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フィル様が城を出されてから十五日が過ぎた。今頃どこで何をしておられるのか、常に心配でたまらない。食事は摂れているのか、怪我や病気をしていないか、フェリ様の手伝いをしていながら、俺の頭の中はフィル様でいっぱいだ。

それに美しい容姿のフィル様だ。野蛮な奴に連れ去られてはいないだろうか。誰もフィル様に手を出すなよ。手を出した奴は、俺が決して許さない。

「ラズール、疲れたの?休みましょうか」

「いえ、俺は…。そうですね。お茶を用意しましょう」

机を挟んだ向かい側に座るフェリ様が、心配そうに俺を見ている。どうやら俺は、フィル様のことを考えすぎるあまり、溜息をついていたようだ。

「失礼します」とフェリ様に断りを入れて立ち上がると、部屋を出た。

廊下ですれ違った使用人に王女の部屋へ軽食を運ぶように命じて、ある場所へと向かう。王女の部屋から遠く離れたその場所に着くと、ポケットから鍵を出して開け、中に入った。

「ああ…またあの方の匂いが減ってしまった」

そう呟いて、俺は深く息を吸い込んだ。全身が幸福に満たされる。それと同時に虚しさで胸が苦しくもなる。早く本物をこの腕に抱きしめたい。なのになぜ、俺は付きたくもない王女の傍で職務をこなしているのか。

本当は、王と約束をしたあの日から、五日もすれば城を抜け出すつもりだった。簡単に抜け出せると考えていた。だけど未だできていないのは、俺が常に見張られているからだ。どうやら城の中を移動することは許されているらしい。だが一歩でも城を出ようとすると、雷に打たれたかの如く全身が痺れて動けなくなる。あらゆる出入口に、俺だけに作用する魔法がかけられているのだ。

俺は様々な場所から城を出ようと試した。だがその度に全身が痺れて倒れた。全身が痺れて動けなくなっても、すぐに回復するから構わない。しかし毎日毎日繰り返したために、非常に疲れて体力が落ちてしまった。これでは、いざという時にフィル様を助けに行けない。だから俺は、三日前から大人しく機会を伺うことにした。

こうまでして俺を逃がしたくないのは、フェリ様が俺に好意を抱いているからだろう。娘を大切に思う王が、俺をフェリ様の傍に縛りつけたいのだ。だが、そんなことはどうでもいい。他の者からの好意など煩わしいだけだ。俺は、フィル様の好意だけが欲しい。フィル様と離れている時間が増えていくにつれて、フィル様への想いが積もっていく。

フィル様の部屋には、フィル様がいなくなってから毎日訪れている。ここに来れば、フィル様との思い出に浸れるのだ。

フィル様はこの城での暮らしに良い思い出を持っていない。だけど俺は、フィル様と過ごした日々が何よりも幸せだった。目を閉じればフィル様の美しい顔が浮かぶ。ラズールと呼ぶ澄んだ声が聞こえる。

これらの記憶が薄れる前に、早くフィル様を捜し出さねば。

しかし、それから数日経っても城から出る方法が浮かばない。どうしようかといよいよ焦り始めてきたある日、抜け出せる場所がないかと城の中を歩き回っていた俺は、外から戻ってきた様子のトラビスと会った。

トラビスは、血の気を失ったようなひどい顔をしていた。

俺は出られる場所を探して城の中を徘徊している間、ずっと考えていた。

自分で扉や窓を開けようすると身体が痺れて動けなくなるが、誰かが開けた扉や窓からなら、外に出られるのではないか。

そう考えて通用口の前まで来たその時、扉が開いてトラビスが入ってきたのだ。

トラビスが、扉の前で立ち止まった俺に気づき足を止める。そして俺を見たが、目の焦点が合っておらず俺を認識していないようだ。

トラビスの背後で扉が音を立てて閉まり、俺は小さく舌打ちをした。

「チッ…、今出ればよかった。様子がおかしいおまえに気を取られた…」

「…ラズール?」

俺の声を聞いて、ようやくトラビスの目に光が戻る。

俺は壁にもたれて腕を組み、「どこに行っていた」と聞いた。

トラビスはその場に立ち尽くし、手を固く握りしめた。その拳が震えていることに気づいて、俺は更に聞いた。

「ずいぶんと遠出をしていたようだな。どこまで行った?」

「…言えない」

俯いたままトラビスが答える。

俺は今度は大きく息を吐く。そしてトラビスに近づくと、トラビスの腰に差した剣を素早く抜いて刀身を見た。

「あっ!何をするっ」

「なんだこれは?人を斬ってきたのか」

慌てて伸ばしたトラビスの手を掴んでひねると、トラビスが容易く膝をついた。

俺は驚いた。トラビスが俺よりも弱いとはいえ、こんな簡単に技をかけられる奴ではない。やはり何かあったのだな。落ち込みようがひどすぎる。

「…手を離せよ」

「では何があったか教えろ」

「だから言えないって!」

「このまま折ってもいいんだぞ?」

「脅されても言わないからな!」

トラビスに睨まれて、それもそうかと俺は手を離した。ここで俺に脅されて口を割るようでは、我が国の軍隊長は務まらない。敵国に捕まって拷問をされることもあるのだ。

俺はトラビスを一瞥すると、剣に顔を寄せて凝視する。剣先に微かにサビが浮いている。それに…これは脂だ。

更に顔を寄せて匂いを嗅いだ瞬間、俺の心臓が大きく跳ねた。

直後にトラビスが俺の手を掴み剣を奪い取る。

「人の剣を勝手に触るな!」

「トラビス…おまえ…誰を斬った?」

「おまえには関係ない。俺は王命に従ったまで」

「関係ないことはない。おまえが言わないなら俺が言ってやる。そして返答次第ではおまえを殺す」

「…俺は王に会いに行かねばならない。おまえの相手をしている暇はないんだ」

俺の前を通り過ぎようとしたトラビスの軍服のエリを掴むと、俺と変わらぬ体躯を壁に強く押しつけた。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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