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「オレら帰るとこだったのよ」
先生がそう言うと、彼らは「そっかそっか」「止めてごめんなぁ?」ってにこやかに笑う。
人柄の感じは…全然悪くないのに…
「久々なのにごめんな。また連絡してよ」
「おう。またゆっくり飲むか」
「〇〇、帰るよ。」
私の腕を掴んで立たせると、先生は「じゃあな」って彼らに手を振り、会計を済ませた。
パーキングまで繋がれた右手。
ギュッと握り返すことができない。
「どーしたの」
『⋯なんでもないです』
「何でもないなら、なんでそんな顔してんの」
ほっぺたを人差し指でつつかれる。
「アイツらが言ってたこと気にしてる?」
『⋯』
「悪気はねぇんだよ?気のいい奴らだし」
『それは⋯分かってます⋯』
先生の大切なお友達なんだし…
先生は、変な人と付き合わないって分かってる
「今日は酔っ払ってたし。許してやって」
『…うん』
「ごめんな」
『ううん、怒ってる訳じゃないから…』
先生と同い年の彼らが「可愛い」って
まるで、子供と話してるように「可愛い」って
先生の目にも、私はこう映っているのか、と考えてしまう。
先生の中では、うんと年下の子供のまんまなのかな。
「〇〇?」
車に乗っても、私はそんなことばっか考えちゃってなんも話さなくて。
なのに先生は、苛立たせず私を気にかけてくれて、声を掛けてくれる。
「このまま〇〇ん家に送るつもりだったけど」
『⋯⋯』
「もうちょっと、一緒にいようか」
『⋯え⋯?』
「俺ん家、連れて帰るけど良い?」
『⋯先生の家』
「いや?」
ずっと窓を見ていた私は、思わず勢いよく先生の方を見てしまって
でも先生は、変わらず前だけ見てて
だけど、密かに口元が緩んだ。
『⋯いやじゃない⋯』
先生の手が私の方まで伸びてきて、軽く頭を撫でた。
私、やっと大人になれるのかな⋯
なんて思ってたら息するのも難しくて
でも、いつだって覚悟はしてたんだから
私は、お泊まりセットが入ってる鞄を強く抱き締めた。
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