前回の続きです。
虎ノ子。強力な薬で、どんな病気もすぐに治ってしまう。……という、幻覚をみせる薬。
正しくは麻薬なんだ。
ある時から、サガに虎ノ子が売られるようになった。数人の貿易商が、虎ノ子を売りに来て、それがサガの下っ端の間で流行ったらしい。幹部も数人、虎ノ子を使用して、
死んでいる。
それを売っている貿易商の1人が、金をちょろまかしているらしい。
白虎からの命令。
『見つけ出して殺せ』
「こいつか。」
証拠が見つかった。俺以外の幹部にも、同じ命令が黒い桐箱によってくだされていたらしい。
数人で調査すると、すぐに見つかった。
俺は、白虎のもとへ行き、報告した。
「どこにいるか分かるのか?」
「予想はつきます。」
「分かった。じゃあ、始末は任せる。」
頭を下げ、部屋を出る。
人殺しは、したくない。それが弟かもしれないとなると、恐ろしくてたまらない。
弟は、サガにいるはずだが、何年も、なんの情報も手に入らないから、もう実はサガから逃げ出しているんじゃないかとか、すでに死んでしまっているんじゃないかとか、いろんな考えが頭を巡る。
もう、死んでるかもしれない。
もう、いなくなってるかもしれない。
でも、もし、俺が弟を殺してしまったら…?
恐ろしくて、とてもではないが、引き金は引けない。
だが、命に逆らえば殺される。当たり前だ。
なら、
「先に殺せばいいんだ。」
簡単なことだった。
あれから数日がたった。俺は、白虎に呼び出されて、廊下を歩いていた。
拳銃を服の下に隠し、平静を装って歩く。悟られてはいけない。
部屋の前に立つと、途端に緊張してきた。でも、すぐに怒りがその余計な感情を打ち消した。弟を拐った張本人。
今日、やっとそいつを殺せる。
部屋の戸を、3回ノックして、返事を待つ。
「はい」
中から返事が聞こえたため、静かに戸を開けた。
「あ、きんときか。悪いな、急に呼び出して。」
白虎が、いつもの調子で声をかけてくる。
変わらない、日常。こんなんが日常なんて、馬鹿げてる。でも、今日やっと終わらせられる。
「きんとき?」
白虎の、その言葉と同時に、俺は拳銃を取り出した。
白虎に銃を向け、睨みつける。
「ッ……」
白虎は、驚いたような顔をして、何か言おうとした。
俺が引き金を引くのが、先だった。
パァァンッ
聞き慣れた音。見慣れた光景。……もう、嫌だ。
「じゃあな。二度と俺の前に現れんなよ。」
吐き捨てて、目を背けて。
「兄ッ…ちゃ゙…」
背後から聞こえてきた声に、体が固まった。
「嘘…だろ…?」
「シャークん…?」
思わず、振り返り、駆け寄った。
白虎が、口を開く。
「ご、めん……兄ちゃん…」
目の前が、真っ暗になった。
嘘だ、こんなの。俺は信じない。ありえない。弟を拐った張本人が、弟なわけない。でも、
「…シャークん?」
呼びかけると、優しい顔で笑った。
儚い笑顔だった。
「ばいばい。 」
言葉が出ない。何か言わなきゃ、と思うのに、うまく口が動かせない。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!!!」
俺の叫び声が、部屋に響いた。
血を流して倒れているシャークんを抱き上げる。
涙が止まらない。
シャークんは、すでに冷たくなってきていた。
もう助からない。俺が殺した。
最愛の弟を。ずっと探していた、弟を。
シャークんをぎゅっと抱きしめる。もう、あの温もりは感じられない。もう、あの温かさは、感じられない。
あとからあとから流れてくる涙で、視界が歪む。シャークんの姿が霞む。
「やだッ、シャークん…!何で…何でッ!!」
頬に触れる。冷たくて、硬い。人じゃないみたい。
どうして、こんなことになったんだろう。
白虎はシャークんだった。
おかしな話だけど、紛れもない事実。
復讐心に体を支配され、まともに物事を考えられなくなっていたんだ。
もし、俺が引き金を引くのが少しでも遅ければ、もしかしたら、
こんなことにはならなかったのかもしれない。
「シャークん…?」
もう、返事はしてくれなかった。
日の光に包まれているように温かい。懐かしい、匂いがする。
俺は今、最愛の兄に殺され、彼の腕の中にいる。
顔がみたい。どんな顔してるのかな。あの頃と、どれくらい変わったかな。
俺はすごく変わった。強くなったよ。2度と、大切な人と離れ離れにならないように。
でも、馬鹿だよなぁ。俺がもっと早くに言ってれば、きんときは苦しまなくてすんだのかなぁ。
悔やんでも悔やみきれない。
謝りたい。
ごめんなさい、俺が全部悪かったの。
兄ちゃんは悪くないよ。
だから、お願い。泣かないでよ。
きんときの頬に触れたくて、手を伸ばそうと力を込めてみる。でも、だめだった。俺はもう死ぬんだ。絶対に助からない。
「双子は生まれてくる時に幸せを半分こするから、不幸な最期を迎えるんだって。」
いつか、村のやつが言ってた言葉。
そんなことないだろ。二人で幸せ一個分、大事にしたらいいだろ。一生そばで分け合ってたら、そしたら二人とも幸せだろ。
言い返したかったけど、何も言えなかった。俺が弱虫だったから。
ごめんね、きんとき。辛い思いばっかりさせて。弟は、兄ちゃんを支えないといけないのにね。
あの日、クローバー畑で誓った約束、俺は忘れてないよ。
ねぇ、神様。俺の命をあげるから。俺の幸せもあげるから。
きっともう、きんときは立ち直れない。責任感が強いからね。だからいいの。俺の幸せ、神様にあげる。
だから、一つ、願いを叶えて。
四つ葉でも無理だった、あの願いを。
「生まれ変わったら、また二人で、今度は最期まで。」
「笑っていさせて。」
続く。
次ラストです!
コメント
6件
え、泣いた。私の視界はとても白く透明で頬に温かいものが伝ってます😫😫😭😭😭 幸せになってくれ………😭