──別荘から戻り、また日常の業務が始まった。
「…ねぇ、最近智香ったら、うれしそうだよね?」
受付の合間に真梨奈に話しかけられて、「えっ…」と答えに詰まる。
「なんか、いいことでもあった?」
「うん…ちょっとね…」
言葉を濁して言いながらも、顔がついほころんでしまいそうになるのを、
「にやけ顔が全然隠せてないしー」と、真梨奈に肘で小突かれた。
「そういえば政宗先生も、よく笑顔とか見るようになったけど」
そう続けて喋る彼女に、「えっ……そう、なんだ……」と、意外な勘の鋭さに動揺しそうになる。
「そうだって。あの完璧なアンドロイドみたいだった先生が、なんかこの頃は人間味が感じられるっていうかさ……ねぇ智香、それってなんでなんだろうね?」
訊かれて、「さぁ……なんでなんだろうね……」さして誤魔化すこともできずに、オウム返しのようにも応じた。
「政宗先生が前とは変わってきたんなら、智香も脈アリかもよ?」
ふいに言われて、「……私?」と、ドキリとする。
「そうだよ、私は先生のことはもういいし。もっと軽いオトコとかの方が、やっぱり付き合いやすいしさ。智香は、まだ好きなんでしょ? 先生のこと。だったら今がチャンスだって、私も応援してるから」
そう話して、私の肩をポン…と軽く叩く真梨奈に、
「うん」と頷いて、「ありがとうね…」と、笑いかけた。
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