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そうして俺達三人の生活が始まった。
典華が夜泣きをするわ、おねしょをするわで、もう、本当に大変だった。盟典は赤ん坊の世話なんてした事無いから、ハッチャッカメッチャカで。俺が実の娘の世話をある程度はやっていたからまだ何とかなったと言っても良いぐらいのものだった。
まぁ、だが、典華が初めて話した言葉が“彰”だったからな、盟典には少し悪いと思いつつも、凄く嬉しかった。
そんな風に盟典と二人三脚(?)で典華の世話をしていたある日、盟典がポツリ、ポツリと典華の事を話し始めた。
「彰も、ドールには能力がある事、知ってるだろ」
いつ日かのように雨の降り注ぐ窓の外を眺めながら、心地良さそうに眠っている典華を起こさぬようにそっと盟典が語り始めた。
「典華の能力は、【無限矢】。彼奴が触れたものが全て矢に変わってしまう。人間も、空気すらも例外なくな」
盟典は、少し寂しそうに窓の外を見つめている。
「だからさ、俺の能力で封印したんだ」
結露している窓を優しい手付きで拭きながらまた、盟典は言葉を溢すように話す。
盟典の能力は何だろうか。なんて思っている俺の心を見破るように、盟典は自身の能力についても話し始めた。
「俺の能力は、【封印】。つっても、出来損ないとまで言われる能力でな」
「封印するには、数時間相手に触れてないといけないし、その封印は俺の意思では解けない。二つの条件を揃えないといけないんだ」
俺のすぐ目の前でそう語る盟典は、ドールなんて超越した存在では無く、ただ一人の青年に見えた。
「一つは、俺が死ぬ事。そしてもう一つは、封印時に俺が願った事を相手が達成している事」
悲しそうな声で話す盟典は、決して俺の方を見なかった。
俺も、なんて声をかければ良いのか、分からなかった。
「俺が願っ事はな、典華が大切な仲間に囲まれて笑ってる事だ」
盟典がそう言い終えると、何とも言えない沈黙が流れた。
そんな沈黙に耐え兼ねたのか、盟典が話しを典華の事に戻した。
「話がそれたな。悪い、元は典華の話だったな」
『そう、だったな』
やっと俺の口から出てきた言葉はたったそれだけだった。