密にしないといけない気持ちだった。
〇〇はソファの後ろから覗き込む。
〇〇「絶対私の話じゃん」
ゆうと「ちがうー!」
顔に出てる。
北斗「出てるぞ」
ゆうと「あ」
〇〇が吹き出す。
ゆうとの髪はドライヤーでふわふわになっていた。
〇〇「かわいい」
ゆうと「かっこいいでしょ!」
北斗「どっちでもいい」
その時。
〇〇のスマホが震える。
画面には松尾。
〇〇「あ、松尾さんだ」
通話に出る。
〇〇「もしもし?」
松尾『今終わったー!!』
かなり疲れてる声。
〇〇「お疲れ様です」
松尾『二人ともほんまありがとう……』
〇〇「全然大丈夫です!」
松尾『ゆうとー!みおー!』
ゆうと「パパー!!」
元気いっぱいにスマホへ近づく。
松尾『おー!いい子にしてたか!?』
ゆうと「した!」
北斗が小さく笑う。
〇〇「みおちゃんは寝ました」
松尾『はやっ!』
〇〇「いっぱい遊んだんで」
松尾『助かるほんまに……あともうちょいで帰れる!』
〇〇「気をつけてくださいね」
通話が切れる。
ゆうと「もうくる?」
〇〇「うん、もうすぐ」
ゆうとは少し嬉しそうで、少し寂しそう。
北斗はそんな様子を見ながら言う。
北斗「アイス食うか」
ゆうと「たべる!!」
一瞬で元気復活。
〇〇「現金」
北斗は冷凍庫からアイスを取り出す。
ゆうと用。
〇〇用。
自分用。
そして。
北斗「〇〇、これ」
〇〇「え?」
差し出されたのは、〇〇がスーパーでちょっと見てた高めのアイス。
〇〇「なんでこれ」
北斗「欲しそうだったから」
〇〇「……」
ゆうと「やさしー!」
〇〇は少しだけ目を丸くして。
そのあと笑った。
〇〇「ありがと」
北斗は何でもない顔をしてる。
でも。
好きな人の小さい変化を、無意識に覚えてしまうくらいには。
もうずっと見ていた。
3人でソファへ座ってアイスを食べ始める。
ゆうとはもう夢中。
ゆうと「おいしー!!」
〇〇「よかったね」
北斗は静かにアイスの蓋を開ける。
その横で、〇〇もスプーンを口へ運んだ。
〇〇「……美味しい」
北斗「だろ」
〇〇「なんで北斗が得意げなの」
ゆうとが笑う。
リビングには穏やかな空気が流れていた。
さっきまでの騒がしさが嘘みたい。
〇〇はアイスを食べながら、ふと呟く。
〇〇「なんか今日濃かったなぁ」
北斗「朝から色々あったしな」
〇〇「スーパーとか特に」
ゆうと「パパとママ!」
〇〇「それそれ」
また笑う。
北斗は苦笑いしながらスプーンを口へ運んだ。
〇〇「でも楽しかった」
北斗「……うん」
〇〇「普通の休日って感じだった」
その言葉に、北斗は少しだけ視線を落とす。
普通。
自分達にはなかなかない時間。
だから余計に特別だった。
ゆうと「ねえねえ!」
〇〇「ん?」
ゆうと「またみんなでスーパーいこうね!」
〇〇「ふふ、行く?」
ゆうと「いく!」
北斗「今度は静かにな」
ゆうと「むり!」
即答。
三人が笑う。
その時。
玄関のインターホンが鳴った。
ゆうと「パパ!!」
ソファから飛び降りる。
北斗「走るな」
〇〇「待って待って」
でもゆうとはもう玄関へ一直線だった。
北斗と〇〇もその後ろを追いかける。
ドアを開けると。
疲れた顔の松尾が立っていた。
松尾「ただいまー……」
ゆうと「パパー!!」
すぐ抱きつく。
松尾「うおっ」
でも嬉しそうに抱き上げた。
〇〇「お疲れ様です」
北斗「お疲れ様です」
松尾は二人を見て、安心したみたいに笑う。
松尾「ほんま助かった……」
その時。
寝室から小さい泣き声。
みお「ままぁ……」
松尾「……え?」
〇〇と北斗が同時に固まる。
ゆうと「みおね、“まま”って〇〇ちゃん呼ぶ!」
松尾が数秒静止。
