ペトラは干草を食(は)み、レイブとギレスラは硬い干し肉を千切って咀嚼しながら明日以降の事を想像し、語り合う、穴ぐらの手前、倉庫内の事である。
取り敢えずの晩餐を済ませたレイブは言う。
「ご馳走様、どうだい? ペトラとギレスラは満足できたかな? 久しぶりに質素なご飯だったからね、大丈夫?」
『ンガッ? ヨユー、ダヨー』
『うん、アタシも大丈夫! だけどレイブお兄ちゃんこそ大丈夫ぅ? 最近美味しい生肉ばっかりだったから歯とか辛いんじゃないの? どう?』
『ソソ、レイブ、ダメカ?』
苦笑を浮かべたレイブは正直だ。
「まあね、歯茎の神経がガクガクいっているけどね、たはは、でも明日からは柔らかいお肉が食べられるからね、安心してよ! 良いかい? 昼間には狩をして夕方からは通路拡張作業だからね? 持って来た干草干し肉は一週間分位しかないからさっ! 頑張って食べ物を集めなくちゃね!」
ふむ、なるほど……
一週間分の備蓄だけを持ってここにやって来たのか。
それって足りないのだろうか?
そんな風に私、観察者が悩んでいるとギレスラが干し肉をクチャクチャ咀嚼しながら核心っぽい事を言ってくれる、ありがたい。
『デ、デモッ、バストロ、ハ、ニサンチ、デ、カエッテクルッテ、イッテタジャナイ? ソンナニ、イルノ?』
なるほどね…… 必要な倍以上の備蓄を準備してここに移って来たって事だね、確かにこれ以上の蓄えは必要無さそうに思える。
ペトラの声だ。
『ギレスラお兄ちゃん! 確かにバストロ師匠の言い付けはその通りだよ? でもさ、今ここには居ないでしょ? バストロお師匠自身がいつもいつも言っていたじゃないの! その場に居るリーダーに従うんだってさぁ! 今ここに居るリーダーは誰?』
ギレスラは赤い顔を更に紅潮させながら答える、多分恥ずかしかったりするのかもしれない。
『ココノリーダーハ… レイブッ! レイブダヨッ! ソ、ソウカ…… ウン、アシタカラ、カリマクルヨッ!』
『でしょ? うふふ』
「頼むね、三人力を合わせて何とか生き抜いていかなくちゃならないからさ! えへへ」
そうか、こうして三人、スリーマンセルの取捨選択、生き方や身の処し方を覚えさせて行く事も、魔術師の師匠から弟子へと伝えていく伝承なのかも知れないな……
試す様なやり方を見れば、考えたくない歴史を容易に思い描けてしまう。
未熟なスリーマンセル達が、その思慮不足によって、どれ程身罷(みまか)ってしまったのだろうか……
願うべきは、この小さな三者がこの試練を生き抜いてくれる事、そればかりだが、果たして……
「じゃあ、そろそろ寝ちゃおうか? ギレスラとペトラは奥で寝なよ、僕はここで見張りながら仮眠をするからさ」
『『…………』』
「なに? どうしたのさ、黙っちゃって」
キョトンとしているレイブにギレスラは答える。
『ココ、アブナイカモジャン、ダカラ、ギレスラモココデネルヨ!』
ペトラも間を置かずに続く。
『うん、アタシも一緒に寝るわ! ホラ良く言うじゃないっ! 生まれた時は違えども死ぬときは一緒! とかなんとか…… だからここで寝るわっ!』
だそうだ。
|暫《しばら》くポカンとした表情で固まっていたレイブは、表情を楽しそうな物に変えた瞬間に笑顔で告げる。
「はははっ、そっかそうかぁ~、んじゃ皆でくっついて寝ようか? まだまだ朝方は冷え込むからね、ギレスラっ! ペトラの大きなお腹が冷えちゃわない様に一緒に暖めようか? 大仕事だぞぉ?」
『ム、ソレハ、オオシゴト、ダゾ……』
『うふふ、頼むわねお兄ちゃん達ぃ、うふふ、うふふふぅ』
「じゃあ、寝ちゃおうか? 明日は忙しいからね♪ ゆっくりおやすみ、ギレスラ、ペトラ」
そのレイブの言葉を最後に、薪(たきぎ)の燻(くすぶ)りが微(かす)かに灯りを点す倉庫内で、身を寄せ合って眠りに付いたスリーマンセルは数回の会話を経て、深い深い眠りに誘われて行くのであった。
お互いの温もりを感じあった三者は、心配の欠片(かけら)も感じさせないほど穏やかな笑みを浮かべて夢の世界に浸って行ったのである。