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「ただいま」
「よし、ちゃんと来たな」
「おかえり、リョウコ。昨日はリョウコにやられた」
佳ちゃんが私の額を指でくいっと押してから自転車を奥に入れる。
「ごめんなさい」
「気にするな、リョウ。お前ごときに引っ掛かる佳佑がチョロいんだよ」
「あー昨日のはチョロい自覚があるから反論できないわ、俺」
「……」
二人で話しているようで私をチラッと見ている二人は、私の反応を面白がるつもりだろう。
そうはさせまいと、私は真顔で聞く。
「自転車預けて帰ればいいの?待っていればいいの?」
二人が揃って、くくっ…と喉を鳴らした時
「久しぶり~リョウコちゃん、どうして怖い顔してるの?」
「恵麻ちゃん、久しぶりだね」
「ね~全然会わなかったよね。元気?」
「うん、元気。恵麻ちゃんも?」
「元気元気。ねぇ、同窓会の案内届いた?」
綺麗に緩く巻いた髪を揺らして首を傾けた恵麻ちゃんがやって来て、そう聞かれた。
「俺も届いた」
「どうして佳佑くん?私たちの同窓会の案内だよ?」
「たまたま同じ日同じ場所。ここで集まれる会場は限られてるからな。俺は高校の同窓会」
「そうなんだ。私たちは中学の同窓会なの。颯佑くん、来てくれるよね?」
恵麻ちゃんは企画した人の中に名前があったかもしれないけど、私ははっきりと見ていないので確かではない。
だって全く行く気が起こらないから。
「俺も佳佑も行く。俺らは大学に行ってないし、ここの友達を大切にしたいのもあるし、あとはここで仕事してるからな。皆に店をもっと知らせたいから」
「そうそう。都内に出た奴にも会える機会だからな、ここのそれぞれの実家で宣伝してもらうためにも行く」
なるほど、お店のいい宣伝になるだろうね。
「リョウコちゃんも来るでしょ?」
「…私は……いいかな…」
「なんで?久しぶりに皆に会えるよ?」
別に会いたくないんだけど……小学校、中学校のいい思い出があまりないもの。
「去年小学校の同窓会にも来なかったよね?皆、会いたがってたよ?」
それは恵麻ちゃんの優しい嘘だとわかっている。
私を‘ヨシコさん’と呼んでいた人たちが私に会いたい理由がないでしょ?
「リョウコちゃん、1回だけ来てみない?」
「…ごめんね、恵麻ちゃん……」
「私が企画に入った時に参加者が多いと嬉しいな」
「だからって無理強いするもんじゃないだろ」
颯ちゃんが言うと、恵麻ちゃんは可哀想なほどしょんぼりとしてしまった。
「リョウコ、これオーケー。乗って帰っていいぞ」
「ありがとう、佳ちゃん」
表に出してくれた自転車で帰ろうとすると
「久しぶりに一緒に帰ろう、リョウコちゃん」
恵麻ちゃんがそう言うので、自転車を押して一緒に家へ向かう。
「恵麻ちゃん、今お仕事の帰り?」
「ううん。仕事はね、夏のボーナスが出た時に辞めちゃった。半年も働いてないからほんの少しだったけどボーナスまでは頑張ったの」
「そう……嫌なことか、何かあった?」
「女の先輩がいじわるだったの。きっと男の先輩たちがみんな私に優しかったから、私にだけ厳しくしたの」
「…そっか……可愛い恵麻ちゃんならではの悩みかな」
「うふふ、そうかなぁ…だから同窓会、たくさんの友達が集まると嬉しいな。リョウコちゃんお願い、来てっ」
両手を合わせて頼まれて断れたためしがない……
‘当番かわって’
‘宿題見せて’
‘教科書貸して’
……こうして恵麻ちゃんのお願いを聞き入れ、私は同窓会へ行くことになった。