そのあと。
松尾「……何があった?」
北斗が静かに顔を覆った。
〇〇「いや違うんです!」
松尾「いや絶対なんかあったやん!」
ゆうとは大爆笑。
ゆうと「スーパーでね!」
北斗「お前喋るな」
みおはまだ寝室でぐずっている。
みお「ままぁ……」
〇〇「ちょっと行ってきます!」
慌てて寝室へ向かう。
松尾はぽかんとしたまま北斗を見る。
松尾「……お前ら今日何してたん?」
北斗「色々です」
ゆうと「パパとママしてた!」
北斗「だからお前は喋るな」
松尾が吹き出す。
松尾「いやおもろすぎるやろ」
北斗は深いため息。
その頃寝室。
〇〇はベッドへ座ってみおを抱き上げていた。
〇〇「大丈夫だよー」
みお「ままぁ……」
まだ眠くて目が開いてない。
〇〇は優しく背中を撫でる。
するとみおは安心したみたいに、また〇〇へくっついた。
その姿を見て。
後ろから来た松尾が目を丸くする。
松尾「うわ、めっちゃ懐いてるやん」
〇〇「なんか今日ずっとで……」
松尾「すご」
そこへ北斗も来る。
みおは半分寝ぼけたまま。
みお「ぱぱ……」
北斗「……」
松尾「待って待って待って」
完全にツボ入ってる。
松尾「お前ら何したんほんま!」
〇〇が笑い崩れる。
北斗はもう諦めたみたいな顔。
ゆうとも寝室へ入ってきて。
ゆうと「みおー!」
松尾「ゆうと、お前説明して」
ゆうと「スーパーでね!」
ゆうと「げいのうじんだから、“パパ”と“ママ”って呼んでって!」
松尾「あーーー!!」
やっと理解。
でもそのあと、ニヤッと笑う。
松尾「……で?」
北斗「で?」
松尾「ちょっと楽しかったやろ」
北斗「……」
〇〇「楽しかったです」
即答。
松尾が爆笑する。
北斗は静かに天井を見上げた。
好きな相手が無邪気すぎて、心臓がもたない。
時間はもうかなり遅くなっていた。
松尾も次の日朝早いらしく、そろそろ帰ることに。
〇〇「荷物これです!」
松尾「ありがとう〜」
ゆうとは眠そうにしながらも、自分でリュックを背負っていた。
でも。
問題はみお。
〇〇の腕の中で、完全にくっついて離れない。
松尾「みおー、帰るでー」
みお「や!」
即答。
〇〇「えぇ!?」
北斗が思わず笑う。
松尾「パパ悲しいわぁ」
みおは〇〇の服をぎゅっと掴いていた。
みお「ままぁ……」
〇〇「みおちゃん〜」
完全に懐かれてる。
松尾が抱っこしようと手を伸ばす。
でも。
みお「やぁぁ!!」
泣き出した。
〇〇「わ、大丈夫大丈夫」
慌てて背中を撫でる。
みおは涙をぽろぽろこぼしながら、〇〇へしがみついていた。
ゆうと「みおないてる!」
松尾「やばい、完全に第二の家なっとる」
北斗「すごいな」
〇〇は困ったように笑いながら、みおをあやす。
〇〇「また会えるよ?」
みお「やぁ……」
小さい手が離れない。
その時。
北斗がそっと近づいた。
北斗「みお」
みお「……ぱぱ」
北斗「今日はお家帰ろうな」
優しく頭を撫でる。
みおは涙目のまま北斗を見る。
北斗「また遊ぼ」
みお「……あしょぶ?」
北斗「うん」
みおは少しだけ落ち着いた。
でもまだ〇〇にべったり。
松尾「すげぇなほんま」
〇〇「かわいそうになってきた……」
北斗は苦笑いしながら、みおの小さい手を優しく外す。
みお「んぅ……」
また泣きそう。
北斗「ほら、パパいる」
松尾「俺ほんまのパパやねんけどな!?」
〇〇が吹き出す。
ゆうとも笑ってる。
やっとみおを松尾へ渡す。
でもみおは最後まで〇〇へ手を伸ばしていた。
みお「ままぁぁ……」
〇〇「またね、みおちゃん」
北斗はその光景を見ながら、静かに思う。
〇〇はきっと。
誰かの特別な“家族”になる人なんだろうなって。
