夕飯作りに夢中になっていると、しょっぴーの姿がいつものソファにないことに気がついた。
疲れて横になっているのかと思い、寝室へと入る。
ベッドでは、ほとんど頭まで毛布を被るようにして、しょっぴーが横になっていた。
開けた寝室のドアを内側からノックする。
「おーい、ご飯出来たで」
「……要らない」
そう言って、毛布に包まったまま、しょっぴーは寝返りを打ち、俺に背中を向けた。
……今日はなんだかしょっぴーの機嫌がよろしくないようだ。
ベッドの端に腰掛けると、背中を向けたままのしょっぴーの腰のあたりを撫でた。
「なぁ、どないしたん?何か怒っとるん?」
「別に」
しょっぴーは素っ気なくそう言うと、ムクリと起き上がり、今度は入れ替わるようにベッドを出ようとした。そして、俺が思わず掴んだ細い手首に引っ張られて、尻もちをつくように、隣に座った。
上半身を預けるようにしょっぴーがもたれてきて、肩に彼の重みが乗る。といっても、ちっとも重くなくて、心配になるくらいに華奢な身体だ。
「どないしたん?言うてや」
「…………んっ…」
急にしゃくりあげるような音が聞こえてきて、慌てて両肩を掴み、正面から顔を覗き込んだ。涙が頬に垂れている。
「泣いてるん?……ほんま、どうかした?」
「………言いたくない。お前、引くから」
「引かへんよ」
それから正味5分間くらい、しょっぴーはただただ何も言わずに泣き続けた。
泣きすぎて、泣き声がいつしか嗚咽になり、顔を隠すように俺の胸に顔を押し付け、しばらく泣き止まないでいる。シャツの胸のあたりが涙で熱く、ふやけていくような感覚がした。背中に腕を回し、落ち着くまでさすってやる。
延々と続きそうなこの時間に、初めは戸惑うばかりだった俺も、腕の中で震える愛しい人の感触に、不思議と、癒されるような感覚に陥っていった。しょっぴーの温もりを感じる。
涙の理由はわからない。
でもこの震える可愛らしい人が、今は俺に、俺だけに頼ってくれていることが妙に嬉しくて、自分が守ることのできる唯一の存在に、愛おしさが増していく。
「こーじ?」
やがて少し落ち着き、泣き止んだしょっぴーが、泣き腫らした目をして、ゆっくりと顔を上げた。
「俺のこと、好き?」
「大好きや」
「ほんとうに?」
「おん」
しょっぴーは、俺の体温を確かめるようにしばらく抱き返すと、ゆっくりと身体を離して、俺の目を見ずにぽつりと言った。
「俺、変かも」
「?」
「康二といるようになってから……あの…」
目線を逸らし、言い淀む彼の次の言葉を黙ってじっと待つ。
しょっぴーは、おそるおそる、といった様子で、頬を赤く染めて、呟いた。
「ほんと、俺らしくないっていうか…」
「大丈夫やよ。ちゃんと、話して?」
「こんな俺、嫌いにならない?」
臆病なしょっぴーは、先を確かめるように断りが入る。何となく言葉の先が予想できた俺は、しょっぴーの頬にキスをした。
「なるわけないやん」
「///卑怯だぞ」
「どっちが」
不思議そうに小首を傾げるしょっぴーが堪らなく可愛いらしい。こういうところは天然だ。計算ずくじゃないところが恐ろしい。
「可愛すぎるねん」
「俺、康二にもっと構ってほしい」
「もっと?」
「ん……」
「ご飯、できたとこやのに?」
「ん。ご飯より、今は俺を見てほしい」
「かなわんな、もう」
ほなラップしてくるわ、と立ち上がろうとした俺を強引にぐいっと押し倒すと、しょっぴーは上から自分で唇を被せてきた。
「一緒にいるのに寂しいなんて、俺、変?」
「………変やないよ」
「ご飯作ってくれてるのに、ほっとかれてるって思う俺って、重い?」
「重くない」
否定してるのに、しょっぴーの目尻にはまたみるみる涙が溜まる。しょっぴーは俺の上に倒れて、胸にまた顔を埋めた。
「重くない、嬉しいよ」
泣き止むまで、頭をぽんぽんと撫でてやる。
今夜のメニューはいつかの生姜焼き。美味いと頬張るしょっぴーがまた見たくて、愛情を込めて、作った料理。それもまた、俺なりの愛情表現なんだけど。
でも肝心のしょっぴーは、特大の甘えモードみたいだ。
「好きやで、しょっぴー。大好きやから、俺も」
「うん」
「ずっとそれは変わらへんから」
「………増えない?」
「増える?」
「好きって、増えない?変わらないだけ?」
真剣に俺を見つめている、その震える二つの黒目に、俺は我慢できず、しょっぴーを横に下ろすと、今度は俺が上に乗った。
「増えてるで。毎日、増えてる」
「俺だけじゃない?」
「忘れたん?好きになったんは、俺の方からやで」
「康二、きて」
そこからはもう、言葉は要らなかった。熱っぽいしょっぴーの視線と俺の視線とがぶつかり、深く唇を重ね合わせると、俺たちはそのまま飽きることなく愛し合い始めた。
コメント
13件
🧡好きすぎて不安になっちゃう💙可愛すぎる🤦🏻♀️🤦🏻♀️🤦🏻♀️
ギリギリを攻めたくて書いてはみたけど、一個前と同じかよって既視感だし、推敲の段階から気に入らないのになんとか手直ししてダシチャッタ😂ごめんね精進します🫡✨
