初音ライダー剣
第12話
“邪気”
前回、初陣にてモールアンデッドを封印するという手柄を立てたリン/レンゲルだが、引き続きMEIKOの下でトレーニングを受けていた。飛んでくるボールのナンバーを当てるといった動体視力の訓練もさることながら、変身しての実戦形式トレーニング、アンデッドやラウズカードについてのレクチャーなどもこなしていた。その帰り道、MEIKOと共に地下道を歩いていると、巡音ルカと出くわした。
MEIKO「あんた…!」
ルカ「この前のヤツか。」
MEIKOとルカは互いを見るなり、臨戦態勢に入る。リンも思わず身構えるが、MEIKOは左腕を伸ばしてリンを制止する。
MEIKO「変身!」 ルカ「変身!」
「TURN UP」 「CHANGE」
MEIKOはギャレンに、ルカはカリスに変身し、互いに挑みかかる。ギャレンはギャレンラウザーを取り、カリスに銃撃を仕掛けるが、カリスはこれを寸前のところで回避していき、ギャレンに接近してカリスアローを振りかざす。ギャレンはその一撃をギャレンラウザーで受け止め、カリスの懐にギャレンラウザーを突き付けて連射する。カリスはこれを受けるが、怯まずにカリスアローを振るってギャレンに一撃を加える。そうして2人は拮抗した戦いを繰り広げる。
ところが、これを見ていたリンの中にもう1人の人格・レンの声が脳裏をよぎる。
レン(へえ、面白え事してんな。)
リン「え!?何?」
レン(オレにもやらせろよ!)
リン「う…ああああああああ!」
リンは頭を抱えて苦しみ出した。その後、リンはレンへと豹変する。
MEIKO「何?」 ルカ「?」
ギャレンとカリスはレンを見遣る。そこで、レンはレンゲルバックルを取り出し、腰に装着する。
レン「変身!」
「OPEN UP」
レンはポーズを取った後、スピリチアエレメントをくぐってレンゲルとなった。
レン「へへ、オレも混ぜろよ!」
MEIKO「リン?」
ギャレンは豹変したレンゲルに驚く。だが、カリスがギャレンをどけてレンゲルに宣戦布告する。
ルカ「…丁度いい。お前には借りがあったな!」
カリスはカリスアローを携えてレンゲルに挑む。レンゲルはレンゲルラウザーの柄を伸ばしてこれを受け止める。カリスはレンゲルに接近した後、レンゲルの足を蹴ってバランスを崩す。しかし、レンゲルはこれに怯まず、受け身を取ってバランスを取り、レンゲルラウザーを振るう。カリスはこれをカリスアローで受け止める。そうして、2人は鍔迫り合いとなり、拮抗した戦いを繰り広げることとなった。だが、途中でレンゲルが苦しみ出した。
レン「う…ああああ!」
リン(レン、もうやめて!)
レン「また、お前かよ…」
レンゲルは頭を抱えて苦しみ、変身を解いてリンの姿に戻った。カリスはそんなリンを攻撃しようとするが、ギャレンが割って入り、攻撃の手を止める。
ルカ「…どういうつもりだ、こいつは。」
カリスはレンゲル/リンからレンへの豹変ぶりを問う。
MEIKO「この子はカテゴリーAに操られてる。自分で力をコントロールできないの。」
ルカ「…ふん。」
ギャレンはリンがカテゴリーA=スパイダーアンデッドの邪気で操られていることをカリスに伝える。
ルカ「今回は退いてやる。自己制御のできない未熟なヤツを相手しても仕方ないからな。力を統御する精神を身に着けたときにまた来い。待っているぞ。」
カリスはそう言って、その場を去った。
その後、MEIKOとリンはBOARD支部へ戻った。
モモ「お疲れ様。」
戻った2人をモモが出迎える。リンがBOARDに来るようになって以来、モモも付いてBOARDに来て、ミクやMEIKO、リンの世話をするようになった。
モモ「疲れてますよね、何か飲みます?」
MEIKO「ありがとう。それじゃ、コーヒー淹れてくれる?」
モモ「はい、リンちゃんは?」