玄関のドアが閉まる。
一気に静かになった。
さっきまであんなに騒がしかったのに。
〇〇「……帰っちゃったね」
北斗「だな」
二人ともなんとなく玄関に立ったまま。
少しだけ寂しい。
〇〇は小さく笑う。
〇〇「みおちゃんめっちゃ泣いてた」
北斗「懐きすぎ」
〇〇「かわいかったなぁ」
北斗は靴を揃えながら頷く。
リビングへ戻る。
そこには食べ終わったアイス。
散らかったトランプ。
小さいクッション。
一日いた痕跡がそのまま残っていた。
〇〇「……静か」
ソファへ座り込む。
北斗も少し離れて座った。
数秒沈黙。
でも嫌な沈黙じゃない。
どこか心地いい。
〇〇「なんか今日すごかったね」
北斗「何回目それ」
〇〇「だってほんとに」
笑いながらクッションを抱える。
〇〇「私さ」
北斗「ん?」
〇〇「子供こんな好きだと思わなかった」
北斗は横目で〇〇を見る。
〇〇「みおちゃんとかほんと可愛かったし」
〇〇「ゆうとくんもずっと面白いし」
〇〇は少し天井を見上げた。
〇〇「家族っていいなーって思った」
北斗の胸がまた苦しくなる。
でも〇〇は気づかない。
〇〇「なんか幸せそうだった」
北斗「……幸せだったよ」
ぽつり。
〇〇「ん?」
北斗「今日」
〇〇は少し目を丸くして。
そのあとふわっと笑った。
〇〇「ね」
その笑顔だけで。
北斗はまた何も言えなくなる。
好きだって言いたい。
でも。
今の関係が壊れる方が怖かった。
〇〇「北斗」
北斗「ん?」
〇〇「今日はありがと」
〇〇「なんか、すごい楽しかった」
北斗は小さく笑う。
北斗「……俺も」
静かなリビング。
二人きりに戻った部屋なのに。
まだどこか、温かさが残っていた。
〇〇はソファへ深くもたれた。
さっきまであんなに賑やかだった部屋。
今は時計の音だけがやけに聞こえる。
〇〇「……さみし」
北斗「早いな」
〇〇「だって急に静かすぎる」
クッションを抱えながら呟く。
北斗は小さく笑った。
テーブルの上には、みおが触っていた小さいスプーン。
ゆうとが出しっぱなしにしたトランプ。
全部そのまま。
〇〇「なんか夢みたいだったなぁ」
北斗「夢?」
〇〇「うん」
〇〇「スーパー行って、ご飯作って、みんなで食べて」
〇〇「普通の家族みたいだった」
北斗の視線が少し揺れる。
〇〇は気づかず続けた。
〇〇「私たち、普段ああいう生活ないじゃん」
〇〇「だからなんか新鮮だった」
静かな声。
でもどこか名残惜しそう。
〇〇「みおちゃんの“ままぁ”も可愛かったなぁ」
北斗「懐かれてたな」
〇〇「ね」
少し笑う。
でもすぐまた静かになる。
〇〇「……帰っちゃった」
ぽつり。
北斗はその横顔を見る。
寂しそうにクッションを抱えてる〇〇。
その姿が、なんか子供みたいで。
北斗「また来るだろ」
〇〇「うん」
〇〇「でも今日楽しかったから余計に」
〇〇は膝を抱える。
〇〇「なんかさ」
北斗「ん?」
〇〇「私、ああいう家庭いいなってほんとに思った」
北斗の胸がぎゅっとなる。
〇〇「仕事忙しくても、帰ったらあったかいご飯あって」
〇〇「子供がいて、みんなで笑って」
〇〇「なんか幸せそうだった」
北斗は静かに息を吐いた。
その“隣”を想像してしまう。
何回も。
〇〇「北斗絶対いいパパになるよ」
また言う。
無邪気に。
北斗は少し笑って。
北斗「……〇〇もいい母親になるよ」
〇〇「えー?」
照れたみたいに笑う。
その顔が優しくて。
北斗はまた、好きが溢れそうになる。
〇〇はクッションを抱えたまま、しばらくぼーっとしていた。
静かなリビング。
さっきまでの賑やかさが嘘みたい。
〇〇「……お風呂入ってこよ」
北斗「ん」
〇〇はゆっくり立ち上がる。
