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しばらくして、文也の両親が血の気の無い顔で待合室に入って来た
おそらく藤子が連絡したのだろう、文也の小柄な母親がすすり泣いている所を、藤子が抱きしめる、そして二人は手を取り合って奥の待合室に座った
文也の父が宗一郎に挨拶し、事の成り行きを聞いている、そしてしっかり宗一郎の背中を叩いて、藤子と母が座っている待合椅子に座った、宗一郎と豊は、救助隊の説明を聞きに受付へ行ってしまった
微かに入り口から二人の声が聞こえる・・・ ボートに何があったのか、どんな問題が発生したのか、竜馬と文也の身に何が起こったのか・・・可能性を検討し、希望を捨てずにいられる理由を数えた
しかし、ここにいる全員が最も懸念している二人の内・・・一人が致命傷を負った可能性については触れなかった
待合室の天井の青白い照明のせいで、待合室の中が寒々として見える・・・集まっているみんなが緊張した面持ちで、二人の治療が終わるのを待っている・・・ジェニは何がどうなっているのか考えるのも嫌だった
ジェニは手を前に組んで、いつものごとく祈りだした
―神様・・・五分でもいいから竜馬さんに合わせてください・・・自分にとって竜馬さんがどんなに大切な存在かを、彼に伝えたいのです、 私がどんなに彼を愛しているか・・・―
心をとろけさせるあの笑顔・・・ 真夜中色の瞳・・・ 眠っている時の美しくも、いかめしい顔・・・ジェニの頬に涙が伝う・・・もう二度と彼に会えなかったらどうしよう・・・彼の唇が自分の唇に触れあうあの甘い感覚が・・・もう味わえなかったらどうしよう・・・
そう思うと耐えがたい痛みに襲われた、私はこんなにも彼を愛している、でも彼がもうそれを知ることはないのかもしれない
ジェニは胃がずっしりと重たくなった・・・身体に力が入らなかった、ジェニは必死で祈った
神様お願い・・・・
頬を熱い涙が伝う
私から竜馬さんを取り上げないで・・・・・
。 .:・.。. .。.:・
しばらくして救急治療室に動きが見えた
自動ドアが開き、待合室の全員が一斉に立ち上がった、そして二人の看護師に連れられて、治療室の奥から松葉杖の文也がひょこひょこ歩いて出て来た
藤子をはじめ、みんながワッと文也を囲んだ、みんなが文也の周りに集まるその様子を見て、ジェニは胃がずっしりと重たくなった
自分も彼の無事を確かめに行きたいのに・・・身体に力が入らず、立ち上がれない
藤子が泣きながら文也に抱きつく、文也はひきしまった体に、緑のブカブカの膝の手術着を着ている・・・点滴を引きずり、片方の腕と、頬に水色の軟膏がべったり塗られたガーゼの火傷保護シートを貼られている、額にも包帯が巻かれ、頭はボサボサだ、それでも彼は見るからに軽傷だ
目の前がぼやけ、心臓が痛いほどに打ち始めた、あまりに強い感情で体が震え出す
―文也君は軽傷だった・・・でも竜馬さんは・・・―
隣のドアの手術中のランプはまだ赤く灯っている・・・やがて文也が藤子に連れられて、ひょこひょこジェニの前に来た
「・・・大丈夫?」
ジェニはこの一言しか言えなかった・・・藤子が文也の手術着の中に手を入れ、全身で彼を支えている、文也の母が点滴スタンドを文也の負担にならないように引きずっている
「エンジンが爆発した時・・・竜ちゃんは舵輪の所にいたんだ・・・僕は・・・竜ちゃんに突き飛ばされて、湖に落ちたから・・・火傷も・・・そんなにしてないけど竜ちゃんは・・・まともに・・・息をするのもやっとで・・・」
文也が目からポロポロ涙を流す
「さぁ・・・文也君・・・ あと二つ検査が残ってるわ、検査室に行きましょう 」
藤子が文也を支えながら、優しく促す、藤子はジェニを見つめて小さく首を振った
「文也君・・・無事でよかったね・・・さぁもう検査に行って・・・私は大丈夫だから・・・」
ジェニは引きつった笑顔でそう言った、そこへ医者の説明を受けた宗一郎が、文也の所にやってきて、両肩をつかみ、まじまじと顔を見合わせた
「よれよれじゃないか」
と宗一郎が感想を述べる
