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駅前のファミレスに着いて窓越しに中を覗いてみると、既にマナは席に座って食事をしていた。
「おまたせ」
「圭ちゃん、遅いよ。ずっと待ってたんだからね」
「わりい。って言うか既に食べ始めてるじゃねえか」
「まぁまぁ、気にしない気にしない」
マナが座るテーブルの上には5種類くらいの料理が所狭しと並べられていた。
「それじゃあ、圭ちゃんも何か食べれば」
「俺は夕飯食ってきたからいいよ。それに、お前はいつも注文するだけ注文して絶対残すから、結局俺が食べる羽目になるんだ。しかも、この料理は全部俺のおごりなんだろ?」
「ダメ?」
「最初からそのつもりなんだろ?」
「まぁね、いつも悪いね」
言葉とは裏腹に、遠慮などする様子もなく料理にがっついていた。そしていつも通り、マナは料理を残し、残飯処理を俺がさせられた。
料理を全部平らげ、店を出たのは時計の針が23時を回ってしまってからだった。警察にいつ補導されてもおかしくないような時間になっていた。そんなことは気にならないのか、わかってないのか知らないけど、マナはどこに向かうでもなく自転車を押しながら、ブラブラと歩いていた。しばらく行くと、マナは俺の腕に掴まり寄り添ってきた。そして住宅街の中にある小さな公園の中に腕を引っ張って連れて行かれた。
「圭ちゃん、お願いがあるの」
ベンチに2人並んで座り、しばしの沈黙の後、今にも泣き出しそうな顔で突然俺に向かってそう言ってきた。
「何だよ?」
「私―――やっぱり産みたいの!」
「何言ってんだよ! おろす決心をしたんだろ?」
「あの時はそう言ったけど、やっぱりどうしても産みたいの」
「それは無理なんだよ! 堀越先生から色々聞かされて高校生のお前が産むことの難しさがわかったんだろ?」
「でも、産みたいの! お願い! 産ませて! 圭ちゃん、助けて!」
マナは突然俺に抱きつき、胸の中で何度も何度も〝産ませて〟と涙ながらに訴えかけてきた。
「マナ―――」
「圭ちゃん、お願い! この子の父親になって!」
「――――」
「圭ちゃん!」
「俺は――もちろん助けたいと思ってる。マナが高校を卒業して、もし同じような状況になるようなことがあったら、その時はお前のために何でもしてやるよ。命をかけてお前を守ってやる。父親にだってなってやる」
「圭ちゃん――」
「でも、今は駄目だ。お腹の子もそうだけど、マナだって幸せにはなれない。それがわかっているからこそ、絶対に許す訳にはいかない。マナ、ごめんな――何もしてあげられなくて」
そして俺は、力いっぱいマナを抱きしめた。何も出来ない無力な自分が情けなくて涙が溢れてきた。
「圭ちゃん、泣いてるの?」
「泣いてねえよ」
「でも、涙が―――」
薄明りの中、俺を見上げているマナの顔に涙が数滴ほど流れ落ちた。
「ごめんな、悔しいしツラいだろうけど、今回は俺の言うことを聞いてくれ」
マナが頷くまで俺はマナを強く抱きしめ続けた。
「――――」
それから5分が経過した頃、マナは無言で頷いてくれた。