その途中、床に落ちていた小さいカードを拾った。
みおが握っていたやつ。
〇〇「ふふ」
自然に笑ってしまう。
北斗はその横顔を見ながら、小さく息を吐いた。
〇〇「なんか今日、濃すぎた」
北斗「確かに」
〇〇「でも楽しかったなぁ」
北斗「……うん」
〇〇はそのまま洗面所へ向かう。
途中で振り返って。
〇〇「北斗」
北斗「?」
〇〇「オムライス美味しかった」
北斗は少しだけ笑った。
北斗「今更」
〇〇「ちゃんと言っとこうと思って」
ふわっと笑って、そのまま洗面所へ消える。
しばらくして。
シャワーの音が聞こえ始めた。
北斗は一人、静かなリビングに残る。
テーブルの上。
四人で食べた食器。
散らかったトランプ。
子供達がいた痕跡。
北斗はソファへ深く座った。
今日一日。
ずっと幸せだった。
だからこそ苦しい。
〇〇が無防備に笑うたび。
“家族みたい”って言うたび。
期待してしまう。
北斗「……だめだって」
小さく呟く。
でも。
もう簡単には抑えられなくなっていた。
北斗はソファへもたれたままスマホを手に取る。
少し迷って。
連絡先を開いた。
「樹」
数コールで出る。
樹『もしもーし』
北斗「起きてた?」
樹『起きてるわ。どした?』
北斗は小さく息を吐く。
北斗「……今日さ」
樹『うん』
北斗「子供預かってた」
樹『は?急に?』
北斗「松尾さんの」
樹『あーなるほど』
樹は納得したみたいに笑った。
樹『で?』
北斗「……」
樹『その“で?”待ちみたいな間やめろよ』
北斗は天井を見上げる。
北斗「〇〇が」
樹『うん』
北斗「めちゃくちゃ母親向いてた」
電話の向こうで樹が吹き出した。
樹『重症じゃん』
北斗「うるさい」
樹『いや想像できるわ』
北斗「子供二人とも懐いて」
北斗「スーパー行って」
北斗「パパママって呼ばれて」
樹『は!?』
樹が爆笑し始める。
北斗「笑うな」
樹『無理だろそれ!』
北斗「芸能人だから外だけそう呼べって」
樹『でもちょっと嬉しかったろ』
北斗「……」
樹『図星かよ』
北斗は無言。
その沈黙だけで答えになっていた。
樹『お前ほんとわかりやすいな』
北斗「別に」
樹『で、〇〇は?』
北斗「普通」
樹『あー……』
北斗「家族っていいなーとか」
北斗「子供欲しいなーとか」
樹『うわぁ』
北斗「やめろ」
樹『それお前に言ってるわけじゃないのキツいな』
北斗「わかってる」
静かに返す。
洗面所からシャワーの音。
北斗はそっちをちらっと見る。
樹『でもさ』
北斗「?」
樹『〇〇、お前といる時めちゃくちゃ自然じゃん』
北斗は黙る。
樹『今日だって嫌だったらそんな空気ならんだろ』
北斗「……」
樹『お前らもう夫婦みたいじゃん』
北斗「それ今日何回も言われた」
樹がまた笑う。
でも北斗は笑えなかった。
夫婦みたい。
家族みたい。
そんな言葉が嬉しいくらいには。
もう戻れなくなっていた。
樹『で?どうすんの』
北斗「何が」
樹『告白』
北斗は静かに目を閉じた。
北斗「……しない」
樹『またそれ』
北斗「今のままでいい」
樹『絶対よくない顔して言ってる』
北斗「うるさい」
樹は少し黙ったあと、小さく笑った。
樹『お前さ、〇〇のこと好きすぎんのよ』
北斗「……」
否定できない。
樹『だから怖いんだろ』
北斗「……壊れんのが嫌」
ぽつり。
本音だった。
今の距離。
今の関係。
同じ家で暮らして、隣で笑ってくれる毎日。
それがなくなるくらいなら。
気持ちなんて隠したままでいい。
樹『でも今日みたいなの続いたら無理じゃね?』
北斗は苦笑する。
その通りすぎる。
今日だけで何回心臓がおかしくなったかわからない。
“好き?”
