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お股ポテト
29
はるにし
72
次の日、僕たちは馬車で街に出掛けた。
バルトが、普段は着ないようなパンツとジャケットを着ている。
「こういう格好は慣れねぇな」
「これから、慣れていかなくては。魔術師団は騎士団より自由度が高いが、礼節が必要な場面は必ずあるからね」
「今日は買い物だろ」
「予行練習さ」
バルトにきっちりした格好をさせたシュメリは満足げだ。
二人の様子に、僕はハラハラしていた。
(すごく仲良し……! いつの間に、こんなに仲良くなってたの?)
ちょっと前まで、喧嘩ばっかりしていたのに。
僕の話ばっかりしていたのに。
最近は、ちゃんと違う話で二人だけで盛り上がっている。
(僕の知っているシュメバルになりつつある……いい)
悦りそうになった自分の頬をパンと叩いた。
(バカバカ、僕のバカ。二人が恋人になっちゃ、ダメなんだってば)
小説通りのシュメバルになったら、僕の記憶が戻るかもなんだってば。
でも間近でシュメバルの仲良しを見られるのは嬉しい。
神様、助けてください。
拝みそうになった僕の手を、シュメリが握った。
「自分の頬なんか叩いて、どうしたんだい?」
シュメリの顔が心配そうだ。
「そういや、昨日も同じことしてたな。何か反省することでもあったか?」
「反省?」
バルトの問い掛けに、シュメリが首を傾げた。
「ガキの頃からの癖だ。リンネは考えを切り替えたい時や、反省する時、自分の頬を叩く癖がある」
バルトに僕の癖を言い当てられた。
全く持ってその通り、これは前世からの癖だ。
「何か、反省してるの?」
「えっと……」
シュメリにじっと見詰められると、蛇に睨まれた蛙みたいに動けない。
「二人に、仲良くなってほしくて。でも僕、やり過ぎたかなって」
恐る恐る、近いことを言ってみる。
シュメリとバルトが、同時に吹き出した。
「なんだ、そういうことか」
バルトが安心したように笑う。
「もしかして、その為にずっと頑張っていたのかな?」
「うん……」
「猫魔の姿の時から?」
「……うん」
シュメリの問い掛けは、誤魔化せなかった。
「わかってたけどな」
バルトがさらっと、とんでもない発言をした。
「え! なんで」
「リンネの頑張りに、気付かなわけがないよ」
シュメリが微笑む。
その顔には、いつもより悪戯心を感じる。
「それで、成果はあったと思うかい?」
シュメリに問われて、僕は二人を見比べた。
「前より、凄く仲良し」
「嬉しい?」
「うん……でも」
このまま二人が恋人になったら。
(嬉しいけど、どうしよう)
期待と不安が同じくらい膨らむ。
複雑な心境すぎて、倒れそうだ。
(恋人にはならないで、なんて言えない)
だから、良い表現を必死に考えた。
「僕……僕より仲良くならないで!」
結局、出た言葉がそれだった。
なんて我儘な台詞だろう。
恥ずかしくて、涙が出そうになる。
「あの、違うの、あのね」
「リンネより仲良くなんか、ならないよ」
カクカクする僕を、シュメリが抱きしめた。
「俺にとっても、一番大事なのはリンネだよ」
バルトが言ってのける。
だけど、バルトはシュメリを止めない。
シュメリが僕にベタベタしても、前ほど怒らなくなった。
「これで安心かい?」
シュメリが僕の手の甲にキスをした。
「……うん」
僕は頷いたけど。
本当に、これでいいのかな。
小説ではシュメリとバルトはもっと仲良しになるのに。
僕のせいで、仲良しになれない。
(そんなの、正しくないよ)
そう思うのに、安心している僕もいる。
記憶のこともあるけど、それだけじゃなくて。
(シュメリを独占したいって、思ってる)
そんなの、あり得ないのに。
どんなにシュメリが好きって言ってくれても、シュメリのお嫁さんはバルトなんだ。
この世界で、それは決まっているはずなんだ。
(どうしよう、胸が苦しい)
仲良しに浮かれる僕と、そうなってほしくない事情と僕の気持ち。
全部がせめぎ合って、どうすればいいか、わからない。
わからないのに僕は、シュメリの手を握り返した。
コメント
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あおいです🌷 第25話、読みました。 馬車の中で繰り広げられる3人の空気感が絶妙でしたね。シュメリとバルトが「リンネより仲良くなんかならないよ」って重なるように言うところ、あれだけで二人のリンネへの想いが伝わってきて胸がぎゅっとなりました。それでいてリンネ自身は「シュメリを独占したい」って自覚し始めちゃって…嬉しいけど苦しい、その揺れが本当に繊細で。 指のキスのシーン、すごく好きです。