唖然としている私達を見た八左ヱ門は、口端を更に上げた。
「いやぁ驚きました。皆さんがこんなにもあっさり集まるなんて。正直狼を殺したり傷つけたりすると思ったんですけどね。」
塀に腰掛けた八左ヱ門は足を組み、その上に一番美しい狼をのせその体を撫で始めた。
「せっかく包帯とか持ってきたのに無駄になったじゃないですか。まぁ怪我しないのが一番なんですけどね。」
持ってた救急箱をほおり投げた八左ヱ門は、これまでの5年間、見たことのない顔をしている。とても恐ろしく感じた。
「たっ竹谷先輩!何でこんなことを!嘘だと言ってください!」
三治郎が八左ヱ門に必死に呼びかける。が、八左ヱ門は冷たい目で三治郎を見返す。
「先輩!」
「はぁ。」ヒュン!
八左ヱ門のため息と同時に、三治郎の顔の横を苦無がとおった。
「何で俺がわざわざこんな嘘つかないといけないわけ?」
そういうと八左ヱ門は苦無の穴に指を入れて回しながらほくそ笑む。
「はっちゃん!なんてことするんだ!」
兵助が固まってしまった三治郎のそばによる。
「後輩思いな八がこんなことするなんて、」
隣に立つ雷蔵が顔を真っ青にして言うと、八左ヱ門は顔を顰めた。
「何?まだわかんないの?俺は、城主様のご命令で学園を落としに来たの。裏切り者なわけ。だからわざわざこんなガキに優しくする必要もないわけ。」
「‥‥‥八左ヱ門。」
私がそう呟くと、八左ヱ門は無表情の顔をこちらに向けた。
「あぁ、そういえば三郎には礼を言わないと。」
「は?」
「お前のおかげで情報を早く掴むことができたんだ。」
「何のことだ!」
私が叫ぶと、八左ヱ門は声を荒らげて笑い出した。
「アッハハハハ!気づいてねぇの?お前のもとに入ってくる情報、全部俺に筒抜けだったんだよ!やっぱ恋人関係になると警戒心もゆるくなるよな~。おかげで学園長がいつ出かけるのかもすぐにわかったよ。学園長が学園にいると色々面倒になるからほんと助かった!それに城主様にも褒めていただけたんだ〜。礼をゆうぜ!三郎!」
「は?」
言葉が出なかった。
「ちょっと待ってよ!その言い方だと情報を得るために三郎に近づいたってこと!?」
雷蔵の顔が歪む。
「そうだ。何なら勘右衛門でも良かったんだぜ?情報を得れれば何でも良かったし。」
「っ!八左ヱ門!」
「なんだよ三郎。三禁を破ったお前が悪いんだろ?俺なんかを簡単に信じるから、恋に溺れたから。」
「っ!」
「だからってこんな!」
「雷蔵、忍びは駒だ。殿様たちの手となり足となる駒。」
「そんな、」
「あーそうだ。もう一つ礼をゆうぞ三郎。」
狼を膝からおろした八左ヱ門は塀の上に立ち上がった。
「私はさっき言われたこと以外お前に礼をされることをした覚えはないが。」
「あるさ。例えばこれとか」
八左ヱ門が己の顎に手を当て、クイッと親指をたてると顔が剥がれた。
「は?!」
剥がれた顔を、八左ヱ門はどんどん剥がしていく。剥がれていくのはどこからどう見ても変装用の面だ。
面が全て剥がれた。
あらわれたのはとても柔らかく可愛らしい顔だった。
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