“結婚する?”
“家族みたい”
その度に期待して。
勝手に苦しくなって。
北斗「……疲れた」
樹『恋で疲れてる男初めて聞いたわ』
北斗「うるさい」
その時。
洗面所のドアが開く音。
北斗が反射的にそっちを見る。
樹『あ、出てきた?』
北斗「……うん」
〇〇が髪をタオルで拭きながらリビングへ戻ってくる。
白のバスローブ。
風呂上がりで少し赤い頬。
完全に無防備。
〇〇「誰と電話?」
北斗「樹」
〇〇「あ、じゅったん?」
樹『聞こえてるぞー』
〇〇「あはは、ごめんごめん」
〇〇は北斗の隣へ自然に座る。
距離が近い。
シャンプーの匂い。
北斗は思わず視線を逸らした。
樹『北斗顔赤くね?』
北斗「うるさい切るぞ」
〇〇「え、赤い?」
普通に顔を覗き込んでくる。
近い。
北斗「近いって」
〇〇「ほんとだ、ちょっと赤い」
樹が電話の向こうで笑い崩れてる。
樹『おもろすぎるだろお前ら』
北斗はもう頭を抱えたくなっていた。
〇〇は北斗の顔を覗き込んだまま首を傾げる。
〇〇「のぼせた?」
北斗「違う」
樹『絶対違くないだろ』
北斗「黙れ」
〇〇が笑う。
風呂上がりで機嫌も緩んでるのか、いつもより距離感が近い。
北斗はそれが余計に心臓に悪かった。
〇〇「樹何してたの?」
樹『俺は今北斗の恋愛相談聞いてた』
北斗「おい」
〇〇「恋愛相談!?」
目を丸くする。
樹『そうそう』
北斗「違うから」
樹『いや合ってる』
〇〇は一瞬止まってから、急にニヤッと笑った。
〇〇「え、誰!?」
北斗「いない」
〇〇「いるじゃんその反応!」
樹『いるよな〜?』
北斗「樹」
低い声。
でも〇〇は完全に食いついていた。
〇〇「えー気になる!」
北斗「気にすんな」
〇〇「知りたい!」
ソファでぐいぐい近づいてくる。
北斗は少し後ろへ引いた。
でも逃げきれない。
〇〇「どんな人?」
樹『俺言おうか?』
北斗「やめろ」
樹『めちゃくちゃ可愛くて』
北斗「樹」
樹『鈍感で』
〇〇「へぇ〜」
樹『でも一緒にいると落ち着くらしくて』
〇〇は楽しそうに聞いてる。
何も知らずに。
北斗はもうため息しか出なかった。
樹『しかも今日、家族みたいなことしてたらしい』
〇〇「あはは!それ私も言われた!」
樹『だろ?』
〇〇「スーパーでめっちゃパパママ扱いされた!」
楽しそうに笑う。
北斗は横で静かに死にそうだった。
樹『北斗嬉しかった?』
北斗「切るぞ」
〇〇「え、嬉しかったの?」
北斗「……」
〇〇がじーっと見る。
北斗は数秒黙って。
小さく笑った。
北斗「……まあ、楽しかったよ」
〇〇はふわっと笑う。
〇〇「ね」
その笑顔だけで。
やっぱり北斗は、全部だめになると思った。
樹『はいはい、ごちそうさま』
〇〇「何が?」
樹『いや別に?』
北斗「お前絶対ニヤニヤしてるだろ」
樹『してる』
即答。
〇〇が笑う。
北斗は深いため息をついた。
樹『まあでもさ』
北斗「?」
樹『今日楽しかったならよかったじゃん』
北斗は少し黙る。
そして小さく頷いた。
北斗「……うん」
本当に。
楽しかった。
楽しすぎた。
だから困ってる。
〇〇「今度またみんなで集まりたいなぁ」
北斗「また預かる気?」
