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◻︎恋愛体質の男友達
石崎夫婦に会ってから、数日が過ぎた。
久しぶりに礼子と秘密基地にいる。
「私、出かけてくるからね。今日はそのまま家に帰るからあと、よろしく!」
「うん、わかった!」
礼子が出て行ったあと、私は自分の部屋に置いた寝袋にすっぽりくるまっていた。
ファスナーを首元まで上げて、右へごろごろ左へごろごろ転がっている、まるでミノムシのように。
_____どうしたもんかなぁ?
大人の恋愛小説を書く!と意気込んでみたものの、何をどう書けばいいのかさっぱりわからない。
主人公の名前もキャラクター設定も、ぼんやりとしていて具体的に見えてこない。
_____やっぱり、私には無理なのかなあ?
実際に恋しないと書けないんじゃない?
礼子はそう言ってたっけ。
_____でもそんな簡単に恋って、ねぇ…
昔の恋愛を思い出してみる。
何かのきっかけでその人が気になって、気がつけばいつもその人のことを考えていて、その人が他の女と仲良くしてるのを見るだけで、きーーーっ!っと嫉妬して。
たまに目があって、時々特別に優しくされたりするともうそれだけで舞い上がってしまう…ような?
「あいたっ!」
ごろごろ転がって、コツンと壁に当たった。
窓から差し込む日差しが優しくて、あの日見た石崎家の部屋に見えた。
あの人は今日も、愛する奥様のために全ての時間を使うんだろう。
朝起きて、夜寝るまで…もしかすると夜も添い寝しているのかもしれない。
あの大きなベッドで、優しく奥様の髪を撫でながら、お伽話なんかしたりして眠れない奥様をそっと抱きしめる…
夜中に目が覚めても、そっと抱きしめてもらえたら安心して深く眠れそうだ、あの優しい眼差しで見つめられたら…。
_____ん?私、何を考えてるだろ?
気がつくと石﨑さんのことばかり、考えている。
でもこれは恋ってやつじゃない、憧れみたいなものだ。
病に冒された奥様を、あんな風に全身全霊で愛するという男性が珍しいだけだ。
_____ダメだな、これじゃ、恋愛小説なんて書けない
「あ、そうだ!」
こんな時に話を聞いてみたいヤツがいた。
どういう集まりだったか忘れたけど、何かといっちゃ酒を飲んでカラオケして夜中まで騒ぐ、そんなグループの1人の男。
グループで集まることが減っても、何かあるたびにちょいちょい会って話してた。
男と女だけど、不思議と特別な感情もなくてただの友達としての付き合いができる、貴重な存在だ。
「瑞浪誠司…えっと、どこだ?」
もう長いあいだ連絡もしていなかったから、LINE画面のずーっと下の方に履歴が下がってた。
「みっけ!」
しょうもないスタンプで終わってるその履歴から、コメントを送る。
〈こんにちは♪元気にしてる?今も恋してる?〉
そう、誠司は自他ともに認める恋愛体質だった。
「どうもこうもないよー、もう、ホント疲れた」
「珍しいね、誠司のそんなセリフは。まぁ、今日は久しぶりってこともあるから、話を聞いてあげよう、この、美和子様が」
居酒屋のテーブルでうなだれるひと回り年下の男の背中を、ぽんぽんと叩いてやる。
あの久々のLINEにも関わらず、誠司からはすぐに返事があった。
《恋?してるよ!でも今それどころじゃないよ、色々あってさすがにへこたれてる(T ^ T)》
そんなコメントをくれるなんて、今までになかったから、じゃあ会って話を聞こうか?となってこの居酒屋に来た。
「恋は生きる源、俺のエネルギー!とか言ってたじゃん?で、その恋してるのに、エネルギーが足りないの?」
グビグビとジョッキのビールを一気飲みする誠司。
_____そんなに酒に強くないはずなのに、酔っ払ったらどうするんだ?
「心配しないで、酒にはなかなか強くなったんだから」
「心を読まれたか、さすがに気配りの男だね。それで?何があったの?」
「あー、あのさ、うちの親父がね、不倫相手と駆け落ちしちゃったんだよ」
「えーーっ!!ここにも駆け落ち?」
「ん?ここにも?」
「あ、ごめん、こっちの話。でもお父さん、どうしてまた?」
「薄々は感じてたんだよ、女がいるってことは。でもさ、まさかそんな駆け落ちするほど本気とは思わなくて、ほっといたんだけどね」
プチっと弾けた枝豆が、私の手からどこかへ飛んだ。
「あら?どっかいっちゃった、ま、いいか。それで?お母さんはどうするって?ていうか同居してたっけ?」
「いや、でも敷地内だからほとんど同居だけど。それで毎日のようにお袋がやってきては、ぐちぐちと言って行くんだよ。あんな女のどこがいいんだ?とか、お父さんは騙されてるんだお父さんの退職金が目当てなんだってね」
「それはどうなの?」
「俺が見た感じ、それはないかな?単純に好きだから一緒になりたいって言ってるように見えた」
「誠司は会ったことあるんだ?」
「うん、一度だけ、親父に紹介された、この人が俺の好きな人だって」
「おかわり、お待ちしました」
店員が新しいジョッキを置いて行く。
「へぇ!誠司を味方につけたかったのかな?お父さんは。それで離婚は?」
「親父は、離婚届にサインして置いていったんだよ、最低限の荷物だけ持って自分の車で」
_____これも、よくある話なのか?
「お父さんくらいの年齢になると、離婚するとなると大変なの?」
「んー、子どもは俺も姉ちゃんも独立して家庭があるし、親父とお袋が話し合えばそれでいいんじゃないかって思ってる」
「そうだよね、養育費とかいらないもんね」
「そう。だけど、結婚ってことになるとまたややこしくなりそうでさ、もしもの時に遺産とかで問題がありそう」
「ふーん、すっごく財産あるの?」
「土地と家といくらかの貯金くらいじゃない?よく知らないけど」
あぁ、もうっ!…と頭を抱える誠司。