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「はい、どうぞ」
「おー、サンキュ」
律がお風呂から上がり、ソファーに座ったのと同時にコーヒーの入ったマグカップを手渡した。
私はその横に座ってコーヒーを一口飲んだ。
「どーした? 何か元気ねぇな? 学校で何かあったのか?」
口数の少ない私を不思議に思ったのか、律が心配してくれる。
「ううん、何にもないよ?」
その優しさが、辛い。
律は私がさっきの現場を見ていた事を知らないから、仕方ない。
考えないように明るく振舞おうとすればする程辛くなり、
「おい、琴里……どうしたんだよ?」
堪えきれなくなった私の瞳からは、大粒の涙が零れていた。
「ごめ……、違うの、何でもないの……っ」
「何でもねぇわけねぇだろ? 何があった?」
「ほんとに、何にも……っ」
こうなってしまうと、もう隠すのは無理だった。
言いたくなかったけど、もう言うしかない。
「……ごめん、言うつもり……無かったの……でも、もう……隠すの、無理みたい」
「何なんだよ?」
「……私、さっき……見ちゃったの……」
私のその言葉に、律は全てを悟ったらしい。
「お前……そうか……そうだったのか……悪い……」
申し訳なさそうに謝った律は、溢れ出る涙を拭っていた私の身体を抱き締めてくれたけれど、その手で鈴さんの事を抱き締めていたのかと思うと、余計に辛くなった。
「……ごめん、律……私、今日はもう……帰りたい」
これ以上一緒に居ても辛い思いをするなら意味が無い気がしてしまった私がポツリと呟く。
「分かった。送るよ」
律も私の気持ちを汲んでくれたようで、何も聞かずに送ってくれる事になった。
車内には気まずい空気が流れ、それを何とかしたいと思っても、お互い何を言葉にすればいいのか分からずに一言も言葉を発する事はない。
鈴さんと一緒に居た経緯とか何を話していたのか知りたい気持ちはあるけど、今の私にそれを聞く勇気は無い。
律もそれが分かっているからなのか、その事については何も触れてこない。
もう少しで私の家が見えてくるという距離に差し掛かかる。
「琴里、悪い。やっぱりまだ、お前を帰したくねぇ」
その言葉と共に、律は私の家を通り過ぎると、そのまま車を走らせていく。
「り、律……?」
これには正直戸惑った。
いつもなら、そんな風に言われて嬉しいけど、今日は今すぐ一人になりたかったから。
「律……お願い、今日はもう、本当に……帰りたいの」
「駄目だ、帰さない。話を聞いて欲しいんだ……頼むよ、琴里」
「……ずるい……ずるいよ……そんな風に言われたら……嫌だって……言えないよ……っ」
帰りたいのに、今は話なんて聞きたくないのに、私以上に辛そうな表情を浮かべる律を見たら、泣きそうなくらい悲しげな表情で頼むなんて言われたら、これ以上嫌だなんて言えないじゃない。
「……分かった……話、聞くよ」
結局折れたのは私の方で、近くのコインパーキングに車を停めた律と二人、車の中で話をする事にした。