〇〇「だめ?」
北斗は少し笑った。
北斗「だめじゃない」
〇〇「やった」
嬉しそう。
樹『もう夫婦会話なんよ』
北斗「お前まだいたのか」
樹『ひど』
〇〇はクスクス笑いながら、ソファへ背中を預けた。
風呂上がりで眠そうなのか、少しだけ目を細めている。
北斗は無意識にその横顔を見てしまう。
樹『北斗』
北斗「ん?」
樹『顔やばい』
北斗「うるさい」
〇〇「え?」
樹『もう好き好き顔してる』
北斗「切る」
〇〇「ちょっ、待って気になる!」
北斗はそのまま通話終了ボタンを押した。
樹『あっ、おい!』
通話終了。
リビングが静かになる。
〇〇「あー切った!」
北斗「うるさいから」
〇〇「絶対何か隠してる」
北斗「隠してない」
〇〇はじーっと北斗を見る。
でも北斗は視線を合わせない。
〇〇「……ほんとに好きな人いるの?」
ぽつり。
北斗の喉が少し詰まる。
すぐ隣にいる。
なんて、言えるわけない。
北斗「……どうだろ」
曖昧に笑う。
〇〇は少し不思議そうな顔をしたあと、ふっと笑った。
〇〇「いたら応援するのに」
その無邪気な一言が。
北斗には少しだけ痛かった。
〇〇はソファから立ち上がった。
〇〇「片付けるかぁ」
テーブルの上には食べ終わったアイスの容器。
使った皿。
トランプ。
一日の名残がそのまま残っている。
北斗も立ち上がる。
北斗「皿持って」
〇〇「はーい」
二人で並んで片付け始める。
〇〇はアイスの容器を重ねながら、小さく笑った。
〇〇「なんか文化祭のあとみたい」
北斗「なんで」
〇〇「楽しかったあとって感じ」
北斗は少しだけ笑う。
シンクへ皿を運ぶ〇〇。
北斗はその横で水を流した。
自然と並ぶ距離。
静かな夜。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいだった。
〇〇「北斗」
北斗「ん?」
〇〇「ありがとね今日」
また言う。
北斗「何回言うんだよ」
〇〇「だってほんとに助かったし楽しかったもん」
〇〇はスポンジを差し出した。
〇〇「はい」
北斗「……ん」
受け取る時、指先が少し触れる。
ほんの一瞬。
でも北斗は無駄に意識してしまう。
〇〇は全然気づいてない。
〇〇「みおちゃん最後めっちゃ泣いてたね」
北斗「懐きすぎな」
〇〇「かわいかったなぁ」
ふわっと笑う。
北斗はその横顔を見てしまう。
優しくて。
柔らかくて。
好きだなってまた思う。
〇〇「また来てほしい」
北斗「だな」
〇〇「次はもっといっぱい遊びたい」
北斗「体力持つ?」
〇〇「あ」
二人で笑った。
北斗は皿を洗いながら、小さく息を吐く。
こんな時間がずっと続けばいいのにって。
また思ってしまった。
片付けは思ったより早く終わった。
四人分の食器。
散らかったトランプ。
小さいスプーン。
全部片付け終わると、本当に静かになる。
〇〇「……終わっちゃった」
北斗「寂しがりか」
〇〇「だって今日楽しかったもん」
〇〇はキッチン台にもたれながら笑う。
風呂上がりのせいか、少し眠そう。
北斗は洗った手を拭きながらその横を見る。
〇〇「なんかまだみおちゃんの声聞こえそう」
北斗「“ままぁ”?」
〇〇「それ」
