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同窓会へは佳ちゃん颯ちゃんと一緒に行く。
恵麻ちゃんは、開始時間より早めに行くと言っていた。
「何かにつけて集まるのはここしかないのを感じると田舎だと思うよな」
「まあ、それが嫌でもないけど」
「じゃあ俺は奥の部屋みたいだから行くわ。二人はここだろ?颯佑、リョウコ放っておくなよ」
「わかってる。ここまで一言も話さないほど緊張しているリョウを放っておくかよ」
二人に見下ろされ
「いやいや、大丈夫。連れて来てくれてありがとうね。二人ともたくさんのお友達と話して楽しんで、お店の宣伝も頑張って」
「それはそれ」
「颯ちゃん、私とは毎日のように話してるから他の人と話さないと」
こうして佳ちゃんと分かれ、私たちは受付へ行く。
「颯佑くん、リョウコちゃん」
「えーすごい…」
「本当に来た」
「さすが恵麻」
「うふふ、でしょ?今日はすごい参加率なの。嬉しいな」
美容室でセットしたのだろうか?
自分であんなに綺麗に髪を巻き上げられるのだろうか?
私は、キャッキャッと嬉しそうにはしゃぐ恵麻ちゃんの後ろ姿を、ざわざわした空気の中で見つめていた。
立食パーティー形式で進む同窓会…こういう雰囲気なんだ……みんな久しぶりに話が盛り上がっているようだ。
もちろんお酒も飲んでおり時間が経つごとに、皆の声が大きくなっていく。
「リョウ、これうまいぞ」
隅っこでワインを飲んでいる私にお皿を持って来てくれる颯ちゃんに
「ありがとう。もうちょこちょこ食べたから大丈夫だよ」
「お前、酒はザルだから心配なくていいわ」
二人でひとつのお皿のハワイアンモチコチキンや丸めたクリームチーズにサーモンを巻いたピンチョスなどのフィンガーフードをつまんでいると
「ヤッホー食べてる~飲んでる~?」
ご機嫌な恵麻ちゃんが、颯ちゃんに飛び付くようにやって来た。
「げっ、酔っぱらい」
颯ちゃんが慌ててグラスを避けると
「あははっ、マジで恵麻飲み過ぎ」
ワイワイと……一瞬のうちに颯ちゃんは数人に囲まれた。
さすがに今日ここで‘ヨシコさん’とは誰にも呼ばれなかったが、目が合えば
‘久しぶり。元気?’
というやり取りをする以上に話が弾む訳でもない。
幸い今は出入口付近だ。
私はグラスを置きそっとお手洗いに向かった。
ゆっくりとお手洗いにいたが、もうそろそろ戻ろうか……颯ちゃんに帰ると伝えて帰ろうかな。
恵麻ちゃんもたくさんの参加者で喜んでたし良かった。
もういいよね?
お手洗いを出て、先ほどの出入口から部屋に戻ろうとすると
「どういうことだ?」
颯ちゃんの恐ろしく低い声が聞こえ、私は思わず立ち止まった。
「颯佑、何苛立ってんだよ」
「そうだよ~みんな知ってるよ。恵麻ちゃんが‘良い子のヨシコさん’って命名したって」
「でも恵麻ちゃんは颯佑やヨシコさんとご近所過ぎて表面上は‘リョウコちゃん’と幼なじみを演じてる訳だよ。健気だろ?」
「ヨシコさんや間宮くんのいないところでは‘ヨシコ’って呼び捨ててるよ、恵麻は」
「も~お~みんな言い過ぎ~飲み過ぎじゃな~い?あははっ」
最早、考えることを放棄した脳は、ただの音として恵麻ちゃんの高笑いをキャッチする。
「小学校1年か2年くらいの時にヨシコさんの誕生日を5月5日ってみんなに教えて‘男みたいで可愛くない日だよね?’って言ったのも恵麻ちゃん」
「そうだよ~あの時はビックリしたよ…忘れられないわ。‘先生’って恵麻が言うんだもんなぁ」
「私、めっちゃウケてた」
「俺も」
「「「「あははっ」」」」
「何のためだ?理由は?リョウになぜそこまでする?」
大きな笑い声を一瞬にして黙らせる、低く静かな颯ちゃんの声を聞きながら
‘もう十分’
私は会場をあとにした。