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12月末の朝、積雪量は1メートルを超え、慣れないスコップを振り回して除雪作業に明け暮れた。初めは寒くて震え上がるけれど、ほんの少し雪を掻いただけで汗だくになる。拓也さんは、独り身のご高齢の方の家の除雪に出掛けている。私もいつまでも頼ってばかりじゃいられない。縁側から庭へ続く道は雪で完全に埋まってて、玄関を開けた瞬間、白い壁にぶつかったみたいに視界が真っ白。
スコップを握って、まずは玄関前の雪をガリガリ削る。
「うっ……重い」
雪は湿ってて、ひと掻きごとにずっしり。長靴の膝まで埋まって、抜け出すたびにズボッと音がする。汗が額を伝って、冷たい風に当たるとすぐに凍りそうになる。でも、止まらない。
拓也さんが朝早く「今日は高齢者の家を回るから、里奈は自分の家だけでも頼む」って言って出ていった姿を思い出すと、なんだか負けられない気がする。
「私だって、村の一員なんだから……!」
スコップを振り上げて、雪を飛ばす。少しずつ、少しずつ、道が開けていく。庭の柿の木の枝に積もった雪が、ぽろぽろ落ちてきて、顔に当たる。冷たいけど、なんだか気持ちいい。汗だくの背中が、社畜時代に徹夜で資料作ってた時より、よっぽど爽快。
シャンシャンシャン。
遠くで除雪車の音が聞こえる。拓也さんが回ってるんだろうな。
高齢者のお宅は雪で孤立しやすいから、医者として優先してる。私も、せめて自分の家の周りをきれいにしておこう。
玄関前がようやく通れるくらいになった頃、坂道から足音が聞こえてきた。山下じいちゃんが、スコップを担いで上がってくる。
「里奈ちゃん、ようやってるな! 拓也の奴が『里奈の家も見てきてくれ』って頼んできたわ」
「じいちゃん……! ありがとうございます。でも、もうほとんど終わりましたよ」
じいちゃんが笑って、私のスコップを覗き込む。
「ほぉ、なかなかやるじゃないか。昔のおばあちゃんも、雪かき上手だったもんだ」
一緒に残りの雪を掻き出して、道を広げる。汗が止まらなくて、頰が熱い。じいちゃんが息を切らしながら言う。
「里奈ちゃん、最初は雪で埋もれて動けなくなってた子が、今じゃ一人でここまで……」
私はスコップを止めて、じいちゃんを見た。
「みんなのおかげです。拓也さんも、じいちゃんも、村のみんなが支えてくれたから」
じいちゃんが毛玉だらけのニット帽を直しながら目を細める。
「それじゃ、わしも佐々木のおばちゃんとこの雪かき手伝ってくるわ、里奈ちゃん、無理せんでいいぞ」
「……はい!ありがとうございました!」
じいちゃんの背中を見送った私は、背中を這い上がる悪寒で家に駆け込んだ。私は汗だくの服を急いで着替え、こたつでスマホの通知を確認していた。
ネットセラピーのアカウントに、3件の相談者からメッセージが届いていた。
1件目:30代女性「転職を考えてるけど勇気が出ない」
「里奈さん、お久しぶりです。あの日のアドバイス通り、求人サイトを1つだけ開いてみたんです。それがきっかけで、1社だけ応募してみました。昨日、内定が出たんです……!まだ信じられなくて、里奈さんに一番に報告したくなりました。本当にありがとうございます。里奈さんの『小さな一歩からで大丈夫』って言葉が、ずっと支えになってました」
私は胸が熱くなって、すぐに返信する。
「内定おめでとうございます!本当にすごいです。里奈も、里奈の言葉が誰かの力になったなんて……嬉しくて涙が出そうです。新しい職場でも、里奈さんらしく輝いてくださいね。いつでも、話したくなったら連絡してください」
彼女からの返事がすぐに来る。
「里奈さんみたいな人がいてくれて、本当に救われました。これからも、里奈さんの動画見ながら頑張ります!」
雫石しま
2件目:20代男性「孤独を感じて夜眠れない」
「里奈さん、こんばんは。あの電話の後、『おはよう』って誰かに言ってみるって約束したんですけど……翌朝、会社の同僚に声をかけたら、意外と普通に返事が返ってきて。それから、少しずつ話す人が増えました。まだ完全に孤独じゃなくなったわけじゃないけど、夜が少しだけ怖くなくなりました。里奈さんの声が、頭の中で『大丈夫だよ』って言ってくれてる気がします」
私は微笑んで、返信。
「小さな変化、すごいです。私も、同じように少しずつ変わっていきました。これからも、焦らず自分のペースで。私はいつでもここにいますよ」