吹き出す。
〇〇「ちょっと嬉しかったんだよね、あれ」
北斗「へぇ」
〇〇「懐いてくれてる感じして」
北斗は小さく頷く。
〇〇は昔からそうだ。
誰かに向ける優しさが自然。
だからみんな懐く。
〇〇「北斗もめっちゃ懐かれてたよね」
北斗「まあ」
〇〇「“ぱぱー”って」
〇〇がまた笑う。
北斗は視線を逸らした。
〇〇「でも似合ってた」
北斗「何が」
〇〇「パパ」
その言葉に、北斗の動きが少し止まる。
〇〇は気づかないまま続けた。
〇〇「なんか普通に想像できたもん」
北斗「……」
〇〇「子供と遊んでる北斗」
北斗はタオルを置いて、小さく息を吐く。
想像できた。
その言葉だけで期待してしまう自分が嫌になる。
〇〇「私もあんな家庭ほしいなぁ」
ぽつり。
夜だからか。
声がいつもより柔らかい。
北斗「……〇〇なら作れるだろ」
〇〇「そうかな」
北斗「うん」
〇〇は少し笑った。
そのあと。
〇〇「北斗は?」
北斗「何が」
〇〇「将来どんな家庭ほしいとかあるの?」
真正面から聞かれる。
北斗は少し黙って。
ゆっくり〇〇を見た。
そして静かに答える。
北斗「……今日みたいな感じ」
〇〇は一瞬目を丸くして。
そのあと優しく笑った。
〇〇「いいね、それ」
片付けが全部終わる。
シンクも綺麗。
テーブルの上も元通り。
さっきまでの賑やかさが嘘みたいだった。
〇〇「ほんとに終わっちゃったね」
北斗「だな」
〇〇はふぅっと息を吐いて、リビングへ戻る。
ソファへぽすんと座った。
北斗も少し遅れて隣へ座る。
二人ともなんとなく疲れていた。
でも嫌な疲れじゃない。
〇〇「今日何回笑ったんだろ」
北斗「知らん」
〇〇「めっちゃ笑った気する」
北斗は小さく笑う。
〇〇は天井を見上げたまま呟く。
〇〇「なんか幸せだったなぁ」
北斗の心臓がまた少しだけ跳ねる。
〇〇「忙しかったけど、楽しかった」
〇〇「こういう一日もいいね」
北斗「……うん」
静かな返事。
でも本音だった。
〇〇は眠そうに目を擦る。
〇〇「さすがに眠いかも」
北斗「今日は色々あったしな」
〇〇「子供って体力すごいね」
北斗「実感した?」
〇〇「した……」
二人で少し笑う。
そのあと。
静かな空気が流れる。
窓の外はもう深夜。
部屋の明かりだけがあったかい。
〇〇はぼーっと前を見ながら、小さく言った。
〇〇「またこういう日あったらいいな」
北斗は少しだけ目を細める。
そして誰にも聞こえないくらい小さな声で。
北斗「……あったらいいな」
静かなリビング。
テレビもついてない。
聞こえるのは時計の音だけ。
〇〇はソファにもたれたまま、ぼーっとしていた。
少しして。
ふと身体を動かす。
そして。
北斗との距離を一歩だけ縮めた。
ぴた、と隣へ寄る。
北斗「……何」
〇〇「んー?」
眠そうな声。
〇〇「なんとなく」
近い。
肩が少し触れそうなくらい。
風呂上がりの柔らかい匂い。
北斗は無意識に息を止める。
〇〇はそんなこと全然気づいてない。
ソファへ身体を預けながら、小さく笑った。
〇〇「今日ほんと疲れたぁ」
北斗「お疲れ」
〇〇「北斗も」
そのまま。
〇〇の頭が少しだけ北斗の肩へ寄りかかる。
北斗「……」
