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その姿勢に背中を押されるように亜佑美はぽつりぽつりと陸人との経緯を話し始めた。
「大学のサークルで知り合って、二年生の夏に付き合い始めて……最初はすごく楽しかったんだ。価値観も合ったし、一緒にいると楽で。毎日充実してたなぁって。でも、付き合って三ヶ月くらい経った頃かな、友達から連絡が来て……別の女の子と居るところを見たって」
その言葉に朝陽の表情が僅かに曇る。
「問い詰めたら、すぐ認めたよ。ごめんって謝ってきて、誘われて断れなかったとか出来心だったとかそんなこと言ってた。その時はね、一回だけならって思ったの。好きだったから。でも、その二ヶ月後くらいにまた浮気してるのが分かって……」
そこで言葉を切ると、マグカップを握る指先に少しだけ力が入った。
「流石に二回目は無理だったから別れることにしたんだけど…………別れる時にね、あの人に言われたの。『お前って可愛いしスタイルも良いし連れて歩くには自慢出来て良いんだけど、それだけなんだよな』って」
朝陽の眉がぴくりと動き、拳に力が入る。
「『退屈なんだよ、お前は』って……」
言いながら亜佑美は肩を竦めて笑う。
「今思うと結構酷いよね。でもまあ、あの頃はまだ若かったし――」
「何なんですか、それ」
急に割って入った朝陽に亜佑美思わず言葉を止めて視線を移すと、陸人の前で露わにしていたみたいに怒りと不快感を滲ませている。
「朝陽くん……?」
「すみません」
そう言いながらも、その表情は険しいまま。
「こう言っちゃなんですけど、あの男の人は救いようの無い人間ですね」
はっきりと言い切った。
「え……」
「だってそうじゃないですか」
朝陽の真っ直ぐな視線が亜佑美に向けられる。
「こんなにも魅力的で優しくて思いやりがあって、人の気持ちをちゃんと考えられる亜佑美さんを選ばずに他の女の人のところへ行くなんて、見る目がなさ過ぎですよ」
断言するようなその声には怒りと呆れが混じっていた。
そんな朝陽に亜佑美は思わず苦笑する。
「それに、亜佑美さんに悪いところなんて、一つも無いんですよ? そんな悲しそうな顔で笑い話にするのはやめてください」
朝陽のその言葉に、亜佑美の呼吸が止まった。
自分では上手く隠せているつもりだった。
もう過去のことだから大したことじゃないのだと。
そう思って話していたはずなのに、朝陽には全部見抜かれていたから。
「……私、悲しそうな顔、してた?」
「してました。だから無理に笑わなくていいです」
朝陽の優しさに、亜佑美の胸の奥がじわりと熱くなる。
ただ真っ直ぐに味方をしてくれる人がいることがどうしようもなく嬉しくて、朝陽のような人が傍に居てくれて本当に良かったと思っていた。
「……ありがとう」
亜佑美がようやくいつも通りの笑みを浮かべた瞬間、朝陽はほっとしたように目を細めた。
「やっぱり亜佑美さんには笑顔が一番似合いますね」
優しく紡がれたその言葉に亜佑美の胸がきゅっと締め付けられる。
(朝陽くんが傍に居てくれれば、いつだって笑顔になれるんだよ)
喉元まで込み上げた想いを亜佑美はそっと飲み込んだ。
そんな穏やかな空気が流れた、その時だった。
ピコンと小さな通知音が鳴るとテーブルに置いていたスマートフォンの画面が点灯し、何気なく視線を向けた亜佑美は思わず眉をひそめた。
表示されていたのは見覚えのないアカウント名で、一体誰だろうと内容を確認した瞬間、その表情が固まる。
「……え」
届いていたのは追加申請の通知で、その相手は陸人だった。
どうやら共通の知人を辿って亜佑美のアカウントを特定したらしい。
思わず画面を見つめる亜佑美の隣で朝陽も通知を横目に見てしまった途端にその表情が曇る。
そして数秒の沈黙の後、ぽつりと零れたのは少し拗ねたような声だった。
「……連絡、取らないでください」
亜佑美は目を瞬かせるけれど、その言葉は不思議と嫌ではない。
「……取らないよ。大丈夫」
そう答えながら迷うことなく申請を拒否して画面を閉じた直後、朝陽ははっとしたように顔を上げた。
管野アリオ
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コメント
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朝陽くんの「悲しそうな顔で笑い話にするのはやめてください」って台詞、胸に沁みました……。過去の傷を無理に笑い話にしようとする亜佑美さんの気持ちと、それを見抜いてまっすぐ向き合ってくれる朝陽くんの優しさがとても丁寧に描かれていて、読んでいてじんわり温かくなりました。最後の拗ねた「連絡取らないでください」も、彼の本気度が感じられて可愛いし、二人の距離が縮まっているのが伝わってきて素敵なエピソードでした🌷