「うるせー 」
文也は言い、二人は荒々しく抱き合って黒っぽい頭を寄り合わせた、文也は宗一郎の背中を強めに叩いたが、宗一郎は実の弟のように可愛がっている文也の体を気遣って、背中を撫でただけだった
そこに手術室のランプが消え、竜馬は集中治療室ICUに移されると出て来た医者に説明を受けた・・・文也は藤子達に連れられて検査室へ向かった
竜馬のいるICUに入った途端、医療機器が目に入ったものの、ジェニの視界にはそこに寝ている男性しか入ってこなかった
血の気が失せて・・・真っ白な蝋人形のような、彫の深い顔を食い入るように見る・・・寝かされて顔半分緑の酸素マスクに覆われて包帯だらけ、管だらけの竜馬を見た時・・・ジェニはあまりのショックに膝から崩れ落ちた、後ろで豊が涙声で言った
「手術は成功したって・・・容体は安定してるって・・・これでかよっ・・ 」
ジェニは竜馬のベッドの横に座ったまま、彼を見つめ・・・ これは夢ではないかと心のどこかで思った
右頬とおでこには火傷の保護シートがべったり張られ、左腕は完全に包帯で覆われていた・・・ 宗一郎も静かにジェニの傍に来て小声で言った
「医者の話だと・・・竜馬は爆風を受けて、船尾に頭をぶつけて脳震盪を起こしているそうだ・・・それと・・・顔と・・・ 肺に軽い爆傷を負っているそうだ・・」
豊が跡に続く
「だが・・・ それだけではすまされない可能性もある、竜馬は深刻な低酸素症になっている・・・ 今は交流量の酸素補給を行っているそうだ、しばらくはICUで慎重な処置が続くだろうと・・・ それから・・・・ 」
「まだあるの?」
ジェニは大きな声で言った
「いずれも・・・まだまだ事故の、後遺症が出てくるかもしれない」
豊が付け加えた
「場合によっては・・・片方の耳が聞こえなくなるかもしれないらしい・・・」
。 .:・.。. .
文也は精密検査が終わった後、一泊入院を命じられた、それが終われば家に帰れると看護婦に告げられた時は、藤子は安堵のため息を吐いた
明日また迎えに来ると言った文也の両親を、駐車場まで丁寧に送ると、藤子は再び文也の入院している個室に戻った
文也はシャワーを浴び、特別室である部屋に入れられた、個室はクリーム色と茶色の壁が二層になって、大きなクローゼットが備え付けてあり、隣に簡易ベッドまであった
藤子は文也の寝ているベッドの横の椅子に静かに腰かけた、点滴のチューブがベッドの柵に引っかかり 、也はイライラと手を振り払った
点滴は文也がシャワーを浴びる前に看護師が外してくれたが、浴び終わると文也の抗議も無視して、再び点滴を取り付けられた
「この点滴を外して竜ちゃんの所に行かせてくれ!!頭も痛いし腕も痛いんだ! 」
「わかったわ、看護師さんにそういいましょうね、でも文也君・・・・少し眠ったら? 水の中に落ちたとはいえ、あなたも 爆風をまともに受けたのよ・・・ それと軽い脱水症状にもなっているわ 」
藤子は文也を刺激しないように静かに提案した、事故後でアドレナリンが出ているのか、文也はイライラしてハイになっている
「いつ竜ちゃんが目を覚ますかわからないんだから、寝てなんかいられないよ! 竜ちゃんは僕を助けて・・・あんなになったんだぞ・・・眠るわけにはいかなんだっっ!」
文也の目からまた涙がじわりと溢れてくる・・・文也はカチカチと頻繁に、テレビのリモコンでチャンネルを変えた
「あなたの言うとおりよ」
藤子はそう言ってやってきた看護師に目で合図をした、看護師は素早く点滴の袋の管を差し替えた
新しい点滴には藤子がさきほど頼んだ 鎮静剤と睡眠薬が入っている
コメント
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第127話、読み終わりました。事故後の緊迫した空気がひしひしと伝わってきて、はらはらしながら読みました。ジェニの祈りのシーンが特に印象的で、竜馬への想いがひしひしと伝わってきました。文也の無事と、それでも竜馬の重傷に涙する姿も胸に刺さります。藤子さんの冷静な判断も、キャラの深みを感じさせます。続きが気になります。