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水の音に紛れて焚き火の音がする。アリアはゆっくり目を開けた。見覚えのない木が見える。自分の体には葉っぱが被せられている。アリアは急いで起き上がる。
「は?なにこの状況!?」
「起きたんですね。」
「•••なんで。」
「ペアですから。」
ミズキはそう言うと火の近くに座った。
「•••嘘でしょ、あの崖から川まで結構距離あった、よ?え、嘘でしょ?」
「意外といけました。」
「いけました、じゃない!もう!本当に!」
アリアもミズキという存在に困惑していた。
女なのに自分と違い性別で判断をされたことも、型にはめられたこともない存在。
嫌でもありのままを愛され認められてきたことがひしひしと伝わってくる。
「•••暗くなってきましたね。」
「仕方ないから、明るくなるまでビバークするしかなさそうね。」
「そうですね。 」
2人は急いで寝床と身を守る準備をし、 非常食として野うさぎと魚を捕獲した。
火を絶やさないようにし、その周囲で最低限の処理をした魚と肉を焼く。
ふとミズキはアリアに聞いた。
「•••奏さんは、なぜ自分の能力を否定するんですか?」
「え?」
「一緒に作業をして思ったんです。それだけの能力があるのに、なぜ女を理由にするのか、それだけの能力があるあなたなら」
「•••それは自分の存在を性別で否定されたことのない人間が言う言葉よ•••。」
アリアが下を向いた。
「私には兄がいるの。母も父も祖父母も嫡男の兄を溺愛していたわ。だから私の存在はいつも空気だった。お祝いも行事も全部兄が優先。学力だって私の方が上だったのに、私がいい点数をとれば兄がかわいそう。兄がいい点数をとればお祝い。それが嫌で家を飛び出して、入隊したの。親からは絶縁宣言されたわ。女らしくしないからって。ようやく、解放されたって、思ったのに•••。」
アリアの目に涙が浮かぶ。
そして思い出すのは水の中で見た過去の自分の姿 だ。
「結局、私•••悔しい•••!女だから、女だからって•••!女じゃ、なかったらって!今でも母の言葉が、呪いみたいに、つきまとうの•••!」
「それは」
「あんたにはわからない!そのままの存在を受け入れられて、愛され、認められてきたことがあるあんたにはわかるはずがない!」
アリアの本心だ。ミズキはなにも言えなかった。
2人の間に水と焚き火の音が響く。
「正直、あれだけ男の人や大将の前で猫被るような人が、泥だらけになったり、生き物を殺める行為ができるとは思いませんでした。」
「は?私をなんだと思ってんのよ。」
「だからあなたは、性別で判断をされてきたかもしれませんが、それに屈せずに努力も重ねてきた人だと思うんです。」
「へ?」
「その•••奏さんの呪いが解けたら、私も嬉しいのかなって•••。」
「•••そう。 」
そうして再び沈黙が訪れる。
2人はお腹を満たすと交代で仮眠をとった。
アリアが起きている時、ミズキの言葉が反復する。
“呪いが解けたら、私も嬉しいのかなって。”
(•••本当に、ペース崩れる。)
アリアは初めて自分に向けられた存在を認められる言葉をどう受け止めていいのか戸惑っていた。
「はぁぁ•••本当に、困ったな•••。」
辺りは段段と明るくなってきて、朝が近づくのがわかる。
(胃が痛い、なんだか、体が変、寒い。)
ミズキは体の異変に気づいた。
火の近くにいて暖かいはずなのに、まるで冬のように体が震える。
「ミズキ? 」
顔を洗ってきたアリアが戻ってきて、ミズキの異変を察する。
「大丈夫です、問題ありません。」
「問題あるわよ!昨日体冷しすぎて熱出してるじゃない!」
「大、丈、ぶ•••。」
ミズキが立ち上がり歩き出す姿には明らかに体のふらつきがある。アリアはミズキの体を背負う。
「ちょ」
熱が高く抵抗する力が出ない。
「少し休んで。拠点の方角は覚えてるから。」
そう言ってアリアはゆっくり歩きだした。
アリアの歩く心地よいリズムにミズキは次第に目を閉じた。
アリアは黙々と歩いた。ようやく眠ったミズキを起こす気になれず、休まずひたすら木々の葉の向き、幹の左右差、太陽の位置を目印に歩いた。
「ミズキ!あぁ、良かった! 」
「奏さん!無事ですか!」
前方から水谷と叶が現れた。叶はアリアに礼を伝え、ミズキを抱えると急いで拠点へと向かう。
「助かりました、あなたが雨音さんのペアで良かった。」
「ぜん、ぜん、よゆー、です。」
いつも通りのかわいい声で言いたいのに、息があがって上手く話せない。
「帰還しますよ。」
「ちょっ!」
そう言って水谷はアリアを抱え、そのまま宿舎へ戻ってきた。
ミズキは熱、アリアは軽い脱水を起こしており、2人はしばらく訓練は中止となった。今日1日は医務室で休める。
アリアはベッドの上で腕と足を伸ばす。
「あー、ようやく布団で眠れる。」
「奏さん、ありがとうございました。」
「奏じゃなくてアリアで良いわよ。それに私18だし、敬語もやめて。」
「•••うん、わかった。」
ミズキは初めて年の近い同性に敬語を使わずに話す。今までにない不思議な感覚がした。
「失礼します。雨音さん、奏さん、具合はいかがでしょうか?」
「水谷大将。」
「バッチリですよー!心配かけてすみません。ミズキちゃんが無事で、私安心したら、涙が。」
アリアの演技が始まった。そんなアリアを横目にミズキは水谷に話しかける。
「水谷大将、課題の答えがわかりました。」
「聞かせていただけますか?」
「アリアは誰よりも努力しています。今の泣いているのも演技ですが、それでも、彼女は立ち向かってきた素敵な人です。」
「演技言うな!バラすな!」
「ミズキさん、よくできました。」
水谷は微笑んでミズキを見た。
「奏さんはどうでしょうか?自分の心、向き合えましたか?」
「•••少しは。」
アリアはミズキと水谷を直視できず視線を逸らす。
「アリアさんも合格のようですね。」