テラーノベル
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聞きたいことがあると言ったのに、アズレイトはすぐには口を開かなかった。じっとサーシャを観察するように見つめている。
(もったいぶらないで、さっさと言ってよ!)
沈黙が辛くて、サーシャはあらぬ方向に視線を向ける。真っ青な空に浮かぶ大きな入道雲は、こちらを見下ろすだけで手助けはしてくれない。
「沈黙がお辛いですか?サーシャ様」
まさに今考えていることを言葉にされ、サーシャは目を丸くする。
「そ、そんなこと……」
「あなたは嘘が下手ですね」
アズレイトがクスッと笑ってくれたおかげで、辺りの空気は柔らかくなる。
しかしそれは一瞬のことで、アズレイトが表情を元に戻すと再びピリピリした空気になった。
「これまでわたくしはサーシャさまの約束通り、怖がらせることも嫌がることも一切しておりません。なのに、あなたはどうしてそこまでわたくしを毛嫌いするのですか?教えてください」
そっか。だからわざと黙ってたんだ。
アズレイトが沈黙した意味がわかったサーシャは、ジト目で睨む。
「自分とおんなじ気持ちを味合わせてやろうだなんて、アズは意地悪ですね」
「ええ。我慢の限界でしたので」
悪びれず笑顔を浮かべるアズレイトは、もう一度「理由を教えてください」と訴える。
謝ってくれないアズレイトに、意固地になって教えないのもアリ寄りのアリだ。でも──
(あー、もういっか)
意地を張るのに疲れ切っていたサーシャは観念した。
王都を出立して半月過ぎた。本来ならもう故郷の西の森に到着しているはずなのに、まだまだ半分以上距離が残っている。
このペースで進めば、遅かれ早かれ口に出さずともアズレイトはわかってしまうだろう。だから、もういい。
心を決めたサーシャは、アズレイトを真っすぐ見つめる。
「教えてっていうけどさ、アズさん……本当にわからないの?」
「は?」
主語を抜かして尋ねたら、間抜けな声が返ってきた。本気でわかっていないようだ。
無理もない。アズレイトに気付かれないよう細心の注意を払ってきたのは、他でもないサーシャなのだから。
よいしょと立ち上がったサーシャは木陰から、陽が当たる場所に移動する。アズレイトも懐いた犬のように後に続く。
自分の容姿が良く映る場所まで来ると、サーシャはもう一度アズレイトに問いかけた。
「……アズさん、良く私を見て」
「これ以上にない程、見ていますが───な……っ……!」
訝し気な表情のままサーシャを凝視したアズレイトは、何かに気付いたようだ。
でも、鳩尾を打たれたかのように短い声を上げた後、言葉を失ってしまった。
緑を含んだグレーの瞳は限界まで見開かれている。彼はもう真実を知ってしまったが、それを受け入れられないと拒絶の色を湛えている。
それでもアズレイトは、逃げ出さなかった。ゆっくりと近づき、壊れ物を扱うような手つきでサーシャの手首を掴んだ。
「お詫びします。サーシャ様。嘘が下手だなんて言ってしまって……あなたは完璧な嘘つきです」
「なにそれ。褒めてるの?」
「……褒めてるわけないだろ」
急に口調が変わったアズレイトは、痛みを堪えるように震えていた。
長い袖に隠れていたサーシャの手首は、皮と骨だけでほとんど肉が付いていなかった。
「……いつ……いつからこんなふうに……」
問いかけなのか独り言なのかわからないアズレイトの言葉に、サーシャは困ったように笑う。
頭の出来が悪くないアズレイトは、サーシャのたったそれだけの仕草で全てを理解した。
「わたくしのせいなんですね。わたくしが、あなたを森から連れ出してしまったから」
「違うよ、アズさん。私が選んだの。自分の意思でやったことなの。だからアズさんのせいじゃないですよ」
間髪入れずにサーシャは、アズレイトの言葉を否定した。
けれど、こんなに近くにいるのに、サーシャの言葉はアズレイトの元には届かなかった。
アズレイトはサーシャの手首を握ったまま、崩れるようにその場に膝を突いた。そしてサーシャの指先を自身の額に押し当てる。
「申し訳ございません、サーシャさま……知らなかったとはいえ、わたくしはとんでもないことを……本当に……申し訳ございません……」
震える声で謝罪の言葉を紡ぎ続けるアズレイトを見下ろしながら、サーシャは苦笑を浮かべて肩をすくめる。
聖なる力を持つ姫巫女は、どんな穢れだって浄化できる力を持つ。
でもその力は、万能ではない。それ相応の対価が必要になる。
魔王の瘴気を浄化したサーシャに求められた対価は──その命だった。
コメント
1件
いやー、ここで来たか…! サーシャの手首の描写で一気に現実突きつけられた感じがしたわ。アズレイトが膝ついて謝るシーン、グッと来た。「対価はその命だった」って最後の一文、めっちゃ重いね。これからどうなるんだろ…続きが気になる🔥
#大人の恋
鷹槻れん

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瑠璃マリコ
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当麻月菜
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