心臓がうるさい。
〇〇「なんか落ち着く」
ぽつり。
北斗は視線を落とした。
近すぎる。
好きな相手がこんな無防備なの、反則だと思う。
〇〇「ねえ」
北斗「ん?」
〇〇「今日さ」
〇〇「ほんと家族みたいだったね」
またその言葉。
でも今度は。
北斗の胸に少しだけ優しく刺さった。
北斗「……そうだな」
〇〇は眠そうに笑う。
その横顔を見ながら。
北斗は思ってしまう。
このまま時間が止まればいいのにって。
〇〇は北斗の肩にもたれたまま、小さく欠伸をした。
〇〇「……ねむ」
北斗「寝ろ」
〇〇「んー……」
しばらくそのまま動かなかったけど。
数秒後。
〇〇はゆっくり身体を起こした。
〇〇「ベッド行こ」
北斗「うん」
二人で立ち上がる。
リビングの電気を少し落として。
静かな廊下を並んで歩く。
今日一日が濃すぎて、不思議な感覚だった。
寝室へ入る。
〇〇は先にベッドへ倒れ込んだ。
〇〇「あーー疲れたぁ」
北斗「おっさんみたい」
〇〇「失礼」
でも声がもう眠そう。
北斗は苦笑しながら反対側へ座った。
〇〇は布団へ顔を埋める。
〇〇「今日ほんと楽しかった」
北斗「……うん」
〇〇「みおちゃん可愛かったなぁ」
北斗「ゆうともな」
〇〇「また会いたい」
ぽつぽつ話す声が、だんだん小さくなる。
完全に眠気限界。
北斗はその様子を静かに見ていた。
〇〇「北斗」
北斗「ん?」
〇〇「今日はありがとね」
目を閉じたまま呟く。
北斗は少しだけ笑った。
北斗「こちらこそ」
〇〇は安心したみたいに小さく笑う。
そのまま布団へ潜った。
北斗も部屋の電気を消して、隣へ入る。
暗い部屋。
静かな空気。
でも今日はどこか温かかった。
暗くなった寝室。
窓の外の明かりだけが少し差し込んでいる。
〇〇は布団にくるまりながら、小さく動いた。
そして自然みたいに。
北斗の方へ近づく。
北斗「……」
距離が近い。
今日はずっとそうだった。
でも寝る前になると余計に意識してしまう。
〇〇「北斗」
眠そうな声。
北斗「ん?」
〇〇「なんか今日さ」
〇〇「すごい幸せだった」
静かな部屋に、その声だけが響く。
北斗は少しだけ目を閉じた。
北斗「……うん」
〇〇「変な感じ」
〇〇「忙しかったのに、なんか落ち着いた」
北斗は隣で小さく笑う。
〇〇は半分寝ながら続けた。
〇〇「北斗いたからかな」
その一言に。
北斗の呼吸が止まりそうになる。
でも〇〇は気づかない。
眠気でふわふわしたまま。
〇〇「一人じゃ絶対無理だったし」
〇〇「北斗いたから楽しかった」
北斗は暗闇の中で天井を見上げた。
好きな人にそんなこと言われて。
平気でいられるわけがない。
〇〇は布団の中で少しだけ北斗の袖を掴む。
〇〇「またみんなで遊びたいね」
北斗「……そうだな」
〇〇「次はもっと上手くママできる気がする」
小さく笑う。
北斗も少しだけ笑った。
北斗「十分だったろ」
〇〇「ほんと?」
北斗「うん」
〇〇は安心したみたいに、ふにゃっと笑う。
そしてそのまま。
北斗の腕に少しだけ触れながら眠り始めた。
北斗「……」
静かな寝息。
近い体温。
今日だけで何回好きになったんだろう。
もう数えるのも無理だった。