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「とにかく、明日にならないと判断つかないな」
哲人がお茶を飲みながら言った。
リネさんは部屋の外に待機しているので、私が淹れなおした紅茶っぽいお茶だ。
「うん。この国で人を助ける方に動くか、魔王の国に行ってしまうか、全部から逃げるか。どれがいいかまだ分からないわね」
「最悪、いろんなところから追われることになりそう」
「うーん……困るわね。そうなったら、魔王の国をぶっ潰して作り直して落ち着こうか」
「え?!なにその力技!ロードローラー邪栄ちゃんってシャレにならないよ想像ついたけど」
「ロードローラーだと?想像つかせるな」
ぺしっと蹴ったのに、紅茶は死守された。
哲人、蹴られるの慣れてきてない?
気のせいかな。
勇人は、ソファを背にしてラグを敷いた床の上に座らせている。
おもちゃ代わりに渡した木のコップで床を叩いてるけど、多分割れたりしないよね?
「哲くんもいるし、魔王が治める国だっていうなら、作り直すくらいできそうじゃない?最悪その手段を取るよ、勇人の安全のために」
防音とか見張りを誤魔化す魔法は既に実行してある。
索敵もしてみたけれど、ドアの外にリネさんがいることと、寝室の壁に隠し通路があることくらいしか分からなかった。
隠し通路ってロマンだよね。
でも、怖いから箪笥を移動させて出入りできないようにしてみたよ。
「……俺も、勇人と邪栄ちゃんの安全のために動くから、無理はしないでね?」
「もちろんよ。私も勇人も、哲くんと一緒にいることが大事なんだから」
「邪栄ちゃ……」
「んー!んまーまーんーま!!んばーまーばー!」
哲人が私に抱きつこうとしたが、その前に勇人がこっちに訴えかけてきた。
コップを遠くに投げてしまって、取って欲しいらしい。
哲人の手を無視して、勇人に歩み寄ったらロングスカートの裾を掴まれた。
「んーだ、だー」
「抱っこ?はいはい」
「んまー!だだー」
勇人はコップを片手に持って、抱っこされてご機嫌のようだ。
哲人はしょんぼりしていたと思ったら、両手を広げてこちらに来た。
そのまま、私と勇人をまとめて抱きしめた。
「俺が守るからね!警護魔法の使い方がややこしいから、もうちょっと待って!」
「え?警護魔法ってややこしいの?」
抱きこまれたまま聞けば、哲人は頷いた。
「使い方がちょっとね……基本的には、『警護魔法、レベルなんとか』でいけるらしいんだけど、細かい条件があってさ」
「条件ねぇ……危険な人から守るって言ってもいろいろってこと?」
「そうそう。誘拐の場合どうするか、命の危険の場合も転移するのか攻撃を跳ね返すのか、悪意のある言葉はどうするかとか、全部指定しないと働かないらしいんだ。しかも、2重がけはできないから一文にまとめないと。かけ直しはできるらしいけど、毎回解除してかけることになるみたいで」
「めんどくさいわね……」
「その条件をまとめてるから、ちょっと待ってね。あ、でもとりあえず命の危険がある場合には跳ね返すってことにはしておこうか」
「そうね。とくに勇人は厳重にね」
「了解!!<警護魔法、レベル10、勇人は命を脅かす攻撃を100%跳ね返す><警護魔法、レベル10、邪栄は命を脅かす攻撃を100%跳ね返す>」
ふわり、と魔法がかけられた。
よく分からないが、薄いベールでも上からかぶったようなイメージだ。
それが触れると体に吸い込まれるように消えていった。
「哲くん、自分にもかけておいてよ」
「もちろん。<警護魔法、レベル10、自分は命を脅かす攻撃を100%跳ね返す>」
どうやら、ほかの魔法と違って疲れるらしい。
魔法をかけ終わった哲人はソファに伸びている。
「ねぇ、レベルの差って何?」
「あぁそれは、俺のよりも強い魔法だと跳ね返せないことがあるってこと。レベル10が最高だよ」
「そっか。そのへんの説明も入ってくるの?」
「うん。ただ、情報を仕入れるごとに魔力とか体力を使ってるらしくて、体がもたない」
「それは不便ね……私の独自魔法のことも知りたいんだけど」
「多分、分かると思うけど……明日以降でお願い」
「はいはい。とりあえず明日ね」
「ごめんねぇ、不甲斐ない夫で」
「充分よ」
笑顔を向けて、勇人を抱っこしたまま連れて行くと、勇人が哲人の方に手を伸ばした。
だから、しゃがんで哲人の方に近づけてあげた。
「あぁ、勇人。パパは頑張るよっ!」
「だっだっだ!」
勇人はその手をぶん、と振った。
「痛っ!勇人、家庭内暴力反対!!」
哲人が頬に手を当てて叫んだ。
勇人の指先が、頬をかすったらしい。
「大きな声出さないでよ、勇人がびっくりするでしょ。それに、まだよく分かってないんだから仕方ないわよ。ねぇ勇人、びっくりしたわね」
「んーま、ぶあーあー」
「はいはい、ひっかいちゃだめよ?痛いからね」
「うぅ、父親なのに虐げられてるひどい」
「んーん、ぱぱぱーぱー、ぶあーぶあー」
「あ!今勇人がパパって言った!」
「いやたまたまでしょ」
「勇人、勇ちゃあああん!」
「んーまーんー、まー」
だめだこの父親、親ばかすぎる。
とにかく、明日まではくつろぎますか。