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『はじめのいーーーっぽ!!』


アリスの声に合わせて、全員、一歩前に出る。


「だーーーるーーー……」


アリスが皆に背を向け、腕に顔を付けた瞬間、花崎が動いた。


「―――な……!!」


花崎はものすごく綺麗な一本投げで尾山を投げ飛ばすと、アスファルトに投げ出された尾山の身体に自分の身を重ねるように抑え込んだ。


暴れる尾山を地面に押し付けつつ、向きを整えアリスを睨む。


『――――こーーーろーーーんーーーだっ!』

アリスが振り返る。


花崎はぐっと顔を上げ、アリスから自分の背中が見えないようにした。


羽交い絞めにされている尾山は動けない。


「お前……!どういうつもりだ……!!」


花崎は額に汗を浮かべながら、ただ必死で尾山を押さえつけている。


その様子を隆太はただ唖然と見つめていた。


「こんなの……反則だっ!!」


尾山はアリスを睨んだ。


「世間一般的には、勝とうとするのが反則ですので」


アリスは声を張り上げた。


「負けないようにサポートしてあげるのは、厳密に言えば反則ではないですね。しかもゲームは“だるまさんがころんだ”。往々にして協力してなんぼのゲームですから」


アリスの口元が左右に上がる。


「よし!としましょう」


アリスはそう言うとまた腕に目を押し付けた。


『だーーーるーーーまーー……』


「な……何をしてるんです、仙田さん……!!」


花崎は噛みつかんばかりの勢いで隆太を見上げた。


「さっさと背中見せて、負けて……!!」


「―――あ、そっか」


隆太はやっと身体が動いた。


『さーーーんーーーがーーー』


コールを続けているアリスに背中を見せる。


「ーーーいいのか、この男を信じて……」


花崎の下で暴れながら尾山が隆太を睨む。


「言っただろ?その男は殺人犯なんだぞ……?」


「な……!」


花崎が目を剥く。


「お前、よくもそんな嘘をぬけぬけと……!」


「それはこっちのセリフだ。しかしお前と話しても拉致があかない。俺は仙田君と話をしている」


尾山は首を精いっぱい伸ばして隆太を見上げた。


「お前、見なかったのか?さっきのこの男の投げ

技……」


「―――え?」


『こーーーろーーーん―――…』


隆太は慌てて向きを戻した。


『だっ!』


アリスが振り返る。


「―――ちっ!」


花崎が舌打ちをする。


『……だーーーるーーーまーーー』


アリスが向こうを見ると隆太は、花崎に抑え込まれている尾山に目を戻した。


「どういうことだよ、投げ技って……。刑事なんだから、柔道出来て当たり前だろ……!」


言うと、尾山はこちらを見て笑った。


「馬鹿だな、君は」


「――――!!」


小鼻を引くつかせながら隆太は尾山を睨んだ。


「手だよ。利き手」


『んーーーだっ!!』


アリスが振り返るが、尾山は話を続けた。


「この刑事さんはどうやら左利きらしい」


「―――は?」


「引き手が右手だった。つまり軸になる釣り手は左手。左利きの人間が、組みやすくするために右釣り手にすることはよくあるが、その逆はない。つまり彼は十中八九、左利きだということだ」


尾山はそういうと花崎を見上げた。


「さて、左利きの刑事さんに質問をしよう」


花崎は押さえつける力を緩めることなく、彼を睨んだ。


「左利きの警察官は、拳銃はどうするんだ?」


「――――あ」


隆太は口を開けた。


そうだ。

ハサミでさえ左利き用があるのに。

拳銃はどうなんだろう。


「①左利き用の拳銃がある ②拳銃だけは右手で使えるように練習する ③拳銃だけではなく警棒も手錠もあるため、利き手を右手に強制される。―――さあ、どれだ?」



「…………!」


花崎が黙ったまま彼を睨み落とす。



「ちなみに俺は、“正解を知っている”」


尾山は勝ち誇ったように微笑んだ。



『だーーーるーーーまーーー』


アリスがコールに戻る。


「仙田さん……」


花崎は尾山から目を離さないまま、顔だけ隆太に向けた。


「これは罠だ」


「―――罠?」


隆太は花崎の顔を覗き込んだ。


「俺だって、もちろん正解を知ってる。しかし彼がもしその正解について、“外れだ。やはり彼はいかさまだ”と言えば、そっちが正しく聞こえてしまう」


「―――」


―――確かにそうだ。


花崎が今何と答えようと、そしてそれが正解であろうと、尾山がはじめに『正解を知っている』と言いきった以上、彼が外れと言えば外れに思えてしまう。


「それより、俺は埼玉県警の刑事だと言っている。所長の名前だって、刑事部長の名前だって答えられる。でもこいつは何だ?自分の正体を開示したか?」


「――――」

尾山が花崎を睨む。


「こいつは俺が刑事であることを知っている。だから嘘でも自分が警察の人間であるとは言えない。しかし逆に言えば、なぜこの男は警察でもないのに拳銃の話を知っている?矛盾だらけだ……」


花崎は尾山を睨み落としながら言った。


「仙田さん。頼む。俺を信じて協力してくれ!

この男は自殺で追い詰めなきゃ、警察の包囲網を潜ってまた犯罪を犯す。その被害者は、もしかしたらあんたの大事な人かもしれないんだ……!」


「――――」


娘の顔が浮かぶ。


―――杏奈(あんな)……。


隆太は二人から目を逸らし、晴れ渡る青空を見上げた。



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