リン「…いい。今、そんな気分じゃないし。」
モモはリンを気遣うが、リンはそんな気分じゃない、と突っぱねる。
モモ「…でも、疲れてるでしょ?何か飲んだ方が…」
リン「いいっての!」
モモはリンに飲み物をすすめるが、リンは声を荒げて拒否する。その目つきはどこか凶悪さを出してきた。そして、リンはそのままモモに突っかかり、モモの首に手を伸ばす。
モモ「きゃッ!?」
リンは右手でモモの首を掴み、そのまま締め上げる。
モモ「や、めて…リンちゃん…」
リン「しつけぇんだよ、お前。」
モモは両手でリンの右腕を掴んで引き放そうとするが、リンは力を上げてモモを締め上げる。普段ならこんな力は出せないリンだが、スパイダーアンデッドの力により、凶暴性だけでなく筋力や運動能力も上がっていた。
MEIKO「やめなさい、リン!」
MEIKOがリンを止めに入る。リンはMEIKOの制止を受け、ハッと我に返ったようにモモから手を放した。
リン「…モモ、大丈夫?」
モモ「…ひどいよ、リンちゃん…」
リンは記憶がなかったように苦しそうに屈むモモを気遣う。その様子を見るMEIKOは悩んでいた。そして、リンを外に連れ出そうとする。
MEIKO「リン、ちょっとおいで。」
MEIKOはリンを外に連れ出し、話をしてみることにした。
MEIKO「あんた、モモちゃんになにしたか覚えてる?」
MEIKOはリンがモモにしたことを覚えてるか問う。
リン「…うん、うっすらと。」
MEIKO「うっすらと?」
リンはうっすらと覚えていると言う。MEIKOはさらに話を聞く。
リン「…何か、モモが世話してくれんのにいきなり苛立ってきて、そしたら一気に気が立ってきてさ。気付いたら、モモに襲いかかってた。」
MEIKO「どういうこと?」
リン「分かんないよ。ただ、怒ったり、戦いになったりとかしたら一気に気が立ってきて、そのまま手が出ちゃう感じ。こんなことなかったのに、レンゲルのベルトを持ってからこういう風になっちゃったんだ…それに…」
MEIKO「それに?」
リン「私の中にもう1人の人格が出来てきてるの。凶暴で好戦的な男の人格が。」
リンはスパイダーアンデッドの影響により、闘争本能が刺激され、凶暴になることがあるという。さらに、それによりもう1人の人格・レンが出来てきている。
MEIKO「…分かってる。」
リン「へ?」
MEIKO「凶暴になるのはカテゴリーAの影響でしょう?それを押さえたいがために、強くなりたいんでしょう、あんたは。私もミクもモモちゃんも、それを後押しするから、頑張って。」
MEIKOはリンがスパイダーアンデッドに操られていることを理解しており、リンを優しく諭す。
リン「MEIKO姉…」
リンは思わず泣きたくなった。
その夜、リンは自宅の自室のベッドで横になっていた。眠れない。不安で仕方ない。いつ、また戦いになるだろう。いつ、またレンになるだろう。そう思うと、不安で仕方なかった。そんなリンを窓から満月の月明かりが照らす。
リン「…」
リンは月明かりが邪魔になり、カーテンを閉めて寝ることにした。しかし、リンが寝ようとした矢先、ここでリンのもう1人の人格・レンが目覚め出す。
レン(おい、そろそろ代われよ。)
リン「へ?な、何…ああああ!」
リンは苦しみ出して頭を抱え、レンへと変貌した。
レン「へ、良い月じゃねえか。」
レンは早速寝間着から着替えると、外に出て無人走行で来たグリンクローバーに乗り、走り出す。
レン「さあて、獲物はどこかな、っと…」
レンはグリンクローバーを走らせ、獲物を探す。
翌日、リンが行方不明になったという話は早速BOARDに伝わった。
モモ「お願いします、リンちゃんを探してください!」
モモはBOARDの面々にリンを探してくれるよう懇願する。その目は僅かに涙が滲んでいた。
