とある日の夜10時
蓮は仕事終わりに
いつも通うカウンターBARで
ロックグラスを傾けながら遠くを見ていた。
収録で〖こうすれば良かった〗と演技の反省をしていると、
マネージャーから着信がー
「はい。蓮です。どうしたんですか?」
「天気の都合で撮影スケジュールが飛んだので、
午後メンバーのYouTubeロケに
同行してくれる?」
ーまたか。ー 今回の映画は監督のこだわりが
強く、予定より1ヶ月ほど撮影が
延びているのだ。
「分かりました。じゃぁ14時ですね。
よろしくお願いします。」ぷつっ。ボタンを押す。
(時間があいたな)毎度の事ながらと、諦めつつ、
ロックのバーボンを口に運び、
ゴクリと喉を鳴らし、
軽く息を吐いたつもりが、
大きなため息が落ちるー
「ため息を吐くと幸せが逃げていくよ」
BARのマスターが蓮に声を掛ける。
「電話すみませんでした。」蓮は頭を下げる。
「芸能人も大変なんだね。気にしなくていいよ。
カウンターには君しか居ないから。」
渋い顔立ちながらも屈託なく笑顔を見せる
マスターに改めて親近感を持つ蓮だった。
〖ご馳走様でした〗
30分程で3杯を煽るように飲み 店を後にする。
基本長居をしないように気をつけている。
店側への配慮だ。今はSNSなどですぐに場所を
特定され追いかけられることが多い。
迷惑がかかることを避けなければいけない。
いつもはこんなに酔わないんだけど、
今日は疲れてんのかな?なんだかふわふわする。
【ちょっと 大丈夫?】腰の辺りを抱きしめられ、
自分が倒れそうになっている事に気付く。
「あ、ごめんなさい。」蓮は目深にかぶった帽子を
更に被り直し頭を下げる。顔を見られる訳にはい
かない。
【飲み過ぎ?貧血?顔色悪いよ。】こちらにお構い
無しで顔を覗き込んでくる。
「大丈夫です。すみませんでした。」立ち去ろうと
したその時ー
〖めめ、ここら辺に居るって目撃情報あったんだ
けどなぁ。〗いかにもギャル系の女3人組が走って
くる。ーえ?ヤバいーバレた?
【こっちへ】「えっ?」蓮は店の間の狭い路地へ
引っ張られる。2人ピッタリくっついて影になる。
パタパタと走り去るギャル達
【行ったみたいね】ふう。と息を吐き蓮を見る。
「な、んで…助けたの?」蓮は彼女を見つめる。
【なんでって、具合悪そうだったし、何となく】
屈託なく笑う笑顔が眩しく見えた。
彼女は先程手を掴んだ瞬間、
アルコールの微かな香りがする事に気付く。
ペットボトルの水を大きなカバンからだし
蓮に渡す。【はい、冷たくないかもだけど飲んで。
酔い覚めるよ】
ぽすっ。蓮は水を受け取る。「あ、ありがとう」
近くの公園まで歩き、じゃ、と彼女は手を上げ
先を歩いていく。
「何も聞かないの?」蓮は呟いた。
彼女は振り返り笑う。
【何を聞くの?あなたが誰であろうと私には
関係ない。偶然のめぐり逢わせだから、
(私なんて)たまたま出会っただけのモブ
キャラだよ】
そして彼女は明るすぎるテールランプの
眩しい光の中に 消えていった
ー俺は、名前も知らないこの屈託なく笑う
彼女に瞬間で心をうばれてしまったー
続く
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