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勿体ぶった言い方をする、とヒルデガルドは彼の後ろの席を見た。


「そこにいる二人組か?」


すると、客として静かに黙っていた二人のうち、背を向けて座っていた若い金髪の男が席を立って、ヒルデガルドを振り返った。


「これは驚いたな。やはり気配で分かるものかい?」


「いや、冒険者みたいな恰好をしていたからなんとなく」


今度は、男と一緒にいた魔導師らしき女が立ち上がって。


「プラチナランクの冒険者ともなるとオーラが隠せないものです。我々の存在を瞬時に見抜けるだけの洞察力はあるようですが」


「いや、だから冒険者みたいな恰好をしていたから……」


自信満々な二人に、面倒な奴らが出てきた、と呆れた息をもらす。


「すみません、ヒルデガルドさん。彼らはプラチナランクのパーティを組んでいる方々でして、世界最強の冒険者……と言っても過言ではないでしょう。紹介が遅れてすみません、あなたが嫌だと断れば会わないつもりだったのです」


若い男は拳で自分の胸をどんっと強く叩く。


「俺はエルン・クロウバード。『竜の巣』の番付表は見たことあるか? そのトップにいるのが俺だ。そしてこっちが二位の……」


「クオリア・ノーマン。魔塔には所属しておりませんが、特別に実力を認められて大魔導師の称号を受けております。以後お見知りおきを」


椅子を持ち寄って同じテーブル席につく。イーリスは「ヒルデガルド、彼らは国から認められた、とってもすごい冒険者なんだよ」と耳打ちする。だが、彼女はまったく興味もなさそうに「なんの用か、簡潔に頼む」と酒を飲んだ。


「飛空艇での件は俺たちも報告書で見たよ。とてつもない量のワイバーンや、通常よりも力の強いコボルトロード……そのうえクリスタルスライムまで簡単に押し退けてみせたそうじゃないか。どんな人か、見てみたくなってね」


エルンはじろじろと二人を見て、フッ、と笑った。


「ヒルデガルド・ベルリオーズ。特にあなたは、知れば知るほど異質だ。ギルドにふらっと現れて魔力測定器の水晶を何個も割って、冒険者たちの悪事を瞬く間に暴き、俺たちよりもずっと早くゴールドランクの冒険者になった。大賢者の名を持つ新人冒険者……そんなうわさを耳にしたときからずっと気になってたけど、飛空艇での事件を知って、なおさら欲しくなってしまったよ」


すっ、と手を出して、エルンは欲しいものを見つけた子供の顔で。


「俺たちのパーティに加わらないか。もちろん、そっちの子も」


差し出された手を一瞥して、ヒルデガルドはまっすぐ彼を見つめて。


「──申し訳ないが、断らせてもらう」


「すみません、ボクもヒルデガルドが興味ないなら」


あっさり断られて意外そうにしたエルンだが、クオリアが「無理そうですよ」と耳打ちすると、がっかりしながらも「無理強いは良くないよな」と諦めた。

そしてすんなり席を立ち、早々に去ろうとする。


「じゃあ、勧誘も失敗したし、俺たちは帰るとするか。機会を設けてくれてありがとう、アディク。ベルリオーズ、あなたにも会えて良かったよ」


エルンは店を出ようとして、ヒルデガルドの傍に立ち──。


「それから、飛空艇のことは残念だった。いつもはあんな事が起きていなかったから、今回は他の冒険者に任せようって断ったんだが、まさかこんなことになるなんて。俺たちがいれば、もっと多くの人を救うことが出来た。いや、誰も犠牲さえ出さないことだって……」


きっと本心からの言葉だろう。エルンが拳を握り締めて震わせているのは、自分の冒険者としての矜持からだ。──だが、その言葉が導火線となって、ヒルデガルドを怒らせたのも確かだった。


「私たちではなく君たちなら結果は違っていた、と。そう言っているのか」


静かな声。クオリアが訝し気に思いつつも頷いた。


「ええ。私たちはプラチナランクのパーティです。他に二人の仲間だっていますし、これまで何度も修羅場を潜ってきましたから……それくらいの自信と誇りはあるつもりです。たとえあなたがいかに優秀であっても、新人には厳しく難しい任務だったでしょう?」


グラスを強く握りしめる手が震える。


「なら他の冒険者はなんだ。君たちにとっては置き物か?」


おろおろするアディクに、エルンは小さく首を横に振った。


「そんなつもりはないさ、ベルリオーズ。でも彼らではワイバーンを倒せなかったのも事実だ。船で捕縛したコボルトたちの相手が関の山だったと本人たちも話していたそうだ。だからこそ俺たちがパーティとして乗り込んでいれば、回避できたことは多い。爆発した飛空艇の動力炉でもクリスタルスライムがいたらしいじゃないか。運よく墜落を免れたようだけど、それも俺たちのパーティには技術者もいるから、調査だって出来たはずだ。つまり、爆発事故さえ起きなかったって自信を持って言える」


彼らの重ねてきた経験から来るだろう言葉に、ヒルデガルドは声を荒げたりせず、ただぽつりと言った。


「君は剣を握って何年になる」


椅子から立ったヒルデガルドは、いつの間にか竜翡翠の杖を握り締めていた。心から、彼らを軽蔑するような視線を送りながら。


「私は立派な魔導師になると決めて杖を握ってから、十年は過ぎた。何度も裏切られ、何度も打ちのめされ、そのたびに立ちあがって、這いずってでも未来にしがみついた。──その経験をもったうえで言わせてもらおう。無理だ、君たちには」


とん、と石突で床を叩いた瞬間、誰もが目を剥いて驚いた。瞬きする暇なく、いつの間にかヒルデガルドの周囲にいた者たちだけが、夜になって閉場された誰もいない闘技場のど真ん中に立たされていたのだ。ポータルを開いたわけでもなく。


クオリアが震えたか細い声で呟いた。


「……転移魔法、ですって? あれは大魔導師ですら扱えない、歴史の陰に葬られた技術のはず。……いったい、あなたは何者なのです?」


「扱えないと決めたのは過去の賢者に過ぎない」


杖を二人に向けて、ヒルデガルドは冷たくも熱い眼差しで。


「プラチナランクの誇りとやらで、私の仲間を侮辱してくれてありがとう。その礼と言ってはなんだが、二度とそんな気が起きないようにしてあげよう」

大賢者ヒルデガルドの気侭な革命譚

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