第一章 止めて、止めて、止め続けて
ある日のこと。
今日も、自殺しようと屋上に来たときのこと。
はじめて、似たような悩みの子がいた。
ちょっとだけ汚れた白いカーディガンを着た、ケモ耳の男子。
どこか諦めたような目をして、屋上の柵の向こう側に佇んでいた。
親に虐待されているのだと、すぐに分かった。
屋上に先客がいる限り、私は何度も言う。
口をついて出ただけ。
本当はどうでもよかったこと。
思ってもいなかったのに、口からは、この言葉が飛び出した。
「ねえ、やめてよ・・・」
涙が、私の頬を伝った。
その人は微笑を浮かべ、言った。
どぬく「僕は白羽どぬく。君は?」
「私は・・・私は、木葉雪禰。この屋上で、自殺しに来た。」
そう。私は、こんな世界から早く抜け出すんだ。
どぬく「・・・僕はね、家で虐待されてて、学校ではいじめられてるんだ。」
それはそうだ、と少し思う。
人というのは、自分とは違うものを排除したがる生き物だから。
そんな習性がなければ今も生きていた命が、いくつあったのだろう。
ぼんやりと考えた。
どぬく「・・・それじゃあ・・・また、来世で会うのなら。」
白羽さんはそう言うとまた、静かに柵をこえる。
「・・・それでも」
私は、言ってしまった。
「それでも・・・それでも、こここらは消えてよ」
「君を見ていると、苦しいんだ」
その言葉が、どれほど白羽さんを傷付けたのだろう。
でも、これだけは、譲るわけにはいかない。
譲ってはいけない。
・・・なぜ?
どうして、白羽さんを屋上から追い出さなければならないのだろう。
白羽さんのため?
・・・いいや、きっと違う。
これは、自分のため。
白羽さんを放って置いたら、自分は罪悪感で死ねなくなりそうだったから。
どうせだから、沢山の人に迷惑をかけて死んでやる。
そう、決めたから。
その誓いを守りたいだけ。
口約束以下の、ただの戯言に縋りたいだけ。
それでも・・・私は死ななければならないのだ。
どぬく「・・・そっか。じゃあ、今日はやめておくよ」
そう言って、その人は屋上から出ていった。
その日。
その時、屋上には誰もいなかった。
私独り、だけだった。
もう、誰かに邪魔されることはないんだ。
「邪魔してくれる人なんて、どこにもいないんだから・・・」
・・・あれ、私は何を言っているの?
まるで、死ぬのを止められるのを望んでいるみたいじゃない。
ま、どうでもいっか。
少し汚れたカーディガンを脱ぎ、結んだ髪を解く。少し背の低い私はもう、
こんな世界とはおさらばするんだ!!!!!
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