キヨテル「分かっています。彼女のことは我々の責任でもありますから。既にMEIKOとミクが捜索に当たっています。」
キヨテルは既にリンを捜索中であることをモモに伝える。だが、モモは落ち着かなかった。
モモ「ありがとうございます。私も探します!」
キヨテル「え?」
モモは駆け足でBOARDの宿舎を飛び出して行った。キヨテルはこれを止めようとするが間に合わず、右腕を伸ばすだけで終わった。
ウタ「…どうします?」
様子を見ていたウタが問う。
キヨテル「…ミクとMEIKOに連絡を入れてください。モモさんもリンさんを探しに行きました、と。」
キヨテルは頭を抱えて、ミクとMEIKOにモモのことを伝えるよう指示する。
ミク「分かった!」
ミクはブルースペイダーに乗ってリンを捜索していた。その最中に、ウタが通信を入れてモモのことをミクに伝えてきた。ミクはブルースペイダーを飛ばしてリンとモモの捜索を急ぐ。その最中、ミクの横からアンデッドが飛び出してきた。
ミク「うわッ!?」
ミクは不意打ちを受けてブルースペイダーごと倒れてしまう。不意打ちをしてきたトリロバイトアンデッドは休む間もなく、体を金属のように硬化させてミクに体当たりを仕掛けてくる。ミクはこの体当たりを側転して回避するが、トリロバイトアンデッドは左腕の爪を突き出してミクを攻撃してくる。ミクは後ろに退ってトリロバイトアンデッドの斬撃を回避していく。しかし、途中で壁に当たり、追い詰められてしまう。
トリロバイトアンデッドはそれをチャンスと見て、左腕の爪を突き出してくる。ミクはそれを左に動いて回避し、その直後にブレイバックルを取り出す。
ミク「変身!」
「TURN UP」
ミクはブレイバックルを装着してポーズを取り、オリハルコンエレメントを投影する。オリハルコンエレメントはトリロバイトアンデッドを軽く弾き飛ばし、ミクをブレイドへと変身させる。そして、ブレイドはブレイラウザーを振るってトリロバイトアンデッドに斬りかかる。だが、トリロバイトアンデッドは体を硬化させてブレイドの斬撃を防ぐ。
ミク「な!?」
ブレイドは振り下ろしたブレイラウザーを防ぐトリロバイトアンデッドに驚いた。
1人で街に出たモモは息を切らして電柱にもたれていた。
モモ「…リンちゃん、どこ…?」
モモはリンが行きそうなところを考えながら、息を切らしつつも再び歩き出した。その様子を1人の男が物陰から見ていた。
?「ふーん、面白いヤツ見つけたな。」
アロハシャツの男・矢沢は不敵に笑う。
その頃、MEIKOは波止場で1人佇んでいたレンを見つけた。MEIKOは早速レッドランバスを降り、レンに声をかける。
MEIKO「リン、帰るわよ。」
レン「レンだっつったろ!」
レンはMEIKOの手を払いのける。しかし、MEIKOは退かずにレンを連れ戻そうとする。
MEIKO「何言ってるの。皆心配してるんだから。」
レン「知るかよ!」
MEIKOはレンに再度手を伸ばすが、レンはその手を取らない。むしろ、レンはカっとなり、レンゲルバックルを取り出す。
レン「決めた。今日最初の獲物はお前な。」
MEIKO「え?」
レン「変身!」
「OPEN UP」
レンはレンゲルバックルを腰に装着し、ポーズを取る。レンゲルバックルからスピリチアエレメントが投影され、MEIKOを弾き飛ばし、レンをレンゲルへと変身させる。
レン「さぁて、一暴れすっか!」
レンゲルは右腕でレンゲルラウザーをかざし、ゆっくりとMEIKOに近寄る。
MEIKO「…少々しつけが必要みたいね。」
MEIKOはレンをリンに戻すには少々手荒い打撃が必要と思い、ギャレンバックルを取り出して腰に装着する。
MEIKO「変身!」
「TURN UP」
MEIKOはポーズを取ってオリハルコンエレメントをくぐり、ギャレンへと変身する。レンゲルとギャレンは互いに武器を持って対峙する。