彼からの返事。
「ありがとうございます。里奈さんの声、ほんとに癒されます。これからも、動画楽しみにしてます」
3件目:40代女性「家族との関係がうまくいかなくて……」この方は重めだったので、拓也さんに連携して専門窓口を紹介したケース。メッセージは短かった。
「里奈さん、先生。紹介していただいた相談窓口に行きました。今は保護施設に一時避難して、子供と一緒に安全な場所で暮らせています。まだ怖い気持ちは消えないけど……少しずつ、前に進もうと思っています。あの時、里奈さんが『無理はしないで』って言ってくれたのが、心強かったです。ありがとう」
私は拓也さんにこのメッセージを見せる。拓也さんが私の肩を抱いて、静かに言う。
「里奈、よくやったよ。これで、彼女も少しずつ立ち直れる。里奈の声が、救いになったんだ」
私は拓也さんの胸に顔を埋めて、涙を堪える。
「拓也さんがいてくれたから、連携できたんです。一人じゃ、怖くて……」
拓也さんが私の頭を撫でる。
「俺も、里奈がいるから頑張れる。これからも、一緒に誰かを支えていこう」
夕方、YouTubeのコメント欄に新しいメッセージが届く。
「RINAさん、最近の動画見てたら、声がますます優しくなった気がします。ネットセラピストになったって聞いて、すごく納得しました。私も、里奈さんの声に救われてます。これからも、ずっと応援してます」
私はスマホを握りしめて、縁側で白山を見る。雪が静かに降り積もって、村全体が白く優しく包まれている。誰かの心を軽くできた毎日が、こんなに満たされるなんて。夢みたいで、涙が出そう。
◇◇◇
YouTubeのチャンネル「社畜OLが田舎暮らしで勝ち組になりました」は、登録者数が15万人を突破。最新動画は「ネットセラピストになったよ! 初回相談のリアル(許可済み再現)」で、視聴回数が急上昇中だった。
コメント欄を開くと、数百件の反応が並んでいる。私はコーヒーカップを握りしめて、1つずつ読む。
「RINAさんの声、本当に癒される……社畜時代にこんな動画があったら、毎日見てたのに」
「転職の相談動画見て、勇気出て自分も辞めました!今は田舎でリモートワークしてます。RINAさんありがとう」
「カメムシ餃子天才www 拓也先生カッコよすぎて草。RINAちゃんの悲鳴可愛いすぎる」
「干し柿作り動画の告白フラグから、最近のラブラブ動画まで追ってます。幸せ分けてもらってる感じ」
「ネットセラピストのRINAさん、声だけで泣きそうになった。私も社畜で心が壊れかけてたけど、RINAさんの『小さな一歩からで大丈夫』で救われました」
胸が熱くなって、涙がぽろっと落ちる。社畜時代の自分は、誰にも必要とされてないと思ってた。でも今は、画面の向こうで誰かが「里奈さんの声に救われた」って言ってくれてる。コメントを読みながら、指が震える。
拓也さんがキッチンからコーヒーのおかわりを持ってきて、私の隣に座る。白いセーターが雪景色に似合ってて、長い髪が肩に落ちてる。「里奈、どうした? 泣いてる」私はスマホを拓也さんに渡して、涙声で言う。
「コメント……みんな、私の動画見て、勇気出したり、癒されたりしてるって……私、こんなに誰かの役に立ててるなんて、思わなかった」
拓也さんがコメントをスクロールしながら、優しく微笑む。
「里奈の声は、ほんとに特別だよ。俺も、クリニックで患者さんが里奈に話すと顔が柔らかくなるのを見て、いつも思う。
里奈は、ただいるだけで人を癒すんだ」
拓也さんが私の頭を撫でて、額にキスをする。温かくて、優しくて、また涙が溢れる。
「拓也さん……ありがとう」
拓也さんが私の手を握って、静かに言う。
「これからも、里奈のペースで続けていこう。俺は、ずっと隣にいるから」
私は頷いて、拓也さんの肩に頭を預ける。スマホの画面には、まだコメントが次々と増えていく。
「RINAさんと拓也先生のカップル動画、癒しすぎて毎日見てます。幸せ分けてもらってます」
「社畜の私に希望をくれた。RINAさんみたいに、田舎で勝ち組になりたい!」
「ネットセラピストのRINAさん、予約取りました!楽しみです」
私は拓也さんの手を握り返して、微笑む。最高じゃん。本当に、楽しいんですけど……誰かの心を軽くできて、拓也さんと一緒にいられて、毎日が夢みたい。これからも、ずっと続けていきたい。私の勝ち組生活、まだまだ続くんだ。