テラーノベル
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……あぁ、朝か。
薄暗い部屋で見上げるのは、いつもの天井じゃない。
どうやら、明日花の部屋で寝落ちしたみたいだ。
まずった。まさか寝落ちするなんて……。
みんなとは週に1回しか会えないから、話したいことが山のようにある。
それが仇になったか。
寝起きでかすむ目を擦り、辺りを見回す。
……あれ、明日花はどこだ?
「……ん?」
「んにゃ……」
あ、いた。俺の腹を枕にして寝てる。
妙にツヤツヤしてるのは気のせいだろうか。
……気のせいだろう、多分。そういうことにしておこう。
壁掛け時計を見ると、ちょうど7時半を指して。
日曜の朝にしては早い。二度寝だってできる。
けど、思いのほか熟睡できたからか、頭が冴えている。
二度寝するには、もったいないな。
明日花を起こさないように、ゆっくりと体を引き抜く。
少し顔をしかめた明日花だったが、頭を撫でるとすぐに気持ちよさそうな寝顔に戻った。
さて、日曜日か……宿題はないし、今日は何しようかな。
……とりあえず、朝飯作って掃除でもするか。
部屋から出て、1階へ向かう。
やっぱり父さんたちは、今日も仕事らしい。家の中は静まり返っている。
研究職って、昔は憧れてたけど……今はなろうとすら思わないな。あの2人を見てると。
冷蔵庫の中から、適当に野菜と味噌を取り出す。
朝はやっぱり味噌汁だろう。味噌汁、最高。
グリルで鮭を焼きつつ、味噌汁やらその他の朝食を準備する。
と言っても、朝食だからそこまで大量には作らないけど。
鮭にこんがりと焼き色がつき、味噌汁のいい香りが漂い始めた頃。
2階から、どたばたと騒がしい音が聞こえてきた。
明日花が起きてきたか。
足音が階段を駆け下りてくると、キッチンの扉が勢いよく開いた。
起き抜けに飛び出してきたのか、髪には寝癖がつき、頬にはヨダレの跡まで残っている。
「あ、あー君!」
「ああ。おはよう、明日花」
「お、おはよう。……じゃなくて! な、何してるの……!?」
「見ての通り、朝食作ってる」
「じゃなくて! お、起こしてくれたら私が作るのにぃ……!」
明日花が悔しそうに地団駄を踏む。
尽くしたがりの彼女は、俺に関することは全部やりたくて仕方ない。……らしい。
俺は尽くされるより、できることは分担してやりたいんだけどな。
「おっ、お昼とお夕飯は私が作るからねっ! あー君はぐーたらしてていいから……!」
「わかった、わかった。それより鏡見てきな。ヨダレで口周りが凄いことになってるぞ」
「え? ……ぁ」
シュボッ! 羞恥心に火がついたのか、一瞬で顔を真っ赤にした明日花は、慌てて洗面所へ駆け込んでいった。
自分からぐいぐいくるくせに、こういうところは乙女なんだから……可愛いけど。
明日花が身だしなみを整えて戻って来るくると、ちょうど朝食も作り終えた。
粒が立ってツヤのある白米。
出汁の効いた玉ねぎの味噌汁。
皮までカリッと焼かれた鮭。
時間があったから作ったポテトサラダにミニトマト。
これぞ、ザ・朝食って感じのメニューだ。
2人で向かい合って座り、手を合わせていただきます。
明日花は味噌汁をすすると、幸せそうに顔を緩ませた。
どうやら、うまくできたみたいだ。
「明日花は今日どうするんだ?」
「そうねぇ……本当だったらあー君のお世話をしたいところだけど、それだと他のみんなに申し訳ないし……いつも通り、みんなが汚した部屋の掃除でもするわ」
確かに、こう言ってはなんだが、明日花たちの部屋ってかなり汚い。
亜金は、自分の汚したものは自分で片付ける。
だけど他の子は、基本的に散らかしたらそのまま。
榎本くもり
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#地雷系
尾津嘉寿夫 ーおづかずおー
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それを掃除するのが、明日花の役目になってしまっている。
「ごめんな、本当はみんなにやらせなきゃいけないんだけど……」
「気にしないで。私、あー君に尽くすのが1番好きだけど、みんなに尽くすのも好きなのよ」
……幸せそうな笑顔だ。
明日花がそう言うなら、任せちゃって問題ないだろう。
「なら、やっぱり昼と夜も俺が……」
「それとこれとは話が別」
「あ、はい」
さっきと同じ幸せそうな笑顔なのに、この有無を言わさぬ圧はなんだろう。
「あー君こそ、いつもみんなのお世話で疲れてるでしょ。日曜日くらいは、明日花お姉ちゃんに任せなさい」
「……わかった。いつもありがとう、明日花」
「気にしないで」
軽やかにウインクをすると、明日香は焼き鮭を1口食べ、また幸せそうな顔をした。
◆
「……夜になっちまった」
「なっちまったねぇ」
俺の後ろから抱きつきながら、明日花が楽しそうに笑う。
結局、本当に何もしないまま1日がすぎた。
何かやらなきゃとは思いつつ、かといって何かをやる気力もない。
家のことも全部明日花が全部やってくれたし……ヒモ男みたいな1日だったな。
「ねぇ、あー君。今日私、頑張ったわよね?」
「そうだな」
「じゃあご褒美が欲しいんだけどぉ」
明日花が背中にぎゅっと抱きつき、甘えるように頬を寄せてくる。
頬を染め、潤んだ瞳でこちらを見上げて……なるほど、甘やかしてほしいらしい。
ふむ……。
「よし、いいぞ」
「うんうん。それじゃ……えっ?」
俺の言葉が予想外だったのか、明日花は目を瞬かせる。
その間に明日花の腕からするりと抜け、今度はこちらから抱きしめた。
途端に、明日花の顔がみるみる赤くなっていく。
「ままままっ、待って待って……! そ、そんないきなり……!」
「ご褒美、欲しいんだろ?」
「そっ、そうだけど……! わ、私は尽くしたいと思ってて……!」
「尽くすのも疲れるだろ。たまには、俺にも労わせな」
そう言って、明日花の頭を優しく撫でる。
それだけで彼女は肩を跳ねさせ、俺の胸元に顔を埋めた。
いつもはあれだけ積極的なくせに、いざ自分が甘やかされる側になると、この有様だ。
面白くなって、そっと顔を覗き込む。そして──
「ぁ……はがっ」
──気絶した。
熱に浮かされたように、目をぐるぐるさせている。
「相変わらず、攻められるのに弱い子だ」
明日花は自分から行く分には大丈夫だが、逆に攻められると恥ずかしさで気絶してしまう。
今日は1日掛けて家のこともしてもらった。
その上、俺にまで構っていたら、さすがに疲れるだろう。
だから、こうして強制的に休ませることもある。
……まあ、気絶させるつもりまではなかったんだけど。
そういう時、たまにこうして気絶させているのだ。
まあ、おかげで俺も悶々とする夜を送ることになるけど。
明日も早いし、今日はもう寝るか。
「おやすみ、明日花」
最後に、明日花のひたいへキスを落とし、部屋を出た。
──これが俺、虹谷明義の1週間である。
コメント
1件
うわっ、今日のエピソードすごく良かった…!明日花の尽くしたがりなところと、逆に自分が甘やかされると気絶しちゃうギャップが可愛すぎるよ🥺🤍朝ごはんを作るあー君の優しさと、最後に「たまには俺にも労わせな」って抱きしめて頭撫でるところ、グッときた…。2人の関係性がじんわり伝わってきて、読み終わったあと心がぽかぽかするような温かいお話だった🌙