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お股ポテト
29
はるにし
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僕は広間のソファに座って考えていた。
小説を辿って、同じイベントを起こしたら、僕の記憶が戻っちゃう。
だから、やっちゃダメだ。
(僕の記憶が戻ったら、シュメリが泣いちゃう)
バルトが悲しんじゃう。
だから、ダメなんだ。
(思い出しても忘れない可能性も、あるよね)
昨日のムスクの説明は、そんな感じだった。
それでも、シュメリとバルトは、リスクを回避するほうを選んだんだ。
(忘れないかもしれないなら、思い出してみても、いいんじゃ……)
そう考えて、首をフルフルと振った。
「ダメダメ、約束したんだから」
自分の頬を、ペチペチ叩く。
(全部忘れちゃうかもしれないんだから)
それは僕だって怖い。
シュメリとバルトのこと、忘れたくない。
過去の僕も、そう思ったのかな。
どうして、そう思ったのかな——。
「リンネ、何やってんだ?」
声が掛かって、思考が途切れた。
バルトが不思議そうに僕を眺めた。
「あ……何でもない」
ほっぺを両手で抑えながら、バルトを見上げる。
バルトが、吹き出した。
「痛いこと、すんな」
バルトが僕の頬を撫でた。
「うん……」
ちょっとバツが悪くなって、僕は俯いた。
「そういや、昨日、何か言いかけていただろ?」
「昨日……あ!」
シュメリとムスクが来る直前。
バルトを買い物に誘おうとしていた。
(でも、もう行けない)
買い物はシュメバルのラブラブイベントだ。
小説を辿ったら、僕の記憶が戻っちゃう。
「あ、あのね、えっとね……」
僕は懸命に別の何かを探した。
けど、思い付かない。
「……お買い物に、ね。行きたかったんだ」
とっても小さな声で本当のことを言った。
「買い物か。欲しいものがあったのか?」
バルトには僕の声がしっかり聞こえてた。
僕はフルフルと首を振った。
「バルトが……魔術師団に入るのに、必要な物とかあるかなって、思って」
「そっか。ありがとな」
バルトが僕の頭を撫でた。
「買い物に行きたいのかい、リンネ」
シュメリがひょっこりと顔を覗かせた。
「シュメリ、お仕事は?」
今日は朝から書斎に籠って仕事をしていたはずだ。
「リンネのために早く終わらせたに決まっているよ」
シュメリが僕を、ぎゅっとした。
「それなのに、バルトと浮気の相談だなんて」
シュメリが、じっとりとバルトをねめつける。
「これのどこが浮気なんだよ」
バルトが呆れた顔をした。
シュメリが笑った。
「ふふ、冗談だよ。僕も買い物に行きたいと思っていたところでね。三人で行こうか」
「え!」
シュメリの提案に、僕は驚いた声を上げた。
「俺は行けないだろ。これのせいで」
バルトが首輪を引っ張った。
「条件を緩めるよ。僕の傍から離れられないってことにしようか」
シュメリが、バルトの首輪をトントンと叩いた。
光の粒子が零れ落ちる。
首輪が弱い光を発した。
「バルトは僕の推薦で魔術師団に入るんだ。恥ずかしくないよう、必要なものは総て僕が揃えよう」
「有難いが、そんなに必要なもんがあるのか?」
「それなりに準備は必要だ。基本は屋敷に届くよう、手配してある。今日は、出向かなければ手に入らないものだよ」
僕はシュメリとバルトを見比べた。
この展開は、小説の買い物イベの前振りだ。
(どうして今になって、勝手にそうなっちゃうの?)
今までは、頑張ってきっかけを作らないとイベント発生しなかったのに。
そうなってほしくない今になって、シュメバルが動き出している。
「ま、外に出られるなら、いいぜ。屋敷の中に籠りっきりも飽きてたとこだ」
「リンネを連れて森の家に帰ったりしたら、地獄まで追いかけるよ」
シュメリの目が本気だ。
かなり怖い。
「俺だってムスクの話を聞いてるんだ。今更そんな真似するほど、馬鹿じゃねぇよ」
息を吐くバルトを、シュメリが見詰める。
「君は時々、殊勝だから困る」
「別に普通だよ。大事にしたいだけだ」
何だか、仲良く話している感じがする。
前より確実に仲良くなっている。
(シュメリとバルトが仲良しになってくれるのは、嬉しいんだけど)
僕の記憶的に、この状況はアリなんだろうか。
(シュメバル成立させたくて、頑張ってきたけど)
二人が話したり、一緒に笑ったりするのは嬉しい。
でも、恋人になったら、きっとダメなんだ。
小説と同じ展開になったら、僕の記憶が戻っちゃうかもしれない。
(恋じゃなきゃ、いいのかな。お友達とかなら)
僕はシュメリとバルトの間に立った。
二人の手を握る。
「ん?」
「リンネ?」
首を傾げる二人を、交互に見上げる。
「三人でお買い物、行こうね。二人で行ったら、ダメ。僕も絶対一緒だからね」
僕が間に入っていれば、問題ないはず。
二人が、同じような顔で笑った。
「勿論さ、リンネがいなければ、意味がない」
「リンネの欲しいものも、買いに行こう」
「うん!」
握った手をぶんぶん振る。
不安だった買い物が、楽しみになった。
だけど、折角仲良くなってきたシュメバルを邪魔しなきゃいけないのは、辛いと思った。
コメント
1件
第24話、読み終わりました。 リンネが「僕が間に入っていれば問題ない」と自分を盾にする感じ、すごく切なかったです…。シュメバルが自然に仲良くなればなるほど、リンネが追い詰められていく構造が丁寧で、「どうして今になって勝手にそうなっちゃうの?」という戸惑いの台詞に胸が痛みました。記憶のルールとキャラたちの感情が絡み合う、設定の硬さが光る回でしたね。続きが気になります。