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。 .:・.。. .。.:・
翌朝、ジェニは三浦の解雇を取り下げてもらうために、竜馬の社長オフィスフロアに向かった
しかし、竜馬のオフィスに入るには、秘書歴30年【江藤秘書室長】の鉄壁の壁を突破しなければいけなかった
「松下社長に面談を願います!」
ジェニが社長オフィスの入り口の秘書デスクにバンッと手を付いて言った、江藤秘書は少し小太りの50代の女性で、竜馬好みの上から下までのお堅いブラックスーツに身を包んでいる
「面談予約は?」
ギロリと、まるで裁判官の様に、丸い銀縁メガネの上から睨まれる、「江藤秘書室長」が鉄の秘書と呼ばれて、竜馬の陣営を守っているのは藤子から聞いて知っていた
緊張し、内心弱気になったが、ジェニだって色んな事柄から一歩も引かずに頑張ってきた、ここはなんとか突破して見せる
「よ・・・予約はしていませんが・・・すっごく大切な用事なんです!面談予約なんかしていられない急用なんです!私の部署の解雇通告について、一言提案を申し上げたくて―」
二分後、ジェニはあっさり首根っこを掴まれて、社長オフィスフロアからポイッと放り出された
「う~ん・・・」
ジェニはエレベーターの床に胡坐をかいて腕を組んで考えた、どうすれば松下竜馬にうちの三浦の解雇を取り下げてもらえることが出来るだろう・・・このままでは三浦に申し訳ない、そりゃぁ彼は少し営業の成績は悪いかもしれないが、何としても父の代から側近で働いてくれていた人なのだ
今の自分は社員一人どうすることもできない無力な存在だ・・・もし彼が本当に解雇されたら、きっと自分を責めるだろう、そう気落ちして一旦自分のフロアに帰ろうとエレベーターに乗ると、なんとそこにメビウスの財務部長で、今は真紀の旦那の浜田宗一郎が入って来た
「おや」
宗一郎はジェニを見て軽く会釈して、1階のボタンを押した、エレベーターの中で嫌な沈黙が続いた・・・この人は文也君と違ってなんだか近寄りがたい雰囲気がある、真紀とどういう経緯でひっついたか、正直ジェニはあんまり知らされていなかったが、ただ真紀が幸せなのだけは見ててわかる
「言い訳かもしれないが」
突然宗一郎がジェニに話しかけた、ハッと思わずジェニは体を硬直させて宗一郎を見た
「初めて会った時は、竜馬も俺も、君の事を若干誤解していたみたいだ・・・真紀からいろいろ聞いて、今は君の事を少し尊敬さえしている」
そう言うと宗一郎は、首にぶら下げているIDカードをジェニに渡した
「使ったらあとで真紀に返しておいてくれ」
「これ?・・・は?」
ジェニはIDカードと宗一郎を交互に見つめた
「竜馬は今、このビルの30階の重役専用ジムにいるよ、たぶんこの時間は一人だ、そのIDカードをかざせば中に入れる」
そんな所があるなんてまったく知らなかった、たしかにこのメビウスタワービルは要塞のようだ、それに彼らの体つきを見れば、そんな所があってもおかしくはないだろう、もしかしたらこの人にさっきの鉄壁の秘書とのバトルを見られていたのかもしれない
「え・・・と・・・真紀ちゃんは・・・私の事あなたに何てスピーチしたのかしら?」
ジェニはもう少しで笑いそうになって言った、宗一郎はしばらく無言だったが、次にあきらかにニッと口角を上げた
―あ・・・笑った・・・―
「その件に関しては、俺も君達に関わった方が面白い人生が送れるんじゃないかと思ったほどだね」
ジェニは、彼は笑ったら素敵な人だなと思った、どうやらこの状況を楽しんでいるようだ、宗一郎じゃないけど、その件に関してはジェニもこの人を誤解していたみたいだと思った・・・
。 .:・.。. .。.:・
30階のメビウスのスポーツジムは、入り口にゴールドのプレートで「メンバーシップ専用」と書かれていた
ジェニが第一関門の電子ロックキーに宗一郎から貰ったIDカードをかざすと、要塞のようなドアが音を立てて開いた
ドキドキしながら中に入り、ガラスの扉越しにジムを覗いてみる・・・ここも素晴らしい景色だ、ガラスの扉を押し開けた途端、ジムの熱気に襲われた、ずらりと並んだマシン・・・サンドバッグ・・・容赦なく全身を映す鏡張りの壁・・・
最後にジェニの視線は室内でただ一人の男性に注がれた・・・汗にまみれた男性が重そうなバーベルを持ちあげると・ジェニは文字通り縮みあがった
―松下竜馬―
黒いタンクトップと黒いショートパンツ姿で、ジェニに背を向けて立っている
床から腰へ・・・腰から肩へ・・・さらに上へと彼がバーベルをゆっくり持ち上げるにつれ、引き締まった筋肉が波打った、肌は意外と白く、汗で光っている
思わずジェニは見とれて入り口に佇んでしまった
なぜか心臓のドキドキがさっきから止まらない・・・この男性ホルモンがみなぎる場所ではどうしても自分は場違いだ
―ここには三浦君の解雇の取り下げを願いに来たのに、集中力を無くしてどうするの―
とにかく必要なデータは書類として印刷してる、買収されてからこの三ヶ月の神崎の営業成績と、これからさらに半年先の冬のボーナスまでの、純利益シュミレーションだ
来年はさらに多くなるだろう、三浦一人を解雇しなくても、十分の利益が見込める、プレゼンの時もそうするように自分の発言を顧客がすべて記憶すると思ったことなどなく、それは今回も同じだ
後で見返して検討させるためにも、紙の情報は必須だ、ジェニは背筋を伸ばし、大きく息を吸って竜馬の方へ歩き出した
コメント
1件
うわ、第77話、一気に引き込まれました!ジェニが秘書室長にまさかの物理的排除されるシーン、笑っちゃいましたけど、その後のエレベーターでの宗一郎との会話が良かったですね。あの「ニッと口角を上げた」描写で、彼の印象がガラッと変わりました。そしてジムの竜馬…筋肉の描写で思わずドキドキ。設定と心情が自然に絡んでて、続きが気になります!